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いとおしい

 「いたっ」
 今朝もまた、ボクの隣で耐えている。
 冬の日は、手を繋ぐだけで邪魔が入る。
 ボクは全然痛く無いけれど、まこちゃんは痛いよね。
 すごく大きなバチっていう音と火花。
 だからお母さんに聞いて、洋服に気をつけて、水をたくさん飲んだ。
 でも何故か、どんな状態でもボクは痛く無くて、まこちゃんは痛い。
 痛みに耐えてるまこちゃんの頭をなでると、またバチって小さく音がした。
 ボクは「ごめんね」と呟く。
 「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と笑いながら耐えていた。

 「いたっ」
 僕の向かい側で声がする。
 本の隙間から声をかける。
 「大丈夫?」
 「大丈夫」
 「どこか痛くした?」
 「ううん」
 小さく首を横に振る。
 そして、ちょっと恥ずかしそうに、言いにくそうに言葉にする。
 「本を戻す時、本棚に本ぶつけちゃっただけなの」
 自分じゃなくて、本が痛かったんだと言うまこに思わず笑ってしまう。
 その後も、まこの移動先で「いたっ」と静かな図書館に声が届く。
 同じ委員会を選んで良かったと思った。

 「いたっ」
 ボヤッとした頭と、暗がりに目が慣れてないせいで真(まこと)の様子がわからない。
 「どうした?」
 とりあえず声をかけてみる。
 「う〜ん、大丈夫」
 多分どっかにぶつけたなと、当たりをつける。
 明かりをつけると、少し涙目になった真を見つける。
 「どうした?」
 「うん……ベッドの角にぶつけた」
 私が真っ暗じゃないと眠れない質で、真は最初怖がっていた。
 それなのに、途中でトイレに行ったり、水を飲みに行く時、静かにベッドから抜け出して明かりも絶対につけない。
 一人暮らしの部屋だから、どこか明かりをつければ、私に明かりが届いてしまうと思っているようだ。
 「ごめんなさい」
 涙目も落ち着いて、私を起こした事を誤ってくる。
 その様子をフフッと笑う私を、やわらかく嗜める。
 「ごめん、ごめん。暗くて危ないから明かりつけていいよ」
 「でも…」
 「結局、真の『いてっ』で起きちゃうよ」
 「あっ、そうだよね」
 眉を寄せる顔は、昔から変わらない。
 「今度は、スマホで足元照らして行きなよ」
 明かりをつけるのに、後ろめたい気持ちのある真の足に青痣が増えるのは好ましくないからそう勧める。

 だけれど『いてっ』と声が聞こえると、それを私は…




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