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【素晴らしき日々の先の物語】気まぐれ美少女ゲーム感想vol.11 サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-

 プレイ期間 2021/12/22~2023/11/26

 クリア時間 34h47m

 個人的評点 86点

 サクラノ詩 感想

「美術部の皆で壁画を完成させるとこがピークであとずっと冗長でつまらなくて投げてる」

「そこが重要だからいいから黙って最後までやれ」

 今年の夏くらいに邂逅した美少女ゲームオタクとの会話。都内デパートのエレベーターの乾いた手摺に掴まりながらジュ〇ク堂へと向かう緩やかな上昇の途中で。

「遠くになって初めて美しく思える風景もある」みたいな文章がサク詩本編一章にあったと思うのだけれど、それは僕が小学生くらいから考えていたことではあるし、そんな普遍的な感覚を殊更に本編通じて勿体ぶって語られてもねというか、冒頭から明け透けに言うならこの薄っぺら~い作品で感動とか「人が生きること」とかを体感できる人は多分それだけの厚みの人生しか送ってこられなかったのだと思う。ぺらっぺらの人生だね。辛辣! 

 正直言ってあまり芳しい感想や好意的な評価、ネットの暇人オタクが得意な鋭い批評は書けそうにもないし、初めに表明しておくとあまり面白いとは感じられなかったので、碌なことは書けそうにもないかと思うのだが、1年11か月もの間ちまちまプレイし続けたのだし、幸いにしてリアルタイムで取っていた感想メモもあるので、記憶が褪せないうちに記録として感想とか置き残そうと思う。章ごとに区切りつつ、要所だけを刳り貫いていく感じで。もうサブカルに夢中になれなくなってるお年頃なんで出涸らしみたいだろうけど、良かったら読んでください。

『素晴らしき日々』を手に取り衝撃を受けて(一時期)美少女ゲームにのめり込んでいた身としては、本作には大いなる期待を以て挑んだものだが(二年前)、しかしあえなくその期待は打ち砕かれることになる。

『すばひび』は読者をぼこぼこ殴るような容赦のなさとか過激性、淡い青春や認識の綻びとかで物語として多方向へと突き抜けていながら、何処か脱力的というか適当というか、そういった「突き抜けてるようで肩透かし」な作品だったと感じた。(伝わってくれ~)

 一方で『サク詩』は美少女ゲーム的ガジェット(ex.学園、美少女、廃部寸前部活、適当教師、複雑な家庭環境、前世、投げやりファンタジー要素、曖昧な好意や行為の交錯……)を膨大に編み込みながら、「突き抜けてもない」し「肩透かし」でもない。そよ風みたいな作品だった。(失礼すぎるよ~)

 いやでも、明確に嫌いに「は」なれない良さもある。一枚絵の美しさや声優さんの演技も素晴らしかったし、物語全体に、やんわりと包み込むような優しさがある。『素晴らしき日々』は最後の最後も読者を殴って去っていったからなあ。そういう意味では素晴らしき日々……日常的幸福に堕した後の物語としては、まあ、良かったんじゃないでしょうか。

 総括的には、語られているテーマや価値観はあまりに普遍的すぎ、薄っぺらな印象を(しか)受けないけれど、だがしかし、美少女ゲーム的なずらし(後で語る)やシーンの魅せ絵はふんだんに取り込まれ、読みやすい作品ではあったと思う。共通&個別√の拷問レベルの冗長さや、退屈な美術館の音声ガイドかサービス料20%くらいを強気で取る高級レストランの料理紹介みたいな雑学の奔流(○○○○は、18世紀初頭の……×××であり、その技法は……←これが出てくるたび溜息ついて高速クリックの練習をしてた)、あと、ヒロインに「大好きだったよ」とか言わせちゃららっらららら……みたいなのとか。何回やるのこれ。明確に良かった箇所はあるので、もう少しコンパクトにまとめても良かったのではないか。哲学要素や美術要素を抜きにしても、長ったらしい上に薄っぺらな主題と感じる。『AIR』とか『クロスチャンネル』みたいに、序盤が想像を絶する苦痛(というか伏線パート)で、中盤~後半から展開のオンパレードで読者を掻っ攫うタイプの作品だとは思うけれども、如何せん序盤と中盤が退屈過ぎる。引用多すぎ蘊蓄長すぎファンタジー要素は特に要らなかったと思う。関係性萌えという点では少女漫画みたいだなと感じた。「あまり面白くなかった」とか言いつつ結構長々書いてるよ~ちゃんと楽しんでんじゃん。

 一番好きなのは、最後までこの作品読んだ人はだいたいそうだと思いますがⅥ章のあるシーンです。

消化不良感が逆に心地よい作品でしたね。

 章ごとの感想まとめに移る(巻き)。

 Ⅰ

 冒頭『春と修羅』引用。少し胸焼けがした。
 父の死(一つの世界の終わり)から物語が始まる。すばひびと対比しながら冒頭の掴みは面白く、だがキャラ紹介も兼ねた学園パートが苦痛の連続だった。ノリがAB!っぽい。
オープニングは素晴らしいが、グダグダ展開が過ぎて五時間あたりで挫折した。伏線ゲームだとは思うのだけれど、ちゃんと序盤からそれが感じられるのは良かったです。

