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西野カナで学ぶ自己プロデュース能力

皆様は西野カナをご存じですか?
「会いたくて会いたくて」や「トリセツ」などのヒット曲を持ち、女性を中心にすさまじい人気を誇る女性シンガーソングライターです。
ただし女性人気とは裏腹に、女性の共感を呼ぶような歌詞を嘲笑する風潮もあるように感じます。
文芸評論家の加藤典洋も「出来合いのファストフードみたいな歌詞」といったことを言っていますしね。
ただ、西野カナを聴けば聴くほど彼女のセンスの高さに驚かされるんです。
そこで今回は、「西野カナで学ぶ自己プロデュース能力」と題して彼女を紹介していきます。

※本記事はうがった見方で西野カナを紹介する記事です。純粋なファンの方にはおすすめできないかもしれません。

初期はかっこいい系

「会いたくて会いたくて」や「トリセツ」の様な楽曲のイメージが強い西野カナですが、デビュー初期は今と結構イメージが違います。

こちらは2008年にリリースされた2ndシングル「glowly days」

イントロからきらきらと鳴るエレクトロなサウンドとそれに重なる儚げなメロディー、極めつけは跳ねる様にかわいく奏でられるピアノ。


いやーーーーーーー、おしゃれ!!


「春風」をテーマに制作されたシングルらしいんですが、まさしく春のような心地よさが全体を覆っている名曲です。

徐々にキラキラ系に

初期はおしゃれな歌を歌っていた西野カナですが、その音楽は徐々に陽キャ女子の共感を呼ぶような雰囲気を帯びだします。

こちらは2010年にリリースされた10thシングル「会いたくて会いたくて」です。

先ほどの「glowly days」と比べるとJ‐Pop的なサウンドになり、メロディーも素直になりました。
「会いたくて会いたくて震える」という歌詞もかなり直接的で分かりやすいですね。

そしてそんな本作はオリコンで2位を獲得。売り上げ枚数も10万枚を超え、着うたや着うたフルに至ってはわずか3か月で100万ダウンロードを記録するという大ヒットを記録します。

ヒット曲を書く才能

「会いたくて会いたくて」の様なヒット作を生み出す西野カナですが、個人的に彼女の魅力は「曲そのもの」というよりも「曲を書く才能」だと思っています。

西野カナの楽曲はほとんどすべてを彼女本人が作詞を担当していますが、この作詞の方法がかなり興味深いんですよね。

彼女は作詞をする際、楽曲のコンセプトや登場人物の設定、どの層に売りたいか、などをまとめた「企画書」を作ります。
そしてこの企画書をもとに詞を書きだし、最後に友人や知人にアンケートとして「共感できるかどうか」などを聴いて回るそうです。

この手法は「作詞」というよりもむしろ「マーケティング」だと思います。

どの層に売るかを細かく決め、登場人物の設定まで綿密に行うというのは、ペルソナマーケティングと言っても過言ではないでしょうし、それを音楽にするというのもある種のストーリーテリングなのではないかと思います。

ちなみに、先ほど紹介した「会いたくて会いたくて」の歌詞についても、西野カナ本人の恋愛観とは対照的である旨がインタビューにて語られていて、実体験をもとに書いているわけではないということが分かります。

「相手からなんにも言われなかったら自分から告白して、答えがNOだったら、いさぎよくおしまいにするかな」

もちろん、「作詞」は実体験だけを書かなければならないものではないし、常日頃から感じていることだけを書かなければならないものでもないです。
ですが、ここまで売れることにこだわり、マーケティング的な作詞方法を取るアーティストも珍しいのではないでしょうか。

この作詞の手法に対しファンからは「ネタを集めているだけ」や「薄っぺらい」といった批判もあるようですが、私にとってはこの手法がすごく面白いと感じたんですよね。

というのも、このマーケティング作詞法、結構難しいと思うんです。

作詞って難しい!

