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TABU tabloid

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共同主宰・たかやまのアート・レポートなど *tabloidはメンバー個人が作成するマガジンです。 *マガジントップ画像:齊藤智史氏の“イシキ”より
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#ギャラリー

夢と交差する視線。

真鍋由伽子さん 個展『Observe every water droplet』 新宿に用があったので、その足で西荻窪で開催されている真鍋由伽子さんの個展にお邪魔した。ここまで来ると、私の中ではるばる感が満ちてくる。 会場は「ヨロコビtoギャラリー」。はじめて伺う。飲み屋街とは反対方向にのんびり歩く。西荻窪は豊かな街だなぁと思う。生活との距離感がとても良いように思う。暮らしたことはないので、本当のところはよくわからないが。 郵便ポストを目印に右折。ギャラリーがすぐに目に入る

コマとコマの間に潜み込むもの。

アートプロジェクトハウス「Open Letter」で開催されている〝最後の手段〟の「NEW首都高」という展示を見に行った。 〝最後の手段〟とは何か。いや、誰か。 〝最後の手段〟は、有坂亜由夢、おいたまい、コハタレンさんの三人が二○一○年に結成したビデオチームだ。手描きのアニメーションと人間や大道具小道具を使ったコマ撮りアニメーションなどを融合させ、有機的に動かす映像作品がその特徴。人々の太古の記憶を呼び覚ますのが狙いだという。 〝最後の手段〟というユニット名は、行き先の定

解いた周縁に起ち上がるのは線なのか。

もう随分時間が経ってしまった。鎌倉に三瓶玲奈さんの個展を見にいったのは八月の下旬のことだ。その日は美学者で一般社団法人「哲学のテーブル」代表理事の長谷川祐輔さんと詩人のカニエ・ナハさんを迎えて三瓶さんが語るというトークイベントも用意されていて、一通り画を拝見した後にそこに紛れ込ませていただきもした。 三瓶さんは日頃、まるで修行僧のように線を描くプラクティスをこなしている。手首を固定してスライドした線や、キャスターごと身体を移動させたときの線など、とにかく線を引いている。その

透けているけど、明らかにそこにあるもの。

川端さんの絵は藝大の学部時代から拝見していて いつもその精緻な鉛筆の表現に驚嘆してきた。 しかしながら、川端さんはただ正確に対象物を描くということではなく 人と人(あるいは対象となるもの)との間に横たわる相互作用の不全を描いている印象がある。 歪んだ(あるいは歪められた)目元。その視線は行く先を失い、 見るものもキャンバス上の人物の目線を捉えることはできない。 やがてその視線が捉えたであろう人物たちが、霞の向こうに現れる。 けっして焦点が合うことはなく、ディテールは定かでは

測れない距離感の向こう側。

インスタで開催されていることを知ったムラタ有子さんの展示に伺った。 六本木通りを西麻布方面へ。けっこう歩いたところで、右に折れてすぐ。 ギャラリーサイド2。初めて伺うギャラリー。 ギャラリーには鍵が掛けられていて、インターホンを押して来訪を告げる。 すると二階からギャラリストの島田さんが下りていらして解錠してくれる。 この展示は、新作油彩画一四点と新旧ドローイング六点で構成されている。 ムラタ有子さんを拝見するのは初めてだと告げると、 基本的な情報を的確に伝えていただいた。

オフの微笑みにほっとする。

三好桃加 初個展「仁王像たちのオフの日」  寺院の山門に二体一対で立つ仁王像。ここから先に仏敵を入れないために日々守護についている。現代ではこの仁王像たちもそれほどの激務をこなしているわけではなく、休日には休日の仁王像たちがいる。それをユーモラスな視点でものにしたのが、東京藝術大学大学院文化財保存修復彫刻研究室を二〇二二年三月に修了した三好桃加さんだ。  彼女の作品は、藝大の卒展・修了展で大いに話題になったそうだが、事前予約のチケットが取れずそれを真に受けて当日に行ってみる

