見出し画像

タテヨコ企画『橋の上で』稽古録[下]


読み稽古が終盤に差し掛かり、

さあ、そろそろ立ち稽古かと思われた頃。

そのとき既に我々は立ち稽古をしていた。

はて?

分かる。読んでいる方も演っている方も、

はて?

なのだ。

柳葉魚組の読み稽古は、少しずつ形を変えて行われていた。

最初はスタンダードに、机を挟んでの読み。

お次は役柄を変えての読み、机を取っ払って俳優陣が向かい合っての読み、シーンに参加している俳優のみがその都度椅子から立ち上がっての読み等々。

本当に少しずつ舞台が広くなっていくのだ。

そして、我々は気づけば立ち稽古に移っていた。

気付けば立ち稽古に移行しつつある歴史的瞬間


暫く経って、稽古はステージを変えていた。

それは今回の大きな肝ともなる、舞台装置を扱いつつの稽古である。

今作では、サイズ違いの台12個によって舞台上の景色を変えていく。

この台は机や椅子になることもあれば、車にもなるし仏壇にもなる。

そして、橋にもなるのだ。

台が橋を演じている瞬間


この舞台装置(舞台美術)は、とても素敵なアイデアだと思う。

と言うよりか、12人目の俳優だ。

彼ら(台)は何にでもなれる。

人間が演じると欲が出てくるものだが、彼らに欲はない。

ただ、そこに存在し、想像力を掻き立てる。

その姿を見ていると、僕もただその場に存在することの重要性を考えさせられる。

ただこれがかなり難しい。

僕は人間だから。

ただひとつ難点がある。

彼ら(台)の移動を我々人間がするということ。

ただでさえ、役を多く演じ分ける必要がある中で、

場面ごとに12個それぞれをみんなで移動させなければならない。

声を大にして言っておく、大変なのだ。

(台だけにね☺️)

稽古で最も悪戦苦闘したのは転換ではないだろうか。

転換ありきで立ち位置が変わることもあった。

色や形が同じ彼ら(台)を次はあっち次はこっちと役柄を演じながら移動させなければならない。

様々な手を稽古場で試行錯誤しつつ、

やっぱりここの転換の形を変えたいという提案もある。

これは、我々が仕組みに慣れてきたりで、次のステージを目指せるということや、

演出柳葉魚氏による絵の調整でもある。

ただ、手が変わると途端に頭がパニックを起こす。

「あれ、ここおれだったはず。。。あ、変わったんだ。いや違うおれだ!」

とおそらく座組み全員が頭を抱えた。

抑えるポイントが多すぎる。

余裕で僕の脳のキャパシティを超えていた。

なんせ僕の脳は‘96年式なもんで。。。

アプデはしてるけどね。

苦労したこともあって、通し稽古が終わるたびにいつもとは違う種類の達成感を感じていた。

そして、帰りの電車で次はここを工夫しよう、と役柄や転換への個人的な反省会まで出来るようになった。

公演が始まってからは、この舞台装置兼俳優の台たちへの好評ももらえてとても嬉しかったし励みにもなった。

まるで、我々も一緒に舞台美術を作り上げているようだったからだ。

そして、作品全体に多くの好評をいただけて、俳優としてこんなにも素敵な作品に関わらせていただけたことを幸せに思った。

稽古開始直後から、学びが多く素敵な先輩方に巡り会わせていただけた今作と座組み、青木柳葉魚さんに感謝している。

余談だが、

僕は柳葉魚さんに全幅の信頼を置いている。

それは柳葉魚さんの稽古場での在り方を見ていたからだ。

基本的に柳葉魚さんは、人の意見を否定しない。

汲み取ってくれるのだ。

今回見せたいものと違うければ、その意見を汲み取りつつ形を作っていってくれた。

そして答えが出ないときは、正直に「今は答えが出ないからそこは明日にさせてください」と言ってくれる。

作品や俳優に対して真摯に向き合ってくれているのだな、と常に感じていた。

更に、今回の題材[秋田児童殺人事件]の名称の扱い方にも考えが色濃く影響されている。

これは、本作『橋の上で』をご観劇いただいた皆さまには理解いただいていると思う。

全国的に有名なのは[秋田児童 連続 殺人事件]という名称だが、

柳葉魚さんは、「僕は連続殺人では無い可能性で考えている」と考えを示しており、

題材を公表しても良いが、「連続」という単語は使わないよう気をつけてほしいと釘を刺された。

一貫した、ブレない姿を見て、

「僕はこの人に付いて行きたい」と思ったし、

柳葉魚さんが作りたい作品に少しでも近づけたい、

僕がこの期間に出来得る最高のパフォーマンスを発揮したいと心の底から感じた。


劇場での公演が終了した今、

柳葉魚さんの作品でまたお芝居がしたいと強く思う。

欲を言えば、俳優の柳葉魚さんとお芝居がしたいとも思っている。

またタテヨコ企画でお芝居がしたい、

客演の皆さんとお芝居がしたい、

こう思えることは幸せなことだ。

仕事だから、辛い現場だってもちろんある。

だけど、僕は東京に来てから素敵な人たちと出会い、より一層お芝居が好きになっている。

タテヨコ企画さんも、劇団チョコレートケーキさんでもまたお芝居ができるように。

そして、次出演するときには一皮も二皮も剥けた良い俳優になっていることを目指して。

僕はまた一歩前進するのである。

改めまして、

『橋の上で』に関わってくださった皆さま、

応援してくださった皆さま、

ご観劇くださった皆さま、

ありがとうございました!!

お次は、5月に東京芸術劇場でスウィングしちゃいます。

またね。


谷口継夏


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?