そもそも作詞って難しいものなんですよ。

メロデューやサウンドという制限の中、自分の頭の中にあるものを言葉に落とし込むのって難しいんです。
ましてそれがマーケティング、つまり「売るための作詞」になると輪をかけて難しいように感じます。

というわけで彼女の書く歌詞を見ていきましょう。

会いたくて 会いたくて 震える
君想うほど遠く感じて

これは「会いたくて会いたくて」のサビの一節です。よく「薄っぺらい」などとネタにされている部分ですが、興味深い歌詞であるとも思います。

これ、歌ってもらうとわかるんですけどめちゃくちゃキャッチーなんですよ。
一回聴いたらすぐに覚えることが出来るほど分かりやすい。このメロディーにはこの歌詞しかないって程ばっちりはまってる。

しかも彼女はこれを「感覚」ではなく「マーケティングにおける論理」で作詞してるんですよね。

別れた元カレが今でも好き、そして元カレには新しいカノジョがいる。
そんな設定を緻密に緻密に組み立てたうえでのサビ「会いたくて会いたくて震える」

西野カナの才能にこっちが震えるわ。

メロディーやサウンドという制限の中、売るためのマーケティングをしつつもしっかりキャッチーで覚えやすいフレーズを使う。これって凡人にできることではないと思うんですよね。

とにかく、西野カナに共感を覚えていた女性も、それを嘲笑していた男性も、そのすべてが西野カナの思い通りになっているように感じて彼女の「売れる曲を書く才能」に敬意を表せざるを得ません。

西野カナはアーティストである

先ほど彼女の詞は「作詞」というより「マーケティング」だ、という様な事を書きました。
それについて「じゃあ西野カナって”アーティスト”っていうより”ビジネスマン”なんじゃない?」と思われた方がいるかもしれませんが、とんでもない。彼女は紛れもなくアーティストです。

というのも、彼女、シングルの表題曲はヒットを狙った曲を書きますが、カップリング曲ではかなり自由に曲を書くというスタイルをとっています。

こちらは10thシングル「会いたくて会いたくて」のカップリング曲「Grab Bag」です。

いやーーー、硬派。

さっきまで会いたくて震えていた人とは思えないほどクール。
もはや好きな人を思う寂しい乙女心なんてものはなく、自分を持った強い女性といった印象を受けます。

せっかくなのでもう1曲カップリング曲を紹介します。

こちらは12thシングル「君って」のカップリング曲「GIRLS GIRLS」です。

「君って 君って 泣いたりしないんだね」
そりゃこんなクールな歌を歌う女性は簡単に泣いたりしないでしょ。

西野カナはもともとレゲエが好きで、日本のポップスはほとんど聴かないということをインタビューで語っています。

日本のポップスとかはあまり聴かないですね。逆にジャパニーズレゲエとか、ちょっとインディーズっぽいのが好きです。

この発言からもわかる通り、西野カナにとって本当にやりたい音楽はカップリング曲の方なんだと思います。

ただ、この音楽では売れない。売れなければやりたい音楽すらできない。

だからこそ表でヒット作を書きつつ、裏で自由にやりたい音楽を奏でる。

よく、やりたい音楽では売れずに仕方がなく売れ線の要素を取り入れるアーティストはいますが、西野カナほどヒット曲とやりたい音楽をきっちり分ける人も珍しいと思います。

とにかくこのバランスの良さ。マーケティング能力の高さ。やりたい音楽にかける情熱には感動すら覚えます。

彼女は「成るようにしかならん」という座右の銘を持っているらしいのですが、しっかり成ることが出来るようにやることをやってきたんだなぁと。そう思います。

余談

私の知り合いに四六時中ナンパばっかりやってる男がいるのですが、彼にどうしたらモテるのかを訪ねると、彼はこう答えました。

「西野カナの”トリセツ”を聴いて女心を学べ」

この曲はリリース当初「女版関白宣言」とか「いやいや、関白宣言の足元にも及ばないでしょ」とか賛否があったわけですが、真剣に聴いてみるとあまりにも客観的に女心を捉えた歌詞がすごいんですよね。そりゃ女子受けするわって歌詞。メタ認識かよ。

当時の私は「西野カナって自分を客観視してそれを言語化できる人なんだなぁ。頭がいいなぁ。」くらいにしか思ってなかったのですが、裏に彼女の緻密なマーケティングがあることを知ったとき、「これは確かに女心を学ぶには最適の教材だな」って思いました。

現在、西野カナはご結婚なされて無期限活動休止中ですが、彼女が復帰した後、家庭を持った彼女がどの層をターゲットにどういうテーマで曲を書き、どんな共感を呼ぶのか、すごく楽しみです。


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