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気まぐれ美少女ゲーム感想vol.1 euphoria

 序文

 最近ノベルゲームに関する記事ばかり挙げているので、以前カクヨムというサイトで細々と書いていたノベルゲームの感想だか評論だかよくわからない雑文を此方にも投下していきます。実情は積みゲーを消化して自分の中で昇華するため。あわよくばこれでPV数稼げないかなあ自作の宣伝にもならないかなぁと思っていたりもする。まあ折角プレイしたのだから記録を付けないのは少し勿体ないかなと思っただけな気もする。

 

・タイトル『euphoriaユーフォリア
・メーカー「CLOCKUP」
・プレイ時間「30時間程度」
・推しヒロイン「白夜凛音《びゃくやりんね》」 
・私的評価「★★★★★★☆」

 《《これは凄いゲームだ》》。
 始めてたった数分で、そう確信したのは記憶に新しい。
 是非とも予備知識なしでプレイしてほしい作品なので、プロローグ以外のところは極力ネタバレは避けて論じていく。
 主人公、高遠恵輔《たかとおけいすけ》が、壁も床も天井も白い奇妙な部屋で目覚めるところから物語は始まる。部屋の中には彼の他に、同じ学校の女子生徒が五人に教師が一人いた。狼狽える彼らに、謎の「声」は彼ら七人に異常なゲームを強いる。女子生徒の一人がゲームに参加しない意思を表明すると、暗転し、次の瞬間には電気椅子に焼かれ無残に死亡する。
 それを見た主人公は、自分の秘められた凌辱願望に目覚め始めるが、女子生徒の一人、真中合歓《まなかねむ》に他言できぬような願望を抱いていることを見抜かれ、「バラされたくなかったら……」と、脅迫される。了承した恵輔は合歓と誓いのキスをする。
「私たち、上手くやっていけると思うわ」という合歓のセリフに誘われるように、美しい主題歌『楽園の扉』が流れ出す……。

 まず、冒頭から引き込まれた。物語の始め方として「目が覚めた」ところから始めるのは何かと議論の対象となりがちであるが、本作に限ってはそれは杞憂だ。なにせ、息をつく暇もなく、状況を把握する時間もなく、開始直後から衝撃的な展開が待ち構えているからである。惨殺死体のすぐそばで接吻を交わす、という凡そ名状しがたい狂気のワンシーンから本作は始まるが、これはほんの序の口である。

 むしろこの導入部があってこそ、「これから皆さんがプレイするゲームはこういうゲームなんですよ」、と開始数分にして親切にも教えてくれているとも言える。後の伏線となり得るであろう言動や意味深なシーンも多く、ここで既に物語全体の大きな仕掛け、歯車が動いているのを実感できるほどに、この冒頭のシーンは、「強い」。

 物語の序盤では、白い部屋からの脱出が主目的に置かれる。閉じ込められた彼らは時に協力し、時に対立し、ゲームをこなしていく。主軸にあるのは極限状況における各ヒロインたちの掘り下げ、である。いわばキャラの顔見せだ。このパートでは閉鎖空間における緊張感や登場人物たちの関係性が、プレイヤーの不安感や不信感を煽るような作りで、次々に進行していく。ゲームの内容については、あまりにも過激すぎるので到底ここには書けない。画像検索なりで、耐えられそうか見極めて欲しい。私はときおり不快感を覚えながらも、大枠としてはとても楽しませていただいた。

 SAWや、CUBEなどのソリッドシチュエーション映画、インシテミルやミステリの嵐の山荘ものをイメージしてもらえば理解は早いだろうが、このパートでは嫌というほどに各キャラの性格や気質、深淵が見え隠れしてくる。主人公と共に、私たちはそれに翻弄されるわけだ。自分勝手に空気を乱す者、乱れた場を軽く諫める者、後方でにやにやと楽しそうに眺めているだけの者、といったように、どのヒロインも腹に一物も二物もため込んでいそうな雰囲気である。惚れ惚れするほどに、関係性が巧い。

 この序盤の「地下ゲーム」のパートが、本文で論ずるヒロインたちの属性の危うさ、流動性に、後の展開で大いに貢献することになる。
 真価が発揮されるのは地下を脱出してからの、「学園でのデスゲーム」編だ。ここでいくつかの伏線が回収され、物語は怒涛の展開を見せる。各キャラの結びつきも変わり、主人公が地下ゲームでどのヒロインを選択したかにより、物語は多種多様の拡張を遂げていく。
 このデスゲームパートで、序盤からの思い込みが逆説的に作用することになる。というのも、デスゲーム編では主人公以外にもモブの男子がたくさん登場し、もはや地下ゲームのようなヒロインの独占状況は望めない。ルートによって各ヒロインたちは目も覆いたくなるような惨状になってしまったり、あるいはあっさり主人公と結ばれたりする。ここは落差が非常に大きく、「どのヒロインが好きか」でかなり評価が割れそうなところだ。ヒロインの身体を独占したい方にはかなりお辛い展開も……。
 