 Ⅱ

 夏の話。エ〇ゲと言えば夏だよね。ここから少しずつ関係性が構築され、面白くなってきた印象があります。あとで語りますが一年生コンビが一番好きです。この作品は天才が多すぎる。草薙親子も天才、圭も天才、ヒロインもたぶん全員天才なんだろう。天才に関する圭の台詞に笑う。これはでも伏線と見る。会話や何気ないシーンに後の展開の起点となるような仄めかしが多く、割と楽しく読んでいたような気も。そして皆で壁画のシーン。ここは流石に文句ないでしょう。昂揚感と一体感。青春だなあ。Ⅱは結構好きでした。

 Ⅲ(個別√)

 ここが拷問レベルにきつかったです。というのも、僕はルート分岐とかの個別総当たり形式の選択肢がとても苦手で……攻略面でも物語面でも。大雑把に流します。点数式。

 真琴√……個人的には好きですが明らかなサブヒロインなので、わき道にそれるような話できつかったんですが、割と好きでした。隠れた関係性。ミステリのように古式ゆかしく家系図を描きました。後半のポエムバトルはデレマスアニメを彷彿とさせた。天才性をかなぐり捨て俗な日常に堕すラストは結構好きです。ユーフォリアのライターさんが担当だからか、相性がよかったのかも。75点。

 稟√……すばひびは『エ〇ゲならではの作品』だけどサク詩は『ギャルゲでもいいのでは』とは思いました。苦痛、無、茶番。ココが一番きつかったです。すばひびの焼き直し、というか微妙にずらしただけのような、過去になんたら……とか。う~ん。しかし一番の苦痛ポイントはヒロインに人間味が感じられない(これは理由あるにしても)というか、有体に言って一番つまらなかったです。30点。
 
 優美&里奈√……一番好きです。優美がガチでレズなのは本当に評価すべきでしょう。。童話めいた雰囲気の、百合失恋話といったところでしょうか。病弱で儚く死を纏う少女と、生命力の溢れる野性的な女児。過去の主人公との出逢いの場面も、まあ、これは惚れるわ~と言った感じでまだ説得力ある。ツィプレッセンという副題もいいし、夜の公園で幼少の優美と里奈が遊具の上で言葉を交わすシーンの儚さはこの作品随一の美しさでした。苦々しいオチも良い。絶賛だなあ。85点。

 雫√……典型的な可哀想な女の子お助け系話。もうこういうノリについていけてなくなるのが感性の摩耗を感じる。個別が苦痛な点は、Ⅱ章からスキップし続けなくてはならない点で、迷子からの道案内役が変わるだけ。没入感がいちいち削がれる~。(だから個別攻略系のゲームよりも分岐が最低限の一本道作品が好き)過去パートが多く、種明かし的なルートでした。千年桜伝承も夢呑みも伯耆も、ファンタジー要素はいるのだろうか、この作品に。墓碑銘の素晴らしき混乱、という副題だけで結構げんなりした感じはある。贋作(桜七相図)を描き上げるところは創作の醍醐味の渾然とした苦しさと一時の清涼感が際立っていて良い。60点。

 三章終り時点でほぼモチベがなく力尽きていましたが、Ⅳからが本番とか多数のネット徘徊オタクから事前に情報を得ていたので彼らを信じて進みました。

草薙健一郎と中村水菜の馴れ初め話。ふーん、って感じだった。主人公の父母の恋愛話するってちょっと凄いな。教師と生徒か~正直キツイです。未成年略取じゃん。淫果交流。

片腕折られておばあちゃんに電話かけて策謀巡らして教え子全裸にしてヌードデッサンして朝一で書士に絵画の売契作らして悪者騙してって……「ジェバンニが一晩でやってくれました」か? 天才なら出来るのか。一時間あまりでさらっと終わった。特に想い入れることはなし。無。

 一気に芸術要素が強く鳴る。ここで、本作の“反エ〇ゲ性”が一気に花開いた感じがありましたね。ヒロインそっちぬけで作品に没頭しムーア展を目指す。只管に何かに打ち込む。理想の青春過ぎる。不穏の影と言うか、個人的には彼の死は興覚めでもあったのですけれど、素晴らしき日々で描かれた「死」が半ばギャグのように劇的で激しいものだったからこそ、本作のそれは重くのしかかってくるように感じます。フリッドマンって扱いが最早ヒロインじゃない?    
 

 この作品の美点を上げるとすればこれはⅥ「    」以外にないでしょう、少なくとも僕はそうです。色を塗り重ねるように人生を積み重ねる。Ⅱのラストの壁画を多重に塗り重ねることで、人が生きていくこと、これまでの歩みを見事に肯定して見せる。虚無感が強い作品ではありましたが、なるほど、確かに長い時をかけて感想し完走を書けて良かったなと感じます。直哉が酒を飲んで藍に泣き言を連ねるシーンは本当に素晴らしいですね、辛く苦しい社会人なら心から頷けることでしょう。酒を飲まないと話せないことってあるよな、僕は陰を通り越して無だけど酒を人並み以上に飲めることだけは誇りに思うよ。 

「最高の裏には最悪が常にべっとりと貼り付いている」
「最悪な時が一番生きてる時なんだ」

 消化不良な感じが逆に心地良い。余り好みではなかったんですが、この作品には続編が存在すべきだと思いました。


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