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祝いの一杯【ショートショートシナリオ】

※20×20原稿用紙5ページ相当
※実写映像想定
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〇カフェ・店内・カウンター内・中
   道疋[みちびき)](35)が、コーヒーを淹れている。
道疋「電話ってさ、最初の顔でわかるよね」
   と、隣の町夫[まちお] (31)に話しかける。
町夫「どういうことすか?」
道疋「電話に出て、声色を聴いただけで、なんとなく相手の用件がわかるでしょ?」
町夫「……まぁ」
道疋「そうすると表情に出るのよ。良い話とか悪い話とか。だから最初の顔でわかる」
   と、町夫にコーヒーを渡す道疋。
町夫「そんなもんすかねぇ」

〇同・客席・中
   端の席に、スーツ姿の陸瑠優斗[りくる ゆうと] (22)。
   祈るようにスマホを見つめている。
町夫「ブレンドお待たせしました」
   コーヒーを置く町夫。
   陸瑠、手に取る。
   が、手が震えてこぼしてしまう。
   慌てる陸瑠。もっと慌てる町夫。
   道疋、台ふきを持って現れる。
道疋「(町夫に)お前が慌ててどうすんだ」
町夫「さーせん!」
   テーブルを拭く道疋と町夫。
陸瑠「ご、ごめんなさい」
道疋「いえいえ」
   道疋、テーブルの上を見る。
   スマホの横に、履歴書や参考書が。
道疋「就活?」
陸瑠「まぁ……」
道疋「ごめんねぇ、ぶしつけに」
   町夫、会社説明会のパンフに目をやる。
   コーヒーの写真に『ドトールバックス』。
町夫「うぉぉ! マジか!」
道疋「(町夫に)凄いの?」
町夫「知らないんすか? 業界最大手!」
陸瑠「(商品名を連呼)」
道疋「おぉ!」
   満足げな顔をする陸瑠。
   と、台ふきが落ちそうになる。
町夫「(台ふき)落ちるっすよ」
陸瑠「落ちる……」
道疋「?」
陸瑠「……どうせ僕は落ちるんです」
   じんわり、うつむいていく陸瑠。
道疋「おぉ……」
町夫「え、この人、ないてる?」
陸瑠「ないて、ないて、内定!」
   パッと起き上がる陸瑠。
   ケータイを拝みはじめる。
町夫「(気づき)あー面接の結果待ちっすね」
   道疋、微笑ましそうに、
道疋「コーヒー、好きなの?」
陸瑠「(あっさりと)いえ全然」
道疋・町夫「え……」
   道疋、ポカンと口を開ける。
   陸瑠、不満げに
陸瑠「だって。もうここしか大手ないですし」
道疋「それは、ポリシー?」
陸瑠「そりゃ、大手入らないと。良い大学出たのに大手行かないなんてそんな……」
   ブツブツとつぶやき続ける陸瑠。
   道疋、微笑んで、
道疋「大手企業に就職する。素晴らしいことです。合格を祈ってます」
   台ふきとカップを片付ける道疋。
陸瑠「もうここしか……代わりなんて……」
道疋「出しゃばってすいませんでした。今、代わりのコーヒーをお持ちします」
   席を離れる道疋と町夫。
陸瑠「本当は……」
道疋「?」
陸瑠「本当は、大手なんてどうでもいいんだ」
   拳に力が入る陸瑠。
陸瑠「でも、好きなものとか、こだわりとか、全然ないから。だからせめて大手にって」
   陸瑠、戻ってきた道疋に訴えるように、
陸瑠「興味ないって、面接官にもバレるから。だから……受からないよ!」
   道疋を睨みつける陸瑠。
   微笑み返す道疋。
道疋「私ね、コーヒー、興味なかったんです」
陸瑠「え?」
町夫「えー?!」
道疋「最初は、お客さんとの会話が好きになって。それから店自体が好きになって」
   店内を見渡す道疋。
道疋「内緒ですが、コーヒーは今もそんなに好きではありません」
   驚く陸瑠。ニコっと笑う道疋。
道疋「そんなのでもいいんです。君は、好きでもないのにあれだけ商品を暗記できた」
   ハッと、パンフレットを見つめる陸瑠。
道疋「その努力は、決して、裏切らないです」
   と、突然、陸瑠のスマホが鳴り出した。
   息を飲み、恐る恐る電話に出る陸瑠。
   その顔をじっと見つめる道疋。
   道疋、ニッコリほほ笑み、
道疋「お祝いの一杯、入れましょうか」

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