なかまいり
「おはよ」
それ以外の言葉を交わせない私は、そっとその輪の中から離れて席に着く。
輪の外側はそれぞれがよく見える。
輪の中心の彼は、皆んなに平等に顔を向けている。
そんな彼に積極的に話しかける人、焦って相槌を打つ人、彼の隣で自然に腕に触れる彼女は昨日よりも距離が近い。
以前の私なら落ち込んで、諦めて、人知れず泣いていた。
「どうしたの?」
俯き目を擦る私に優しく声をかける。
「何かあったの?」
心配そうに覗き込む顔の近さに動揺したが、ゆっくりと顔を上げて困り顔をして見せる。
「花粉症になっちゃって、目が…」
「擦ったらだめだよ」
そう言って私の手を握る。
この時期は顔を合わせれば、誰かがどれだけ自分が辛いかを話し出す。
そのタイミングで競うように話す人たちには、花粉症でない私はこの辛さがわからない無神経な人と思われていた。
ても私も花粉症になった。
それでもあの輪の中には入らない。
ひとりでいる私にこうやって彼は気にかけてくれる。
「そうか、とうとう仲間入りしちゃったんだね」
『そうみたい』とふたりで笑い合う。
彼の隣で距離を縮めようとする彼女より、今も手を握られている私の方が近くにいるんだよと教えてあげたい。
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