継創(ツギヅクリ)トークvol.2〜新しい文化創りへの挑戦〜イベントレポート
代々つづく、家の仕事を「家業」(かぎょう)と呼ぶ。
日本には長く続く「家業」(かぎょう)が多くあり、その数は世界の中で一番だと言われている。『ものづくりのまち』すみだにも、家業を持って生きる人が沢山いる。その中で、世代を越えたヒストリーをひき継ぎ、あらたなプロダクトやサービスを創りだし、次のステージに挑戦する人たちがいる。
「継創」(ツギツクリ)トークは、墨田区で家業を持ち挑戦している人にフォーカスを当て、新規事業や取り組み事例、家業ヒストリーの紹介を通じて、リアルに繋がる交流イベントだ。
2023年9月25日、大手町にある3×3 Lab Futureにて「継創(ツギヅクリ)トークvol.2〜新しい文化創りへの挑戦〜」は行われた。対面、オンライン合わせて34名の方にお越しいただいた。
今回の登壇者は、
谷口化学工業所の谷口弘武さん
大正11年創業、『電気湯』3代目店主の大久保勝仁さんだ。
モデレーターはVol.1から変わらず今回も
五十嵐製箱株式会社を家業に持つ五十嵐寛之がお送りする。
はじめに、ファミリービジネスアドバイザーとしての顔を持つ五十嵐の方から、「家業」って何なのか?の説明があった。(200年を超える企業が世界には8785社あり、日本にはその約半数の3937社がある!という豆知識も披露された)
いよいよ、登壇者の登場だ。
やりがいを生み出し続ける会社へ~谷口化学工業所の谷口弘武さん~
谷口化学工業所は1910年創業のレザーケア用品の開発・製造・販売を行う会社だ。日本最古の靴クリームメーカーというから驚きだ。
そんな歴史ある企業を家業に持つ弘武さんは2013年にIT企業に新卒入社をする。
IT企業を選んだ理由としては、ストレートにそのまま家業を継ぐことが今後の社会人人生において正しいのか不安を感じたこと、とはいえ、いつかは家業を継ぐ、そんな時にITの知識は何かしら役に立つだろうという、相反する二つの思いの間で揺れた結果だという。
しかし、ITが元々そんなに好きじゃなかったことから、モチベーションは下がっていった。気持ちを一新しようと、福岡転勤を会社に申請した。
そのことを両親に伝えた時に、家業を継ぐ気があるのか(福岡に行ってしまったら、東京にいつ帰ってこれるのか分からない)などをちゃんと話し合った。入社してから4年間、製造業のお客様担当だった弘武さん。ちょうど「モノづくり」に興味が出てきたタイミングだったことも後押しし、満を持して2017年に谷口化学工業所に入社をする。
入社後に、弘武さんはまず市場の状況調査とニーズの把握を徹底的に行ったという。他にも、墨田区役所が運営する後継者育成塾「フロンティアすみだ塾」に入塾。家業のために奮闘していった。
ただ2019年、コロナが流行り出し、靴業界も御多分に漏れず大打撃を受ける。リモートワークの普及で、そもそも靴を履く機会が減ったのだ。
そんなタイミングに、弘武さんは入社してから自身の行ってきたことを振り返る機会を得る。そうして客観視してみると、一人で奮闘してきたせいか、誰も後ろについてきてくれていないことに気づいたという。気づけたことが、自身の行うべき役割を見直すきっかけとなった。
その後はITの知識を生かし業務フローの改善を行ったり、オンラインMTGを通した海外との商談・海外への事業展開を始めていった。
2021年に代表取締役に就任。社内改革に取り組んでいく。就業規則・賃金規定・組織図など社内にあるルールというルールをすべて一新した。さらに新たな評価制度の導入。旧来の「頑張っても頑張らなくっても変わらない環境」を「頑張った分だけ対価が得られる環境」へ。他にもありがとうをカードに残す「サンクスカード」を導入したり、週一回全員参加の掃除を行ったりと、社内における独自の文化を創出していった。社員の当たり前のレベルを上げた。
2022年からは、DIY専用木材塗料「クロマニョンペイント」の製造に着手する。これはコロナ禍の中でレザーケア用品以外に自分たちにできることはないかを何度も考え、いくつものアイデアをボツにし、残った本当にやりたいと思ったことだという。このような、新しいことを始めるときに
・既存の設備や培ったノウハウ、技術が活かせること
・業界が追い風状態であること
・既存他社製品との差別化が図れること
・やりたいことでワクワクすること
の四つを大事な点として意識したという。
