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再走電車【ショートシナリオ】

※20×20原稿用紙10ページ相当
※実写映像想定
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○陸上トラック
   トラックを走る泊[とまり](23)。
   その姿に、走る電車が重なる。

○××駅・ホーム・外観(夜)
   走る電車、ホームへ向かう。
泊の声「3番線の次の電車、最終電車です」

○同・ホーム内(夜)
   ちらほらと2~3人の乗客。
   仏頂面でアナウンスする泊。
   泊、佐藤(30)に気づき、走り出そうとする。
   が、躊躇し、歩く。
佐藤「泊くん、大分慣れてきたんじゃない?」
泊「……はい」
佐藤「残りは俺がやっとくからさ。フォローだけ頼むわ」
   佐藤、泊の顔を見て、
佐藤「もう少し愛想よくなるといいな」
泊「……すいません」
佐藤「俺なんざ、フラれた日だってバッチリ笑顔よ……未だに引きずってるけどっ!」
泊「はぁ」
佐藤「昔のことって、吹っ切れねぇよな」
   泊、ハッと右足を見る。
佐藤「どした?」
泊「いや、別に……大したことじゃないです」
   目を逸らす泊。
   右足で、カツカツと床を蹴っている。
   ×   ×   ×
佐藤の声「最終電車、間もなく発車します」
   安全確認をする泊。
   と、誰かがぶつかってくる。
   とっさに身体をひねり、右足を庇(かば)う泊。
   ぶつかったのは押田 (55)
   かなり酔っている様子で千鳥足。
泊「大丈夫ですか?」
押田「おぅ。俺はいつでもベリーグッド」
泊「……ベリーグッド?」
押田「俺は、あれに乗るマンディ」
泊「……ご案内します」
   泊、押田を車両の中へ。が――
押田「ケータイがないチンゲール」
泊「え?」
   見ると、ホームに落ちているケータイ。
   『やれやれ』と、拾う泊。
   と、発車ベルが鳴る。
   泊、チラッと右足を見てから、小走り。
   ケータイを押田に渡そうと手を伸ばす。
泊「!」
   ×   ×   ×
   フラッシュ。泊の回想。
   トラックを走る泊(20)、バトンを次の走者に渡そうと手を伸ばす。
   が――足がもつれて……。
   ×   ×   ×
   ケータイを渡そうと手を伸ばす泊。
   その姿が、バトンを渡す姿に重なる。
泊「……」
   足を止めてしまう泊。
   我に返るが、つまずき、転ぶ。
   その勢いで、車内に乗り込んだ。
泊「痛っ」
   直後、電車のドアが閉まる。
泊「あ……」
   発車。
佐藤「え、何してんの?」

○××線・車内(夜)
   泊、ドアを叩き溜息。
   その肩をポンと叩く押田。
押田「ベリーグッドだな」
泊「(思わず大声)ベリー、バッドですよ!」
   周りの乗客、怪訝な視線。
泊「(乗客に)すいません」
押田「アイツね、悪い奴じゃないんですよ」
   乗客に絡む押田を、引きはがす泊。
   泊、チョロチョロと歩きまわる押田に、翻弄される。
   なんとか押田を座らせ、自分も隣に。
泊「(溜息)」
押田「……ケガしてんな。右か?」
   泊、驚きの表情で押田を見る。
   が――
泊「……そんなことないですよ」
   と、顔を背ける泊。
押田「俺にはわかるよつや階段」
泊「経験者でもあるまいし」
押田「俺、陸上部コーチ」
   泊、再び押田の顔を見る。
   押田、いたって真面目な表情。
押田「正確には、ケガしてた。だろ?」
泊「……そんなこと、ないですって」
   目を逸らさない押田。
   諦めたように、右足の裾をめくる泊。
   その足首に、手術跡。

○同・外観(夜)
   走り続ける電車。

○同・車内(夜)
泊「とっくに治ってはいるんです」
   裾を戻す泊。
泊「なんとなく走りたくないってだけで」
   黙って聞いている(様に見える)押田。
泊「別に……大したことじゃないです」
   右足で、カツカツと床を蹴る泊。
   と、押田の大イビキ。
泊「寝てんのかよ!」
   周囲の怪訝な視線。
泊「(乗客に)すいません」
   と、ブレーキ音。電車が急停止する。
アナウンス「停止信号です」
押田「(真似して)停止信号です」
   泊、呆れて、
泊「起きてんの? 寝てんの?」
   寝ている様に見える押田。
   寝言の様にしゃべる。
アナウンス「停止します。少々お待ち下さい」
押田「(真似)停止します」
泊「……ったく」
押田「また走ります」
泊「え?」
押田「電車は止まっても、また走ります」

○同・外観(夜)
   停車中の電車、再び走り出す。

○同・車内(夜)
泊「どういう意味ですか?」
   泊、問うが、寝ている押田。
泊「起きてる? 寝言? どっち?」
押田「……人間も、その方がいい田橋」
泊「(苦笑)」
   ふと、窓を見る。
泊「止まっても、また走る……」
   と、押田、えずきだす。
   慌てて介抱する泊。
押田「……飲みすぎた玄白」
泊「……まったく」
   泊、ガラッと窓を開ける。
   風が、車内に吹き込む。
   思わず窓の外を見つめる泊。
   過ぎていく景色。
   吹きぬける風。

○泊の回想~陸上トラック
   トラックを走る泊(20)の視点。
   過ぎていく景色。
   吹きぬける風。

○(回想終わり)元の電車内
   泊の右足が、カツカツと床を蹴る。
   その足が――止まる。

○同・外観(夜)
   △△駅ホームに進入する電車。

○同・車内(夜)
   ドアが開き、乗客達が降りていく。
   泊、寝ぼけまなこの押田に、
泊「寝過ごさないでくださいね」
   降りていく泊。
   押田、ポケットをまさぐっている。

○△△駅・ホーム(夜)
   降りて来た泊、何気なくポケットを触ると、慌てて中身を出す。
   ケータイが、2つ。片方は、押田のだ。
泊「!」
   振り返る泊。同時に、発車ベルが鳴る。
   風が吹いて、泊の髪がなびく。
   反射的に右足を踏み込む泊。
   走る泊。手を伸ばす。
   と、押田が、車内から手を伸ばし返す。
   手を伸ばす泊。ケータイが……渡せた。
   直後、ドアが閉まり、電車が動き出す。

○××線・車内(夜)
   窓越しに見える、息を切らす泊。
   押田、それを見て
押田「ベリーグッド」

○△△駅・ホーム(夜)
   息を切らし立ち止まる泊。
   苦しそうだが、満足気。
   と、もう1つのケータイが鳴る。
   電話に出る泊。
佐藤の声「泊くん? 俺、俺」
泊「あぁ先輩。なんか、すいません」
佐藤の声「いやいや。災難だったねぇ」
泊「いや、別に……」
   言いながら、笑みがこぼれる泊。
泊「大したことじゃないです」
佐藤の声「俺、車あるし、迎えに行こうか?」
   風が吹き、泊の髪がなびく。
泊「大丈夫です」
   泊、晴れやかな表情で
泊「ちょっと走って帰ろうかなって」
   右足を踏み込み、走り出す。(完)

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