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これは正しく令和の漫画『九条の大罪』1~5巻 簡易感想(ネタバレなし)

(捻くれた文章を書いている内うっかり忘れそうなので素直な感想を最初に書いとくと、めちゃ面白いので今の世の中ってグロいな~~居心地悪いな~~と薄っすらとでもいいから思っている方は是非読んでください。その認識はある程度において正しいし、清々しいまでの胸糞が味わえます。毒薬を誤嚥したかのような悪寒。『コインロッカー・ベイビーズ』みたいな読み味)



 分断社会という単語がある。

 どうやらこれが令和のトレンドらしい。いや、とうに旬は過ぎ去ったのかもしれないが、令和開始当初はよく耳にした覚えがあるし「バズ」っていたのは間違いがないだろう。まあ、この単語が令和の世の一面の真実を抉っていたことは想像に難くない。

 
 分断社会……政治思想とか経済的格差(立地格差?)とかで人々が分断されている社会、のことを大雑把に言うみたい。 
 


 この単語を知ったとき、率直に言って、え? 今更何言ってんの、馬鹿?

 と思った。

 まず、気付くのがあまりにも遅すぎる。感受性の欠如といってもいい。

 社会が個人に対し対等じゃないとか遅くとも小学生高学年で気付け。

 いや、根本的な部分では対等なの簡素入れないが少なくとも、

 平等ではない。

 と……。普通にわかるだろ……。

 小学生の頃の謎の万能感とか中学生の頃の謎の自意識とか高校生の頃の謎の諦観とか大学生の……とかをいい年した大人になっても引きずっていると思われる方が沢山いてびっくりします。世界への認識が果てしなく甘い。

 紹介する前に他の作品を持ち出すのもなんだけど、『タコピーの原罪』という漫画が一時期流行った。簡単に感想を書く。私も御多分に漏れず全話読んだ。途中までは正直、面白かった。小学生の抱える割と切実で等身大な問題が繊細な感じの筆致と結びついて、悲惨な境遇にもどこかノスタルジーさえ感じる。二転三転する物語の運びや登場人物の印象の覆しも良かった。が。あまりにも結びが酷い。結局、毒親とかいじめとか格差とかを取り扱っても現代社会の一面をさらっと(それこそアクセント程度に)撫でるに過ぎず、結局はファンタジー的解決(某ナドの光の玉みたいな)に終始してしまった。ココが非常に残念だった。まあ、少年誌的問題もとい音の名問題があるのかもしれないが。

 昨今の若者は「人生のネタバレに怯えている」とのフレーズも観た記憶がある。どういう真意がこめられているのかは推し量るほかないが、面白い表現だなと感じた。因みに皮肉ではない。

 情報が錯綜している。あるいは横溢している。ネットを見ると、なんだ、奇妙な正直さ、というのか。

 たとえば、特に知らなくても良い事や自分の半径5メートルくらいで起きた珍奇な出来事をさも今のこの社会を表彰しているかのような重大な出来事として吹聴してみたり、といったような。意地悪な譬えを使用。学歴スレとか見て(観るな)「へえ、MARCHってのは三か月で入れるんだな」って思いこむのが一昔前の若者だとすれば、今の若者は「三か月もかかるのか、でもこれってある程度頭がよくていい学校に通っている奴が頑張って三か月ってことでしょ無理じゃん」となるのが今の若者なのかな。適当言ってます。

 要するに、先人(笑)の残した奇妙な情報の蓄積に惑わされ、自分の可能性とやらに早々に見切りをつけ。未来に希望を持てなくなってしまう、と……。こういう嫌な情報を拡散する奴が耐えれば解決だと思うのだけど、まあ、難しんでしょうね。こういうクソ情報に限って拡散させやすいし。

 まあ、こういう狭隘な諦観と言えばいいか、冷めたような諦め、と言えばいいのか。そういった空気が現代社会には漂っているような気が何となくする。だから早々に人生に諦めを見出し。脳死でサブスクとか無料動画とかで延々と時間をつぶせる消費形態が隆盛を見せているのかもしれない。

