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小説✴︎名前の由来 上


雨音

アマオトと書いて
『あまね』と読む。

僕の名前だ。






母が産気づいた時は
さわやかな夏空の晴れ日だった。
ところが支度をしているうちに
みるみる薄墨の雲が現れ
ポツポツと雨が降り出した。

おしるしがあったからと
仕事中の父に電話を入れて
母は1人で、タクシーを呼んで産院に
向かった。

雨足は強くなり
タクシーのワイパーは
忙しなく、右に左に雨粒を飛ばす。
雨の日は、普段車に乗らない人も
利用するからか、道は混み
いつもなら10分で着くはずが
30分経っても半分も進んでいない。

少し母は不安になって、運転手に尋ねた。
「近道とか、無いですかね?
急ぎたいんですけど。」
「この辺は脇道も無くて
行き先に向かうにはこの道路しかないんですよ」
「そうなんですか……」

余裕を持って
準備していたつもりの母だったが
初めてのお産でもあるし
一人では
だんだんと不安が募り出す。

運転手は聞いた。
「初めてのお産ですか?」
「はい。おしるしがあったものですから」
「だったら大丈夫ですよ。
うちは、5人子供いますが
初産は、おしるしあってからも
すぐ産まれませんから」
「5人もいらっしゃるの?」
「毎回立ち会ってますしね」
「そうなんですね」

ベテランパパさんの言葉に
母は少しホッとした。

少しずつ道を進みながらも
車を打ち続ける雨音。

「雨音がショパンのなんとかって
言う歌がありましたよね?」
と運転手は言いながら
母の気持ちを紛らわす為か
ラジオをつけた。



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