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【roots2】《27章》はじまり

御伽話のような昔々の話
人と自然が調和し神々が宿ると信じられている時代。豊かな森林を有する小さな国があった。
主人と民、全てが家族のような温かな国だった。

若い王と王女に初めての子が生まれる。王子だった。王は健やかな成長を願って聖なる森に植樹をし、森の神に守護を祈祷する祭事を開いた。
民の全てが森に集い王子を囲んで喜びに包まれていた。
そこへ邪悪な鬼がやってきて王子に呪いをかける。鬼が放った炎により王子は背中に火傷を負ってしまった。
「王子を守りたければ国と全てを差し出せ。さもなければ王子は呪われた鬼になる」と言い放った。
怯える民と苦しむ王子を抱えて王は決断を迫られた。

王と王妃は誰にも見られる事の無い地下室に王子を隠し、背中の治療をし続けた。
王子の存在を知るのは信用出来る僅かな使用人のみ。その上で周囲の者にも王子は亡くなったと話し。大々的に葬儀も行った。

鬼に国を差し出さず我が子も守るためにと考えた若い王の策はいとも簡単に鬼に嘘だと暴かれてしまう。

王妃は森の奥に住む国で最高齢の老女に相談に行った。彼女は秘儀を持つ魔女だと言われていた。
噂では盲目だと聞いている。ほとんど灯りの付いていない室内に薬草の匂いが漂っていた。
しかし躊躇している場合では無い。王妃は小さな老女に膝まづいた。すると
「異世界で生きてゆかせる術がないわけでは無い」まだ何も言わないうちに老女が口を開いた。
「ど、どんな事でもいたします」王妃は必死に頼んだ。「この国の事は忘れ、ただ何処かで生きる事は出来る。ただし。呪いは解けない。鬼に見つかれば苦しむだろう」老女の声には感情が無くそれがどういう事か王妃にはすぐに理解出来なかった。王と相談してまた来ますとその日は城に帰った。
「見つからなければ大丈夫なんでしょう?生きて…逃してやりたいんです!」
王妃が王に懇願する。王は「私たちの初めての子をそんな何処かもわからない所へ…手放すなんて出来ない!」と拒んだ。

地下室はますます厳重な管理下になり数年が経った。小さな明かり取りの窓が手の届かない場所にひとつついているだけの暗い地下室で王子は大人しく無表情の子どもに育っていた。王妃は不憫でならず、次の世継ぎを考えることは無かった。

10歳の誕生日が近づいたある日。
鬼が王の前に姿を現した。
「お前たち。俺を騙し続けられると思うなよ!!王子の心は俺の思った通りに闇に喰い尽くされているだろ?あと少しで鬼になる。あと少しでな!!」
王妃はもう一度魔女の元へ駆け込み
「せめて、何処かで、子どもらしく。人間らしく生きられるなら!!」と魔女に頼んだ。
魔女はゆっくりと王妃に近づいて
「守り番と案内人。護符を用意するんだ。そうだねぇ。出来るだけ王子と年齢が近い者を用意しとくれ」と言った。

城へ帰り、すぐに王へ話すと。無気力な王子の姿を見るのも辛いと旅立たせることを決める。
守り番は親子で城の獅子門の門番をしている少年を選んだ。王子と同じ年頃で王に従順な礼儀正しい子だ。
案内人は王子と同じ日に生まれた庭番の末娘を選んだ。王子は人とほとんど交流をしたことが無い中で唯一乳母が一緒でほんの少しの間だが共に過ごした事のある子だった。
護符は生まれた時に植樹した木の葉をお守り袋に入れてズボンとシャツに縫い付けた。
そして身分が判らぬように紋章を少し変えた記帳本3冊を用意して肩から下げる袋にそれぞれをいれた。

幼い3人を連れて夜の森を歩き、魔女の家を訪ねた。3人は何も理解せぬまま王、王妃、父母の手を離し魔女に連れられて地下室へと降りて行った。
松明一つ壁にあるだけの暗く湿気の匂いがする廊下で魔女は止まった。
「いいかい?よくお聞きき。老婆は二度は言わない。」3人は息をのんだ。
「このドアを開けたら。もう二度とこの国には戻れない。3人で助け合って生きていくしかない。
何があっても3人は一緒で何度でも出会える」
「どういう事?」門番の少年が聞いた。
「お前たちは運命の子。まずは守り番。お前から行く。姿形が変わっても王子を守る為に生きるんだ。一度人になれば、その後も人になれる。
ジタバタするな。いいか。お前がする事は一つ。王子を守る。学ばせて生き抜ける様にする。それが守ると言う事だ。いいね」
「ぼ、僕にそんな事…」
「やるんだ。」魔女は一言言うと、王子と少年の手を繋がせた。
「2人の絆は何者にも引き裂く事は出来ない。」そう言うと2人の背中に手を当てて呪文を唱えた。
全てが始まって止まる事は出来ないと悟った2人は目を見合わせてうなづいた。
少年は覚悟を決めてドアへ入って行った。

