見出し画像

【roots2】 《18章》彼は

デイブがチェイスを消し去ってから1か月ほどが経ち皆平和に穏やかに暮らしていた。

ルビーは再び街のカフェで働き出してデイブは新聞のコラムを書く準備を始めていた。

その中でルビーは1人誰にもいえず、デイブの違和感に悩んでいた。
恥ずかしがりやで正直で純粋で無邪気な。
それしかなかったデイブの6歳がすっかりどこかに行ってしまった。
大人なのだからと言われたらそうなのだけど、清らかな者であるデイブとは違う気がした。

例えば、毎日カフェに迎えに来る。
髪も服も全く頓着無かったはずなのに、毎日オシャレをしてキレイに整えている気がする。この間はカフェの子全員にチョコレートを差し入れたりした。帰り道、女の子に声を掛けられて手を振り返したり。こんな社交的だったかしら?

家の中でも風呂上がりに上を着ないでウロウロしたり、やたらとルビーにくっついて来る。
恥ずかしがり屋はどこへ行ったのかしら?
今回の旅で「6歳だから」ってすっかり言わなくなった気がする。

どうしても気になってオーウェンに相談してみた。

「気にしすぎだろ?元々デイブはハンサムだし、2人はいちゃいちゃしてたじゃないか」と笑われた。
「そう。オーウェンは感じてないのね」
ルビーの不安そうな返事に
「それとなく観察してみるよ。何を心配してる?」オーウェンがルビーの心配の種に切り込んだ。
「デイブの中にチェイスがいるんじゃないかしら?あの消え方…突然すぎると思わない?」
オーウェンも確かに何で消えたのかわからない、確証が無いと感じていた。
「それに、帰って来た時…綺麗すぎたわ…」
確かに…あの煙の中から出て来たなら煤けていてもおかしくない。でもデイブは汚れひとつなかった。
「わかったよ。よく見てみる。気になったらすぐに話すから心配ばかりしてないで」とルビーに心配かけないように微笑んだ。

*****
オーウェンはコラムの打ち合わせと言ってデイブを呼んだ。
「最近体はどう?」
「元気だよ、変わりない」
「良かった、コラムだけど、どんなの書くか決まったか?」オーウェンは何気なく話を進めた。
「日常かな…毎日だろ。その方が書きやすいかな…」
「そうだな、まずは一週間分書き溜めて。その後は1日づつ。そうやってストックがあれば安心だろ?」
「なるほど」
「すぐ書けそう?」
「わかった。夕方までに一週間分」
「お!待ってるわ。今日は家にいるからさ」
「じゃ夕方、ルビーの迎えに行くから。その前に寄るよ」とデイブが言った。
「毎日迎えに行ってるのか?」
「あぁ、心配でね」
「心配って?何かあったの?」オーウェンが聞くと「だってさ。ルビー、キレイになったって思わない?」と大真面目にデイブが言った。
オーウェンも大真面目に「前からだろ」と返事をして笑うと。
「いや、最近ますますキレイになったよ。あの店の常連客がやたらと親しげでさ。帰りが心配なんだ」「へぇ〜」とオーウェンに言われて。
デイブは頭をかきかき「この間さ、ルビーのお迎えの途中でチョコレート店がオープンしてて。強引に店員の女の子たちに引き摺り込まれて買わない訳にいかない雰囲気で…」「買ったんだ?」「6箱入り」オーウェンは吹き出して「それは、それは」と言った。
「ルビーの店の子がちょうど6人で助かった。街を歩くのも久しぶりだから調子狂うよ」
「なるほどな、断れない性格ね」オーウェンがクスクスとうなづくとデイブはまだまだあるよとばかりに張り切って続けた。
「それにさ、しばらく見なかったら街の人ってオシャレになったよね!カルチャーショックだよ。」
「で、オシャレして出掛けてるのか?」
「ボサボサ頭の冴えない奴じゃルビーと釣り合わないじゃない。しつこい常連客の抑止力にならない」と寝癖頭にくしゃくしゃ手を入れた。
「大変だな、ご苦労様だ」とオーウェンが微笑むと。
「だからさ、コラムのネタは沢山拾えるよ」
とデイブが嬉しそうに答えた。
「そりゃあ良い」
「じゃあ。書いて来るね」デイブは片手を上げて上に上がって行った。