そうして動き出した現在は、もともと作っていたレザーケア用品と新しく始めた木材塗料、この二つの、柱となる製品の目標をきっちり分けて定め、それぞれが目指すべき方向へ邁進を続けている。さらにSNSを強化し情報発信に力を加えている最中だ。
弘武さんが大事にしている考え方に、環境を変えることが自分を変える、会社を変えていく一歩目になる、がある。弘武さんが社会人生活を始めてからの起こした行動の数々はまさにこの言葉通りなように感じる。そして実際に会社を次へ次へと変えていっているから、すごい。
マンションにしないため、選んだ道・銭湯~『電気湯』3代目店主の大久保勝仁さん~
電気湯は墨田区京島にある大正11年創業の銭湯。名前の由来は昭和20年代まで備えていた電気風呂が、常連さんの間で人気となり、電気湯とお湯の種類としてそう呼ばれていた。それを先々代が気に入り、当時の店名「香藤湯」から「電気湯」に変更したのだという。(現在、電気風呂はない)
3代目店主の勝仁さんは、2016年ごろから国連機関の一つであるアジア地域統括のチームにいた。世界中を飛び回る日々の中(休む時間は移動中の飛行機の中ぐらいしかなかったらしい)日本にいるのが一年の3/1あれば良いほう、というような激務の日々に疲れ、軽度の鬱状態に陥った。現場と国連の会話のギャップに悩んだことも影響したそうだ。
そして2019年に入院をする。そのタイミングで国連を辞める。
次の仕事をどうしようか考え始めた2019年の年末に、親戚一同で食事をする機会があり、その時に2代目であった祖母が「銭湯辞める」と言い出した。親戚の中には、銭湯を潰してマンションにしようと言い出す人がいたりと、誰も銭湯を継ぎたがらなかった。そんな中、公共空間に関心があった勝仁さんは「マンションにするなら」と継ぐ決心をしたという。
2023年春、社長に就任。現在は広い天井を生かしてDJイベントを行ったり、政策提言をするための勉強会を行ったりと、銭湯という場としての可能性を広げている。
定期的に銭湯に関する勉強会も行っており、勝仁さんは銭湯の在り方を今後も模索し続けていくという。
気になる質問を家業持ち達にぶつけてみた
リアルタイムで質問を飛ばせるサービス『slido』を通して、集まった質問をお二人にぶつけてみた。
質問 「靴クリームメーカーは国内にどれぐらいあるのでしょうか?」
谷口弘武さん 「メーカーとしては4社しかない。元々イギリスとかフランスから生まれた製品なので、海外から持ってきている商品はいろいろな種類があるが、国内で作ってる会社としては4社」
質問 「この先銭湯はどうなると思いますか?」
大久保勝仁さん 「なくなりはしないけど、在り方は変わっていくと思う」
ここでしか聞けないお二人のお話が聞けた。弘武さん勝仁さん、ありがとうございました。
お二人の家業が気になる方はHPをチェック!
【谷口化学工業所HP】
【電気湯HP】
〇登壇者
・谷口弘武
東京都墨田区出身。大学卒業後、IT企業に5年間勤め、その後2017年に家業である谷口化学工業所へ入社。2019年、従来品からより品質を高めた「エクセレントシリーズ」を開発しブランド化。2020年には、原料やモノヅクリの製造背景にまでこだわった「自然から作ったシリーズ」を展開。革靴のお手入れ方法の認知を広げるため、定期的に靴磨き講習を実施している。2021年には、既存の設備や培ってきたノウハウを活用し、「クロマニョンペイント」としてDIY専用木材塗料を開発。2022年から販売を開始し、新分野への進出にも注力している。
・大久保 勝仁
墨田区京島にある大正11年創業の『電気湯』3代目店主。2019年、2代目だった祖母の「『電気湯』、閉めるで」の言葉が契機となり、前職を辞めて家業を継ぐ。共同の生活空間としての『電気湯』をまちに残すため奔走中。
〇モデレーター 五十嵐寛之
五十嵐製箱株式会社 営業部副部長日本ファミリービジネスアドバイザー協会シニアフェロー創業1926年のダンボールケース製造業を家業に持つ。持ち運べるイベントブース「ハコベル」を開発。独自に「家業マルシェ」「家業部」を主催し、ファミリービジネスの理解を深めるための活動を展開中。
■主催
It’s(Inherit the Sprites)実行委員会[(株)石井精工、ツバメ研磨工業所、(株)片岡屏風店、五十嵐製箱(株)、キップス(株)、Ucycle LLC]
■協力
エコッツェリア協会
写真 細田侑
編集・執筆 林光太郎
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