 ネットで得た継ぎ接ぎ知識の披露は止めてそろそろ本題に入ろう。

『九条の大罪』だが、ウシジマくんと好対照をなしていると感じた。

 本作は社会的地位の高い、「弁護士」が主題材となっている。闇金の次は悪徳弁護士! とか本屋のポップがカラフルに歌い上げていた。

 暗渠のなかを這いずるような、「どうしようもない」人間たちの醜態を遠慮なしに生々しく描き出した「ウシジマくん」。(表現は悪いが、台所の隅の普段なら目につかない汚れを拡大し見せつけるような)。忌憚なく言えば、「底辺」を見世物小屋のようにさらけ出し「やべえ、こうはなりたくはないわw」みたいな、焦燥を煽るような仕組み。これが非常に秀逸だったと思う。

 まあ、言ってしまえば底辺サーカス博覧会のような、檻の外から、安全地帯から社会の底辺にまで落ちていく人間たちの様子を観察できた前作と比較すると、どこか誇張された(そうであってほしい)社会問題を描きつつも、本作はまた違うアプローチをとっているなと感じた。

 ウシジマくんはカイジに近い楽しみ方をしていた、少なくとも私は。
 どこか現実感の希薄化した、極限状況下が産むドラマ。そんなものを楽しみに読んでいた。

 が、九条の大罪はどこまでも現実と地続きだ。

 逃れようのないような確たる実感をもって、私たちに襲い掛かってくる。

 私たちの住む「通常」とやらをベースとし、底辺たちを見降ろすようなウシジマくんの視点とは異なり、私たちは最早見下(おろ)される側である。

 底辺や社会的弱者、普通の人間を搾取し、消費していく人間たち。

 搾取する側とされる側の一方的な構造が、一度「普通」の領域を介することで総体的(相対的)に浮かび上がるような構造になっていると感じた。

 言葉足らずだが、めちゃくちゃ怖い。

 というか、ある意味ではウシジマくんよりも酷いし、怖い。救いもない。

 油断していると自分の身にも降りかかりそうな、笑えない怖さである。

 軽度知的障害、介護、メンヘラの商品化、所得格差、現代社会を取り巻く諸問題を見事に活写しつつも、露悪では終始せず、新たな解をみせる。

 うっげ……とえづきたくなるような食事描写や独特の間の取り方は健在で、2巻とか読むのに2時間くらいかかった。

 ウシジマくんも体力精神力共に削られ蝕まれるタイプの漫画だったが、本作はもはや悪を越えた邪悪。しかも現実と地続きの、そこら辺に転がっていそうな地獄の入り口である。

 が、それでいてカタルシスやエンタメ性に乏しいわけではなく、要所要所では盛り上がり、人間ドラマとしての栄えはこちらの方に軍配が上がりそう。ヒューマンドラマとしても楽しめるのが凄い。

「悪徳」弁護士というのがミソ、というかはっきし言って、異様なまでに質が悪い。

 弁護士というと法廷で争う、それこそ「異議あり!」的な知的ゲーム的な闘争のあれこれが思い浮かび、難解さに眉を顰める人も多いかとは思うが、本作は裁判そのものの描写は少なく、その分を依頼人や弁護士たちの葛藤、生活描写など、あくまで身近な視点を鋭くとらえているのが印象的だった。

 正義(道徳)と法は両立し得るのか。
 法律家の責務とは何か。
 法は本当に弱者の救済のためにあるのか。

 誰もが一度は思うような矛盾や問題、現代社会が孕む雑念としたテーゼを高い次元で描きつつも、こういう初歩的な論を戦わせる登場人物の姿には胸を打たれる。救いようのない現実にも一類に希望を感じ取らせる。先ほど、ヒューマンドラマ的にも読めると言ったのはこのせいだ。