時空冷凍庫から取り出された、解凍できないメッセージ。

キンマキさんの画をはじめて拝見したのは、五美大展だった。 「木を見て森を見ず」という作品である。渓谷の河原に、豆粒のような人物たちが描かれている。自然の大きさを感じさせる画だ。もう一枚のキャンバスには、その人物たちがバーベキューをしているシーンが描かれている。背後に川が流れている。そしてもう一枚。今度はバーベキューの網の上がクローズアップされている。バーベキューをやっている人物のスニーカーがわずかに描かれている。 あたかもドローンで空に舞い上がったごとく、あるいは河川敷数十セ

洞窟と窓。あるいは夢について。

移転後のTAKU SOMETANI GALLERYに初めて伺って、内田麗奈さんの個展「クロマニヨンの夢」を拝見した。 内田麗奈さんは、2019に東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻(油画第一研究室)を修了し、現在は、東京藝術大学油画科助手を務めている作家だ。 壁にかかるベロア生地を支持体としたカーテンのようなものは、洞窟壁画をイメージしたものだとか。内田さんにとってカーテンは瞼のようなものであるらしい。 閉じているカーテンを洞窟壁画に見立て、そのカーテンの影に隠れている窓

子どもの頃と交信する、私小説のような作品たち。

上北沢にあるギャラリー「Open Letter」で室井悠輔さんの「Bサイ教育」(会期終了) という展示を見た。室井さんは1990年、群馬県生まれ。2019年に東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻を修了した作家だ。 それにしても、いつも「Open Letter」にお邪魔するのは、展示最終日になってしまう。なぜだろう。 ま、それはともかくまずは、室井さんのステートメントから言葉を抜き出してみよう。 室井さんの展示作品数は、このギャラリーとしては多い方

生贄にされた羊の話。

この砂の一粒のような私のnoteでも、多少なりとも見ていただけている記事がある。それが、アーティストの林菜穂さんが、東京藝術大学大学院修了展で見せてくれた「昨日の今日のあしたの日」という展示を観たことの感想のような駄文「羊をめぐる考察。」だ。実は、私のnote記事の中で、全期間を通してダントツのビューを誇っている。 その後も林さんの展示の話は見聞きしたし、ぜひ、観たいと思っていたのだが、すっかりコロナ引っ込み思案となり、さまざまな展示から足が遠のいていた。 少しリハビリを

物質に閉じ込められた自我が放つもの。

川田龍「Self-portrait」@Bambinart Gallery 何も知らず、事前予約制のある展示を見るために ちょうど上手く時間を使えるだろうと思われた アーツ千代田3331に出向き、偶然拝見することとなった。 しかも、初日だった。 川田さんは 1988年、新潟県生まれ。2015年に東京造形大学美術科絵画専攻を卒業し、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻(壁画第二研究室)に進学。 2018年に修士課程を修了している。 その東京藝術大学大学院在籍中に展示を何度

確固たるしなやかな存在。

波能かなみさん個展【Girls in the Paper.】(〜9月30日まで) @ギャラリーそうめい堂 波能さんは武蔵野美術大学油絵学科版画専攻を卒業したあと 2018年に、東京藝術大学大学院美術研究科版画研究室修士課程を修了した 作家さんだ。 初めて作品を拝見したのは 【第66回 東京藝術大学卒業・修了作品展】‬‬の 「ひとであること」と題された展示だった。 階は忘れたが、絵画棟の端の部屋で 波能さんの描くふくよかな女性たちは、 和紙で囲われた空間に身を委ね、 鑑賞者

何ものでもない何かを遠くに見る。

清水香帆「辿る先」 RISE GALLERY「Creativity continues 2018-2019シリーズ」最後の展示として開催された清水香帆個展『辿る先』を拝見した(会期終了)。 ・ 清水さんは、女子美術大学大学院美術研究科博士前期課程美術専攻洋画研究領域修了した画家。「群馬青年ビエンナーレ2015」入選(2015)「シェル美術賞展2016」入選(2016)などの実績がある。 清水さんの作品はこれまでにも何度か拝見している。 前回は紙の支持体にドローイングとい