私は話すのが下手らしい。
私は話すのが下手らしい。
というのも、正月に帰省してきた実兄に言われたことだから、私自身がそう卑下しているわけではないことを記しておく。
話すことが下手だとは考えたことはなかったが、話上手だと思ったこともない。
よく喋る母に似た、よく喋る兄。
黙って話を聞く父に似た、黙って話を聞く私。
それはもう、性格の違いと言うしかないでしょう、と思うのだが兄にとってそんなことは些事らしい。
「ーーそれでさHが『鴨肉って鳥のどこの部位?』とか言い出すもんだからその場にいる全員固まってさこんなに空気が凍ることってあるんだと思ってみんな何も言わないもんだから俺言ったんだよおそるおそる『お前、鴨肉って腿肉・胸肉・ハツって系統の内にあると思ってんの?』ってそうしたらきょとんとした顔で違うの?って言うんだこれがまたほんとうマジでバカだなって笑いが込み上げてきてさだってもうあいつ19だぜ?19年間鴨肉は鶏の肉の部位んひとつだと認識してたってそんなアホな話があるんかってさ今すぐそこの川に行って鴨を見に行ってこいって言ったね俺は」
どこで息継ぎしているのかさえわからない言葉の洪水に巻き込まれる。
そんなのだから私はこうなったのだろうなあと頭上で泳ぐ鴨を眺めながら沈んだ。
本を読むのが好きで、電車の吊り広告を読むのが好きで、ドレッシングの裏の成分表を見るのが好き。
そうしてわからない単語は母に聞いたり、先生に聞いたり、辞書に聞いたり、Googleに聞いたり。
それは今でも変わらず続いている。
(白薔薇の花言葉って愛じゃなくて純潔なんだ、じゃあ他の色にも意味があるのかな)
(月が綺麗ですねって言葉素敵だなぁ、あぁ返答にも種類があるんだ、へぇ)
(平生、へいぜいって読むんだ、知らない言葉がたくさんあるなぁ)
そうやって頭でくるくるメリーゴーランドのように思考が回って混ざって、そうやって組み立てられたこの人格を、例え誰かに鼻で笑われたって誇りに思うことにする。
そうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていくんだろう。
言葉の洪水に呑み込まれながら。
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