 面白いです、本当に。


 というか、こっから完全なる負け犬の誰得自分語りが始まるのだけれど、ここまで本作に惹きつけられた大きな要因として、わたしも大学で法学を学んだ人間だからというのがあるかもしれない。法学部出身です。底辺ですが。出てくる法律用語は曖昧とではあるが意味は分かる(因みに解らなくても枠外で簡易に解説してくれている親切設計です。こういうとこはウシジマくんより優しい)し、なんとなくでも楽しめる。わたしが大学の法学部で培った大きなものとして「バランス感覚」がある。これは良く面接で適当な味付けをしていった。御社の多種広範な業務を遂行する上で大学の法学部で学んだバランス感覚が~とか馬鹿の一つ覚えのように言っていた。司法試験は一年生の五月で諦めました、はい。

 物事を平衡的、平均に均してみる姿勢と云うのか。たとえば、わたしは大学で法律を学ぶまでは「法律ってあれですよね、あの、強者が弱者から都合よく搾取するための機構ですよね」みたいな感じで思っていたがどうにもそうではないこともないらしい。

 あと、これは今でも思っているのだけれど民法、特に債権と親族・相続だけでも義務教育に組み込んだ方がよくないですか? あれ教えないのは謎の力が働いているとしか思えん。連帯保証人にだけは絶対なるな、と口酸っぱく親とかから言われた経験がある人は多いかと思うのですが、「なんで?」とか「連帯保証は普通の保証人と何が違うの?」とか聴かれてパッと答えられる人間は存外少ないのではないか。まあ、不勉強な人間が何を言っても仕方ないけど。

 たとえば、某青い鳥snsとかでは自分と違う意見≒悪、みたいなスタンスが平然とまかり通るし、もっと酷いのになると「あの人の言っていることはすべて正しい/間違っている」みたいな。真似をするみたいな。インフルエンサーとかライバーいう人生切り売りエンターテイナーさんたちは本当にすごいと思います。皮肉ではなく。

 まあ、こういう、一面からしか、あるいは歪んだ視界からでしか物事を捉えられないとある種の認知の歪みにも成りかねない。令和の文化の一つとして切り抜き動画が挙げられると思うのだけど、(切り抜き動画を観ている人、全員バカです(赤文字で「時間の無駄w」)みたいなの)あれなんか半分くらいは立派なお手軽宗教じゃなくないですか? オンラインサロンよりよほどわかりやすい。そもそも、前後の文脈が不明瞭なことが多いし(どういう方向性で話しているかも読み取りづらい、というかあれを観ている類いの人間にそんな御大層な読解力があるとは思われない)、無料である分どんどん時間を使い潰される。

 東京のハイソな某路線で電車で聡明そうな初老のサラリーマンがひろ〇きとか岡田斗〇夫の切り抜き動画を食い入るように見ていてびっくらこきましたよ、これでいいのか日本社会。マジで大丈夫か。学ぶ姿勢があるのは良いと思うけど。

 なんか。居心地悪い世の中ですよね。もうみんなインターネットかやめてふかふかの布団とかで寝っ転がりながら読書とかゲームしよう。ネットニュースとか一切見ない方がいいかも。疲れるし。知っても知らなくても良い事多いし。『九条の大罪』はあれですかね、そんな「見たくもない!」「知りたくもない!」現実を照らしつつも、微かに救いとか人間の持つ本来的な温かさとか書いてくれてるのがウシジマくんよりもポイント高かったですね。最新の5巻まで読みましたが早くも続きが待ち遠しいです。

 まあ、近況報告をすると曲がりなりにも社会に出て少し棘が取れたというか毎日適合しようと奮闘しているのですが、これからも捻くれた拗らせた文章や面白い作品の紹介などを細々として投稿していきたい次第です……。あと、また同人ゲーを作ってます。やりたいことはあるが時間と気力が圧倒的に足りません……。労働は塵。世知辛い世の中だ。


 




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