 あの子はこういう娘だ、という身勝手な属性付けは、主人公とヒロインという二人だけの間柄だからこそ成立するものだ。集団の中にあっては、ヒロインに冠せられる「属性」というレッテルは呆気なく剥がれ落ち、豹変したり、強化されたりする。安定する、ということは少なくとも望めないだろう。

 たとえば、あるヒロインは不良生徒たちに公衆便所のごとく輪姦されてしまい、これまで纏っていた清楚なイメージを完膚なきまでに剥奪される。またあるヒロインは童話の蝙蝠のように、強きものに付き従って陣営を行き来し、主人公の奮闘を行く先々で撹乱する。
 ヒロインの役柄はときに、プレイヤーや主人公が彼女らに抱いていた、可愛らしいイメージを跳ね除け、あっけなく邪悪や汚濁へ転化させる。それは物語の展開の要請によって、登場人物たちの被る「仮面」は簡単に変わってしまうということを意味している。一癖も二癖もあるヒロインたちは、愛情の対象である主人公にさえ時に情け容赦なく、《《牙を剥くのだ》》。全員が全員、ハッピーエンドになるとは限らないのも、確かなことなど何もない現実の救えなさ、不条理を上手く溶け込ませている。

 また、本作の特徴として、物語終盤のパートである「楽園」編で明かされる、これまでの見方が大きく変わってしまうような衝撃の真相が挙げられる。そこで初めて私たちは気付くのだ。ゲームの外にいる神のような存在である私たちでさえも、虚構の中に取り込まれてしまっていたことに。序盤では異常な状況での焦燥により主人公との一体感を誘い、中盤では各ヒロインたちの本性を容赦なく暴き立て、更に終盤では「物語」という大枠を揺るがしかねない仕掛けがある。宛らミステリ小説の大伽藍のようではないか。それも《《美少女ゲームという媒体》》でだ。これは何気に驚くべきことではなかろうか。異形な偉業と言っていい。注意深くプレイしても分からなかったので、間接的なネタバレだとかはあまり気にしなくて良し。

 確かに眼をそむけたくなるシーンは多々ある。ただただ生理的嫌悪感を掻き立てられるような展開もある。だがその悪趣味な仕掛けの一つ一つが、ラストのカタルシスへの周到な舞台装置となっているのだ。

 ……酔わされた。
 現実と幻想の境目が曖昧に溶けていくような、虚構のおもちゃ箱に迷い込んでしまったかのような感覚。
 酩酊感《euphoria》、とは正にこのことだろう。素晴らしいタイトルだと思う。

『ドグラ・マグラ』や『匣の中の失楽』のようにメタ構造で現実と虚構が曖昧になっていく小説や、〇〇できない〇り〇を用いた小説が好きな方は大いに楽しめること請け合いだ。私はどちらも好物なので、ヒロインたち含め非常に美味しくいただいた。
 
 これまで述べてきたように、物語の進行とともにヒロインたちの見せかけの属性は時として剥落していき、時に変化し、各ヒロインに身勝手な「属性」という幻想を付与して二次元趣味に耽溺する受け手を奈落の底へと容赦なく叩き落す。ユーフォリアにおけるそれは、ただ露悪なだけでなく、物語の核心、真相とも蜜月な関係にある。

 物語終盤で本性を現した登場人物の一人が、以下のような趣旨の台詞を主人公(プレイヤーの分身とも言える)に投げかけるシーンがある。

「「好きだ」って言えればそれで満足なの? 《《こんな作り物の世界に逃避して》》、それで満足なの? なーんておめでたい男。吐き気がするわ!」

 なんて鋭く、毒のあるセリフだろう。無自覚的にヒロインに願望や欲望を投射し、虚構の存在を可愛い可愛いと言い続けていた本人にこの台詞が放たれた瞬間、私たちプレイヤーは主人公と共にヒロインの前に屈したのだ。参りました、と。白旗を上げざるを得ないのだ。因みに「なーんておめでたい」の下りが最高に厭味ったらしい演技で最高なので、リピート推奨。

 そもそもヒロインたちに、本来の属性などない。半強制的に押し付けた理想や妄想は絶えず変化を続ける物語やヒロインの前では脆く崩れ去る紙屑同然だ。物語の要請如何によって、それらはいくらでも何回でも書き換えられ続ける。

 彼女らが「どう在るか」は、あくまで彼女ら自身に委ねられている。いくら私たちが物語から超越した立場にいても、身勝手は許されないのだ。

 ……二次元三次元問わず、女の子に過剰な幻想を抱くのは止めましょうという話。


 雑感

 恐らく本作をプレイしていなければノベルゲームにここまでのめり込んではいないし自分で作ろうともしていない。頽廃的なエロスと残酷すぎる世界にラストの一抹の救いが映える。パッケージで買えて良かった。他の作品もプレイしたのですが、CLOCKUPのエ〇ゲーは他と一線を画すレベルで表現がえぐいです。グロとかそういう安易な方面でなく、ヒロインたちのドロドロした生臭いところをも魅せてくれるのが最高です。『フラテルニテ』も既にパッケージで購入済なので、戦々恐々としながらプレイする時を待ちます。

 
 

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