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【roots2】 《20章》目でなくても見えるもの・2

「神経を使うでしょ。少し横になったら?」
とルビーが言うと「うん。じゃあ、ここで」
とソファーで横になった。
「ゴロんって落ちない様にね」と言って膝掛けをかけてルビーは家事をしだした。
カチャカチャとお皿を洗う音、パタパタとスリッパで小さく走る音。
デイブは穏やかな気持ちで眠りについた。

ルビーの小さな鼻歌が聞こえて、ふんわりと石鹸の匂いがした。目を覚まして体を起こすとすぐ近くにルビーがいて「起こしちゃった?」と言った。驚かせてしまったかな?と急いで
「ううん。いい香りだね」と言うと。
「あ、今ね洗濯物を畳んでいるの」と微笑んだ声が聞こえた。
「なるほど、歌も良かったよ」とデイブか笑うとルビーがいつもの様に鼻をつまんだ。
つぶれた声で「本当だよ〜」と言うと「ウソウソ、タンスにしまって来るね」とルビーは寝室に仕舞う分を持って立ち上がった。
急いで寝室に入ると声を殺して泣いた。
こんな時に6歳…いつもの様にデイブに接する事が出来る幸せがこみ上げて、堪えきれなかった。
デイブはルビーがせっかく畳んだ洗濯物を散らばさないようにソファーの上でジッとしていた。
ルビーはデイブが姿勢良く真っ直ぐに動かずに座っている姿にまた涙がこみ上げてきてた。深呼吸してデイブの側にある洗濯物を全部抱えると「お気遣いありがとう。これで全部だからもう大丈夫よ」と言った。
デイブはルビーの声がちょっとおかしいと感じて、泣いた?と思ったけれど。
自分の小さな気遣いも何も言わずに理解してもらえている事をありがたいと感じて。
涙については言わずにいようと飲み込んだ。

「ずっとそうして気を遣って体を硬くしていたら疲れるでしょ」とルビーが言うと。
「大丈夫だよ。じっとしていると色々な音が楽しいしね」なるほどなるほど。とルビーは質問を続けた。
「動くとあちこち体をぶつけちゃう?」
「ルビーみたいに元気に歩いてないから大丈夫」
「私そんなに忙しない?」とルビーが笑うと
「パタパタパタってスリッパの音が軽快なんだ」
と楽しそうなデイブの姿に嬉しくなって。
「耳が良いのね」とルビーが言うと
「音や匂いを集めてる。楽しいよ」
デイブがそう言うとルビーはソーっとリリーのクッキーを鼻の近くに持っていった。デイブが
「お茶にしようか!」と足をぴょんと持ち上げて言うと「正解!!」と言ってクッキーをデイブの口に運んだ。
コーヒーも良い香り。
デイブがこぼす事を考えて、あまり熱すぎないように淹れてくれているのが持ち上げたマグカップから伝わった。
「ありがとう。頂きます」

デイブの生活はこんな風。
トイレも風呂もどこに何があるのかを理解していれば、そんなに失敗は無かった。
風呂上がりに着替えを用意してもらって、たまにまだ泡がついていると拭いてもらう事があったけどそんなに不自由はなかった。
食事はきっと綺麗に食べられてはいない。テーブルは荒れているかもしれない。
でも、ルビーのフォローで楽しく食事が出来ている。
歯もきちんと磨けるし、髭も電気シェーバーで剃れた。髪にドライヤーもかけられる。
今までもTVも見てなかったし、パソコンも使っていない。書く事で時間を使っていたんだとしみじみ感じて、持て余す時間があった。
ルビーがデイブも役に立てるようにと、自分のドライヤーや肩たたきを頼んでくれる。
最近はコーヒー豆を挽くのも頼んでくれる。カリカリとした音と香りが癒された。
耳を澄まして鳥の声やルビーの小さな鼻歌を楽しんだりも出来る。
デイブは大人しく話さない方なので元々家の中は静かだった。

みんなが階段を登ったり降りたりする音も良く聞こえた。足音で誰だかわかった。
「ディラン、階段で来たの?エレベーターを使ってよ」とデイブに言われてディランはビックリした。「体のために階段がちょうど良いんだよ」
ディランは言ってデイブの正面に座って
「デイブ目だけど。このままで良いのか?」と真っ直ぐに聞いた。声の強さでどれだけ心配しているのか伝わった。
「そんなに不自由してないし、最近さ、見えてなかったものが見えてるんだよ」と微笑んだ。
「また…お前は。」ディランが深いため息をついた。デイブは
「コーヒーを飲む?豆挽きたてなんだ」と話を変えた。
「じゃあ、頂こうかな」
「うん!でも、これはルビーに頼まないとなんだ」と言って元気よく「ルビー!」と呼んだ。すぐに「はぁ〜い!」と洗面所から出て来ると
「あら!ディランいらっしゃい!お茶いれましょうね」と弾んで言った。
「コーヒーが挽きたてなんです」とデイブが自慢げにミルを持ち上げた。
「それは最高!」とミルを受け取ると楽しそうに台所へ移動して行った。
すぐにコーヒーの良い香りが漂い出した。
ルビーは3人分のコーヒーをトレイに乗せて運んで来た。
「ディランのは熱いです。デイブのは大丈夫よ」と言ってデイブの手を取りマグカップを触らせた。「ありがとう」とデイブが微笑んだ。
その2人の様子を見て「ルビーが良くやってくれてるんだね」とディランが褒めると「デイブがこうしてやってくれるからよ」と嬉しそうに答えた。
ディランは噛み締めるように
「良かった。ホッとしたよ。2人らしくいられてるならそれで…」と何度もうなづいた。
ディランの声から心配が消えたのが分かるとデイブは「ディラン、釣りには行ってる?」と聞いた。「あぁ、たまにね」
「今度僕も誘ってよ!釣りなら目は関係ないんじゃないかな。手でこう…感覚でさ」
「そうだな。大物を釣りに行こう」
「あのさ…水はどう?」デイブの心配はそこだった。自分が濁ってしまったと感じていたから。
「たっぷり透明だよ」と優しく答えてくれた。
「そう…良かった」と明るく返事を返すと「デイブの顔が見れて安心したよ」とディランの落ち着いた声のトーンにデイブもきちんと座り直して「ディランごめんなさい。もう皆んなを守れるかわからないのに一緒にいてもらって」と言った。
「1人じゃない生活は初めてだ。皆んなと居させてもらって幸せだよ」と優しい声を掛けてくれた。
ディランはいつも優しい。そのままで良いと思わせてくれる。
目で見えるものがなくなって日常も心の中も穏やかになっている。信じられる人達に囲まれて心が通っていると実感出来る。そんな毎日に感謝していた。目が見えなくなって、見えているものの怖さを知った。
今は心に聞いて行動出来る。デイブは安心感に包まれていた。

デイブの大き過ぎる犠牲によって本当に平和を手にしたのか?これで安心なのか?
目では足りず、耳、口、手、足…と次々に食い尽くされないのか?

チェイスの目的がなんなのか。
誰にもわからなかった。

to be continue…
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五感を使って敏感に受け取ると
細やかな思いやりが生まれるんだね📙☕️

毎週水曜日更新📙✨

ワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀
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