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嗣人
2020年2月28日 00:21
太宰府天満宮の祭神として祀られて幾星霜、御神徳を得ようとやってくる参拝客は増え続け、今や日本屈指の大神社となった。学業の神として知られる一方で、家内安全や商売繁盛、恋愛成就や安産祈願など願い事も大変多い。遠路はるばるやってきたのだから、他の願い事も一緒に叶えてもらおうというのは無理もない。人間誰だって高名な神社で願いごとをする。そういうものだ。 しかし、如何せん専門の分野というものがある。私は
2020年2月29日 20:10
その場所は太宰府天満宮から徒歩五分ほどの場所にある古い喫茶店である。一階は木刀などの修学旅行生を虜にするアイテムを揃える土産物屋、二階は少し大きめの座敷になっており、普段は喫茶店として使用しているが、現在はとある団体が貸しきりで使用している。クリスマスが終わった辺りから、二十人ほどの男女が籠ってなにやらしている。 店主の孫、松戸晶子は年末に帰省した際に二階に出入りしている大人たちを見かけたが
2020年3月11日 02:24
吾輩は家庭用自律型掃除機である。名前はまだ無い。 どこで製造されたかとんと見当がつかぬ。なんでも火花がばちばち散る煩い所でウィーンウィーンと泣いていたことだけは記憶している。やがて吾輩は狭く暗い箱に厳重に閉じ込められ、何処かへ運ばれた。そこでクゥクゥ寝ていると、箱が持ち上がり、誰かによって再び何処かへ運ばれてしまった。 箱を開けたのは人間という不思議な生き物だった。どうやら彼らは吾輩の創
2020年3月11日 19:05
九州は福岡県、太宰府市の象徴ともよべる太宰府天満宮を御存知だろうか。学問の神として有名な菅原道真公を祭る由緒正しい神社である。正月にもなると全国から三が日に二百万人もの参拝客が訪れる。 私が最初にこの太宰府天満宮へ参拝したのは、無謀にも国立大学受験を控えていた頃のことである。溺れる者は藁をもすがるというが、私の場合は多くの受験生がそうであるように神に縋ることにした。もはや私が頼れるのは神様を
2020年3月11日 19:33
私の朝は目覚まし時計の音と共に始まる。 寝床から手を伸ばし、けたたましく喚き続ける目覚まし時計の息の根を止める。 西鉄大宰府駅から徒歩数分という好立地に立つ私の住まいは、築35年を数えるボロアパートである。最近はとかく換気にうるさい風潮があるようだが、私の家などはその点でいえば素晴らしいものがある。二十四時間、いつでも隙間風が入ってくるので夏はエアコンの室外機の風で蒸し暑く、冬はまるで冷
2020年3月29日 15:26
私は太宰府天満宮に祀られる主神、菅原道真である。 正月三ヶ日の忙しさは例年の如く、地獄の底もかくやといった殺人ぶりで、助成に来てくれた福岡県下の神々も次々に倒れ、中には出雲まで逃げ出す神や、現実逃避の為にコミケに途中参加しに行くと泣き出す神も現れたが、どうにか正月三日間を無事に乗り越えることができた。 毎年、参道に面した古い喫茶店を貸し切り、八百万の神々が集まって気絶するほど御神徳を振り
2020年4月2日 01:46
春の花見は我が国の伝統行事である。 美しい桜を眺めながら一献、唄を詠めたら、他には何もいう事はない。 生前、私が平安の世に貴族であった頃にも春となれば、麗かな陽気に誘われて平時の仕事も忘れて、桜に酔ったものだ。この太宰府の地に左遷された後も、部下たちと共に花見をしている時だけは慰められた。 死してのち、神として祀られるようになった後も、こうして花見が出来るとは思いもしなかった。 そして、