浪人。

三十までにこれからの方向性を決める。

そんなことを決めたのは確か十九か二十の時

きっかけは小説のセリフだ。

確か、その時は九階の教室の後方に座り

水曜二限のつまらない大学の講義をBGMにして

物語の世界に魅了されていたのは

今になっても鮮明に思い出せる褪せない記憶。

チェーンの古本屋で手に取ったのは偶然だった。

けれど背表紙に書かれた内容紹介に惹かれたのは

もしかしたら、心に合う言葉と出会う為の

必然だったのではないか、って思うことがある。

それは嘘ではなくて、バイブルになった。

もう七、八年が経過しているけれど未だに

年に数回は読み返すほどに心酔している。

最初に読み終わった時に見えた風景は鮮やかで

感慨深く、窓から見えた青空は美しかった。

それだけ、心を揺さぶる小説に出会えたことは

生きてきた上で、重要事項の一つだと信じている。


これからどうするのかは、三十までに決める。

そう言い続けて、気が付けば二十七になった。

いつの間にか社会のレールのしっかりと乗っかり

社会人になる選択をして、気が付いたら

モラトリアムから追い出されてしまった。

でも、くすぶっている一念が胸の中には

確かにあって、今も訴え続けているからこそ

今の人生において重要な選択をした気がする。

今年の六月、弾き語りをする友人と

東京の外れの街に

作業部屋を借りることになった。

ボクは、小説を書くために。

彼は、音楽を作るために。

(たまに二人でラジオをやっているが)

その部屋に、ボク達は名前を付けた。

「ピーターパン・スタジオ」

二年と言う時間制限が存在する

創作部屋を持っていることで

「自分がどうしたいのか?」を

試されて、考え、悩む日々が増えた。

初めて本の面白さに気付いた

小学生のクソガキが

高校になって小説を

ホームページで執筆して

今に至っている。

十年くらいの間は

小説を書く人間に憧れていた、と口にしていた。

ただ、口にしていただけで、行動には移せずに

フィクションの世界で見かける夢を語るだけの

クソ野郎だった。情けない話ではあるけれど。

(正確には書いていたが
終わりまで書くことができなかった)

その間、ずっと読書を繰り返しては

頭に浮かぶ映像に浸り

脳内で完結するだけで収まっていたのが

目の前にある覆せなかった現実だった。

そんな有言不実行でも歳を取って

三十も視野に入ってきた昨年の秋

一念発起でもしたかのように

三つの物語を書き終えた。

何か見えている世界が変わった気がした。

バイブルを読み終えた時のような衝撃だった。

不意にバイブルの登場人物が

言ったセリフが浮かんだ。

「これからどうするのかは、

三十までに決めようと思っている」

莫大な文字で積み上げる物語の

一小節が人生を左右するなんて

正直、思ってもみなかったし、

実感もなかった。本音だ。

ボクは自分のやりたいと

思ったことをやらないままに

三十を迎えることはできないのだ、と悟った。

小説家という目標に向かい

ボクは今、浪人をしている。



さて、冒頭で書いたボクの人生や価値観を

変えるきっかけになったバイブルを

紹介したいと思います。


「風に桜の舞う道で」 著 竹内真


2000年の春、親友リュータが死んだという噂話が

主人公のアキラや親友のヨージの耳に届く。

その噂話の真相を追いかける為に行動を始める。

10年前の春に大学合格を目指す為に

アキラが入寮した桜花寮。

その一年間の間で出会い

苦楽と共にしたメンバーと

30歳手前になって再会を果たしていく。

10年前、主人公が18、19歳の頃の

青春時代の話を振り返ったり

30歳現在の話が交互に展開されていく。

(こういう二重構造は

読みにくかったりするけれど

そんなことはなく登場人物が栄えるように

工夫してあるので、非常に読みやすく

登場人物の個性などが頭に入りやすい)

リュータの死んだという噂が

ミステリー感を生み出しているが

青春小説、友情物語と言う方がしっくりきます。

志望校、受験勉強、友情、恋愛、夢、将来、という

青春ワードが物語を占めているのだけれども

タバコ、お酒、麻雀、エロ本といった小道具や

彼女を作って童貞喪失を試みようとする

浪人生の妄想が爆発している出来事や

カツアゲをされた浪人生の為に

アキラを含めた数名が地元の高校生と

喧嘩をするなどといった

サイドストーリーがキャラクターを栄えさせる

すごく良いスパイスになっていて

物語を更に引き立ててくれています。

(この小説を読んで麻雀をやるようになり、

あるセリフとキャラクターのせいで

タバコもやめられないまま吸い続けています笑)

この小説の素晴らしいところは

第一に登場人物のキャラクター。

アキラ、リュータ、ヨージの他に

7人の浪人生が出てくるのですが

10人の浪人生のキャラクターが

魅力的で素晴らしいんですよ。

(吉村さん、ゴロー、サンジ、

ニーヤン、ダイ、タモツ、社長。

個性がばらついていて

自分ぽいかもって思うキャラクターが居ます。

ちなみに、ボクは主人公のアキラが自分ぽいです)

更に浪人生だけではなく

浪人生のよき相談役である徳さんや

アキラが出会う大学生のさくらなど、

味があり、思わぬきっかけを

作り出していく人物たちも物凄く魅力的です。

(徳さんみたいな人に

出会っていれば、と思うことは

正直多いです。だから羨ましい)

次に登場人物たちのセリフやアキラの心境。

「これからどうするのかは

三十までに決めようと思っている」をはじめ

刺激的だったり、どこかハッとする言葉が

各所に散りばめられているのも

この小説を語る上では外せない。

こんなセリフばかりで物語を作れたら、と

思っている節がボクには確かにあります。

本当に好きすぎてバイブル扱いしている小説なので

こういうことを書き始めたら止まりません。

正直、短編レベルの文字数を費やすことも

容易なので、自重して、この辺で止めておきます笑


もはや紹介になっているのか

定かではありませんが

もしこの拙い紹介に興味を抱いた方は

一度読んでみてください。

特に高校二年生から三年生、

浪人経験のある方は是非。

(もし高校時代に

この小説に出会っていれば

ボクは間違いなく受験勉強に

尽力していたと思っています)


この場所で愛してやまない物や

読んできた小説を紹介しつつ

三十までの時間を記録することために

ヘタクソなエッセイを

書き続けていこうと思います。

時には執筆した小説を

挙げていくことも考えています。

文章がヘタクソなのは致命的ですが、

まぁ、それも勉強ですよね笑

誰かの眼で見てもらわないと

分からないことってありますから。


※パソコンで書き出しているので

スマートフォンで見ると

改行がおかしいかもしれません。

朝比奈 ケイスケ

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