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ふたり

 紫郎
 自分にとって特別なのは、柊子しかいなかった。
 生まれた時から一緒だからなのか、柊子とその他で分けていた。
 だからって、友だちがいなかったわけでも、付き合った子がいなかったわけでもない。
 俺は、それが普通だと言われているから、それに沿った行動をとっていた。
 だけれど、柊子は違う。
 誰とでも話すが、誰とも打ち解けない。
 自分を理解してもらおうともしない。
 友だちを作る事もしない。
 それらは、自然発生的なモノと捉えている。
 周りを見れば、そんな筈ない事がわかるだろうに、柊子は気が付かない。
 そんな柊子に、友だちと言える存在が出来た時、少しだけ痛い気持ちになった。
 柊子は、俺の事を自由人と呼ぶ。
 友だちが多く、好きな事をして、楽に生きていると思っていると思う。
 たけれど、多くいる友だちは、上辺だけの奴がほどんどだし、好きな事を探しているから色々な事に手をつける。
 器用に立ち回っているから、楽に見えるだろうけど、本当は違う。
 柊子は、大好きな朝食に時間をかけて食べる。
 お菓子を作って、お気に入りのモノに囲まれて過ごす。
 本を読んだり、散歩をしたり。
 そして、本当の友だちも作った。
 周りからは生きづらいと見えているかもしれないが、そんな事思っても、考えてもいない柊子は幸せの中にいる。
 俺だけで入れてはくれないから、さくらを手にする事にした。


 さくら
 私の特別は、いつの間にか柊子になっていた。
 嬉しいも、楽しいも、嫌も、悲しいも、怒り、どれを出しても変わらない。
 その感情は私のモノで、柊子は受け止めて流すだけ。
 でもそんなふうに、私の感情を良いとも悪いとも言わない柊子は、嘘が無く、信じるしかないと思わせてくれる。
 相変わらず周りと合わせる事をしないが、合わさって見える人がいるとは思わなかった。
 紫郎は私と同じで、柊子を特別に思う。
 だけれど、友愛でも親愛でも敬愛でもない。
 願いがあり、望みがあり、想いがある。
 それを、それぞれ隠している。
 紫郎は自由にしているように見えるが、たまらなくなって逃げているだけだと、私は思っている。
 だから紫郎と一緒にいる事にした。
 私にも逃げる場所が必要だったから。

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