ルビーの悩みは取り越し苦労じゃないか。

オーウェンは心の中で良かったなと思わず微笑んだ。ただ、チェイスの消え方はオーウェンも府に落ちていなかった。

夕方デイブが6本書いて持ってきた。
「読んでおくよ」とオーウェンが言うと「じゃ!行って来る」と立ち上がって白い春物のロングコートを羽織った。背が高いデイブがさらにスラリと長身に見えた。
「色男だな。行ってらっしゃい」とオーウェンが冷やかすと「やめてよ!」とデイブは顔を赤くして身をかがめ階段を降りて行った。
オーウェンはクスクスと笑って「心配ないな」と呟いた。

ルビーの仕事が終わる時間の1時間前に着いてしまったデイブ。
道の向こうからカフェのウィンドウを眺めてルビーの働きぶりを見るのが好きだった。明るく爽やかな笑顔で誰にでも親切だ。
「カフェ・オ・レでも飲んで待つかな」店に入って列に並んだ。
デイブの2人前にいる男がカウンターに乗り上がるほどルビーに近づいて注文していた。
コーヒーを受け取るのにルビーの手を両手で掴み仕事上がりの時間を聞いていた。
ルビーが「お客様、次の方がお待ちですので」とやんわり断っているのに男は引き下がらない。
デイブはつかつかと前に行き、顔色も変えず何も言わずに男の腕をつかんで、そのまま外へ引っ張り出して道に放り投げた。
ルビーが急いで男が注文していたコーヒーを持って駆けて来た。
「デイブ!何してるの!?」
デイブは振り向いて「この人のコーヒー?」とルビーから受け取ると男の頬につけて差し出し。
反対の耳に口を寄せて「2度と来るなよ」と静かに言った。男は立ち上がってコーヒーを受け取るとすぐに居なくなった。

「私は…大丈夫よ」とルビーがその様子に戸惑って言うとデイブは立ち上がってルビーの手を取るとニッコリ微笑んで店へと連れて入った。

デイブは何もなかった様にカフェ・オ・レを頼んで店内で飲んでいる。普通で考えたら、困ったお客を撃退してくれたって事なのかもしれないけど。デイブで考えたらあり得ない。
人を投げ飛ばすなんて…それで無かった様にしているなんて…。
「彼、カッコ良かったわね!」とお店の女の子たちに言われても素直に喜べなかった。

帰り道「デイブ、どうしてあんな事したの?」
ルビーが聞いた。
「どうしてって?迷惑だった?」
「そうじゃないけど…らしくないから…」
「僕らしいってどんな風?」
「やめて下さい!って言うとか…」
「なるほど、暴力的だったから嫌だった?」
「いやっていうか…」
「僕らしくない?」「うん。すごく」
「僕らしいか…」デイブはクスリと笑った。
何?とルビーがデイブを見つめると
「この服も髪も毎日迎えに来てるのも僕らしくないだろうね」と頭をくしゃくしゃにした。
「ちょっと背伸びし過ぎたな」
「え?」
「ルビーに釣り合う男にならないとって思って、頑張っちゃった」
「何それ!?」ルビーが呆れているとデイブは
「久しぶりに街に来たらさ、みんなオシャレで。ルビーに近寄るな!って言うならボサボサでヨレヨレじゃダメだって思って」と恥ずかしそうに言った。
「そんなこと毎日思ってたの?急に?6歳みたいに?バカみたい!!」ルビーが手足をバタバタさせて言うと「バカなんだって知ってたでしょう」とデイブが笑った。
「あー心配して損した!!」ルビーが肩を落とすと「心配って?」とデイブが聞いた。
「もうっ、はい!歩いた歩いた!」
ルビーはホッとして笑いがこみ上げて来た。
「ねぇ、久しぶりにさ。週末にサイラスに会いに行かない?」と誘うと「コラムの締め切りが間に合ったらね」とデイブは言った。
「私1人じゃ行けないから、時間作ってね」
「努力するよ」と微笑んだ。
土曜日も日曜日もデイブは行けそうもないと断って来た。「じゃあ、来週ね」とルビーが言うとデイブはニッコリとうなづいた。


to be continue…
*******

皆さま雪は大丈夫ですか?
くれぐれもお気をつけて下さいね🍀

いつもrootsを読んで頂きありがとうございます。

年末のため今回だけ火曜日に更新いたしました😊
毎週水曜日更新📙✨

ワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀
#長編小説roots #長編小説#小説#挿絵#イラスト#ワクワク#ドキドキ#喜び#幸せ#月ノ羽音#roots

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?