「さて、案内人は女の子かい。とにかく導いてやる事だ。王子がどんな人間になるのかはお前さん次第だよ。この様子じゃあ、生きるって事が何なのかもわかってない。日の光りも知らない。心で見ることを教えてやるんだ。愛をね。わかるかい?」
「愛なんて…考えたこともないわ」と少女が言うと「まぁ、そうだろうね。でも、この先。何度生まれ変わっても一緒だ。それは変えられない。だから王子を愛することだ。王子が死を選ぶならお前さんも一緒。それでまた生まれ変わる。不思議だろうが決まってる事だからね。王子はお前さんを忘れてもお前が愛してやるんだ。それが役目」
魔女は淡々と言う。
「仲良くなれるかもわからないのに?」
魔女は初めて感情を出した。ふふふと笑って
「この清らかな者を愛で満たす者として生まれて来たんだろ?知ってるはずだ。導き手であるとな」と言った。
魔女は少女と王子の手を繋がせて「2人の絆は何者にも引き裂く事は出来ない」と言ってさっきの少年と同じように背中に手をやり呪文を唱えた。
少女は少し怪訝な顔で王子を見た。王子は表情の意味がわからずただじっと少女を見つめた。
少女もドアを開け行くしか無かった。

王子は気力の無い顔で1人廊下に残った。
自分と同じくらいの背丈の魔女が背中をさすり、お腹に手を当て、長い呪文を唱えるのをただされるがままに立ちつくす。
「なんでここにいるのかって顔だね」と魔女が言うと「はあ、まぁ」と答えた。
「ずっと暗い地下室で生きるのか。広い世界ってものを知るか。どうしたい?」
「考えたこともないです」
「口がきけりゃあ大丈夫だ。とにかく行って見てくるんだ。それから、自分できめな。鬼に魂も肉体も国から何から捧げりゃあいい。きっと2人が助けてくれる。」
「僕はどうすれば?」
「いい人生にしな。全て自分次第だ。もう…」
ドン!!ドン!!一階のドアから物凄い音がした。
「まずい。鬼が来たようだ。急ぎな!!闇に飲み込まれるな。国王と王妃の愛がお前さんを守ってくれる。行け!!」
魔女に目の前のドアに押し込まれた。王子が振り返った瞬間。
一瞬鬼と目が合った。ドアは閉められたが間に合わなかったか。何か起きてしまうかもしれない。
「王子よ。守り番と案内人と生き抜いて沢山のものを手にするんだ。王子の豊かさがこの国の清らかな流れとなる。途絶えさせるな!!」
魔女の叫びが廊下に響いた。
ドアの向こうにいる王子にはもう声は届かない。

王子は暗くて長い廊下に何故連れてこられたのか。ここはどこで。どうしたら良いのか。
しばらく動けず、ただ立っていた。
その後どうしたのかは誰も知らない。
(注・魔女の記した日記による)

国王と王妃は2人の子どもたちの父母を伯爵として城へ招き入れ生涯心を尽くして感謝を注いだという。
大切な子どもを旅にだしたという絆で支え合い、国は変わらず平和で温かで豊かであった。
森はますます豊かに育ち、空気も澄み、国民皆が健やだった。
国王は神聖な森によく話に行き幸せを願っていたと言う。
王と王妃は子を持たず、国はこの代で絶えてしまった。

まことしやかな噂話を一つ。
いつか三人の子どもが帰って来るかもしれないと自分たちの愛を込めた品々を石の棺に入れて埋め。
王子の生まれた日に植えた木「サイラス(森の主)」と名付けその上に移植した。王は毎日サイラスに「三人を助けておくれ。私の代わりに三人を守っておくれ」と話しかけ続けたという。
サイラスは巨木となり、樹としての寿命を遥かに過ぎても聖なる木として森に立つ。
この伝説が三人に伝えられる日まで生き続けるのだろう。
                     述

古い古い伝説。物語かもしれない。これが全て実際の記実だとは思えない。
でも、デイブとオーウェンには充分すぎる「真実」だった。心が震えて息をするのも忘れてしまいそうだった。
デイブの目からは何とも知らない涙がポロポロと流れ落ちた。

to be continue…
*******

放り出されたように立っていた
あの日の廊下のわけがわかりました📙☕️

毎週更新📙✨

ワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀
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