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空談①

 僕は賢い子どもだった。
 たくさんの本を読んで、言葉を覚え知識を増やした。
 年齢よりもませた子どもだった気がする。
 母は、僕を賢い子だと頭を撫でる。
 父は『もっと好きな事して我儘を言ってもいいよ』と言って頭を撫でる。
 僕は好きな事してる。
 だから父の気遣いに納得できないでいた。
 そんな僕に『零と混ぜて中和したらいいかもね』なんて笑う。

 零も途中まで賢い子だと、母から頭を撫でてもらっていた。
 いつからか、少し我儘になっていった気がする。
 それでも父は、優しく頭を撫でていた。
 母はよく父に『甘やかすからだ』と苦言を呈していた。
 僕は母と同じ様な気持ちを心に隠して、口にはしなかった。

 でも、気がついてしまった。
 零はバランスの悪い子なだけで、決して賢くないわけではない。
 いや、むしろ“賢い”その事がバランスの悪さの元凶だと思った、

 零は記憶力がもの凄くよかった。
 母はよく何処に何を置いたか忘れるが、そんな時は零が「あっ」と声を上げ、そして僕に教えてくれるので、それを母に伝える。
 最初のうちは偶然だと思っていたが、何度も重なれば何故こんなに知っているのだろうと疑問に思う。
 それ以外にも、僕がパズルをしていると横で必ず見ている。
 それも僕より先にピースをはめ込むことができるようだった。
 小さな頃は僕が少し悩んでいると、そのピースを僕の側に寄せてくる事もあった。
 平仮名やアルファベットも一度見せると直ぐに覚えた。
 でも、それだけだった。
 覚えるのは早いが、それらを上手く使う事には繋がっていない様に感じた。
 だから僕は賢くて、零は賢く無いと母は決めていた様だった。
 零は伝える事がうまくできなくて、癇癪を起こしていたのだと、後になって気づいた。
 だから僕に伝える様にしたのだと思う。
 それを僕は大人たちに伝える役割をしていただが、あえて零からのものだと言わなかった。
 だから僕は賢い子で、零は困った子にされてしまったのだ。
 意図したものではなかったが、罪悪感はいつまでも消えない。

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