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嗣人
2021年10月21日 00:29
私の元へ一枚の葉書が届いたのは、年が変わって久しい一月末日のことだった。 文面には新年の挨拶と共に、去年の暮から入院していたという旨の内容が毛筆で記されていた。葉書の宛名には妻の名があり、差出人には『木山』とだけある。 身内や親戚、知り合いに木山という苗字の者は思い当たらない。 文面を読む限り、まだ妻が鬼籍に入ったことを知らないようだった。 妻が亡くなったのは昨年の夏のことだ。春に体を
2020年3月29日 15:25
大学の先輩からバイトを持ちかけられた。 その先輩は大学でも問題児として名が知られていて、講義にもろくに出席せず、女漁りの為に在籍しているような学生とは名ばかりの人物だった。「四時間で三万貰えるちょろい仕事だ。どうだ。手伝う気はねぇか」 普段なら断っていただろうが、バイト先が閉店してしまって食べる金にも困っていた私はすぐに先輩の話に食いついた。 しかし、四時間で三万円というのは明ら
2020年12月14日 22:10
茹だるような暑い夏の日だった。 五条旧街道もあまりの暑さに陽炎が揺らめいている。最近は舗装されている道も多く見かけるようになったが、まだまだ少ない。この街道のように凹凸の激しい地面ばかりだ。 風鈴の音色が耳に煩い。 ハンカチで汗を拭いながら、鞄の紐を肩にかけ直す。 街道に面した一軒の民家、表札には『福部』とある。玄関の戸を開け、中へ声をかける。「木山です。お約束のものをお持ちしました」