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『山びこ学校』を読む その7 先行研究


「山びこ学校」をおそれる読了感—この本をわたしは読めているのか—


 「山びこ学校」を分析したり、背景を取材したりした本や論文、記事はとても多そうです。「山びこ学校」を読んだときの、圧倒的な感動—こんな文章を詩を書いた生徒たちがいたのだ、こんな作品を生み出した学級があるのだ、若い無着成恭という教師はいったいどんな人物なのか—その衝撃は読者を研究に向かわせる十分な理由になります。それほどの本です。どんどん読み進められるという本ではなく、一ページ一ページ、一語一語に立ち止まらざるを得ない、息を吐き、動悸を落ち着かせたり、感慨にふけったりしてしまうのでなかなか読了できません。

 学生時代に読んだときとは印象がちがいました。生活綴方について実践に足を踏み入れたり、実践を続けている人ほど、この本の圧倒的な力に気づくはずです。これほどの実践ができた理由は何なのか、歴史的地理的、また制度的な特殊な条件が可能にしたのか、実践を一般化したり応用可能な知識を汲み取ることができるのか。

 「山びこ学校」だけでなく、「山びこ学校」で紹介された無着学級43名のその後を追ったノンフィクション作家・佐野眞一の『遠い「山びこ」—無着成恭と教え子たちの四十年—』を読み終えたときの衝撃も大きく、筆者・佐野眞一氏への敬意とともに、わたしは「山びこ学校」の単純な理解、分析を恐れるほどになりました。

 

奥平康照氏の研究

 自分が関心をもった領域の圧倒的な研究(研究者)を、発見してしまいました。しばらくは、この研究者の本を読むだけで関連領域や論点を知ったり、よりよき理解の端緒になりそうです。私の関心は、「子どもをよく知ための技術—子どもをどうとらえたらいいのか—」ということです。子どもを知るとはどういうことなのか、そのための教師の技術とは何なのか。これを「山びこ学校」や無着成恭の実践から学び、私の血肉となり、毎日の教育実践に生かせる戦略的知識としたいのです。時代がうつり変わっても、子どもをよく知ることが、教師の仕事の第一歩だと思うからです。

 以下の本は、奥平康照氏の研究書です。まだ読み始めて少しですが、すごい本だという直感があります。紙の本を買おうとしたのですが売り切れで、市場でも高額になっていたのですが、なんと電子書籍でも購入できるのです。この本が1250円!これこそ衝撃です。そんなに安くていいのでしょうか。戦後教育のあゆみと教育思想を学ぶ上でもたいへんな良書なのではないでしょうか。この本の評価ができる理解力、知識も必要になりそうです。

上記書籍の目次を以下に挙げておきます。よくこれほどの関連領域を一冊にまとめたものだと恐れ入っていて、本当にこの本を読みこなせるのかと恐れおののいています。

[目次]

序章 「山びこ学校」と戦後教育学―「山びこ学校」実践とその思想は,どこへ消えたか

第Ⅰ部 「山びこ学校」実践と無着成恭

第1章 「山びこ学校」と社会・生活実践主体づくりの教育

第1節 「山びこ」実践に戦後日本社会の物語をみる―『山びこ学校』の大評判

作文・綴方の流行と『山びこ学校』

「山びこ」実践が生みだした巨大な期待

第2節 農村社会・文化の改革者から農村新制中学校の改革者へ―「山びこ学校」以前の無着成恭

権威から自由になって,子どもたちと生きる

理論や権威への不信

子ども・青年とともに村をつくる

無着と村の子どもたちの第一歩

無着は民主主義を模索する

第3節 生活綴方を社会生活実践主体づくりの方法として

生活綴方と無着の出会い

無着にとって生活綴方とは何だったのか

第4節 生活と学習の主体を育てる

生活の探究としての学習

生活探究を通して生き方を表現する

生活・学習主体としての子どもの発見

認識の主体的問題的あり方と客観的体系的あり方

「山びこ」実践の生活・学習主体形成を疑う

第5節 生活・学習主体の形成と無着の強い指導性

無着の強力な指導による生活・学習主体の形成

道徳的原則の提示と刷り込み

道徳的主体形成の必要

綴方による共同主体形成の具体的過程

第2章 「山びこ学校」理念の迷走―子ども社会の変貌と教育実践の混乱

第1節 無着のとまどい

迷う無着

明星の子どもたちと実践に困惑する無着

第2節 子ども集団の形成という実践的課題

実践の「統一」「組織化」という課題

集団づくりという実践的課題

生活綴方では,集団をつくれない

東京の子どもはつかまえどころがないバケモノ

第3節 社会と子どもの変貌と子ども理解の困難

子どもそのものの観察と学校的価値観の相対化

子どもを社会づくりの主体として

社会,学校,家庭の三教育分立論

町中子ども集団への着目

阿部子ども論は教育実践革新の手前で止まる

第4節 子ども論への関心の広がり

全生研での「現代っ子」研究への理解と警戒

子どもの社会参加権という視点―城丸章夫の現代子ども論

「現代っ子」の全国化―日本生活教育連盟の子ども調査

『おとなは敵だった』(林友三郎)の子ども論

第3章 『山びこ学校』を離れ,『続・山びこ学校』へ―「子ども」と「社会」の縮減

第1節 無着の転換―「山びこ」実践ののり越え方

教科研国語部会のテーゼに出会う

「山びこ」実践では学力不足

「山びこ」実践への無着の曖昧な評価

教科授業偏重の無着

「山びこ」実践への無着の誇り

第2節 「山びこ学校」理念の見直し

25歳になった佐藤藤三郎との対話

藤三郎と無着の発達的離脱―「山びこ」への対し方

歴史的地域的制約からの脱出と都市での実践

学び闘う生活者から専門家へ

第3節 『続・山びこ学校』という結論へ

「山びこ」生活綴方の歴史的任務完了論

学習主体化の方法

「山びこ学校」精神を堅持せよ

『続・山びこ学校』という教科作文集

教科学習と綴方とを結びつける方法

第4節 「子ども」と「社会」の60年代的把握

『続・山びこ学校』の「子ども」と「社会」

「子ども」と「社会」の縮減

教育における「子ども」と「社会」の概念更新システム―解放制教育実践システムと閉鎖制教育実践システム

第Ⅱ部 戦後日本の教育思想と生活綴方

第4章 教科指導論と生活指導論への重点移行と生活綴方の縁辺化

第1節 戦後生活綴方の隆盛

『山びこ学校』と生活綴方の教師への影響

生活綴方への教育学者たちの期待

第2節 教科指導・生活指導による生活綴方の縁辺化

国分は教科学習・教育の固有領域保守論

教科研方針は教材研究偏重へ

日本作文の会の方針転換へ

集団主義的生活指導論の急成長

生活綴方教育の縁辺化

第5章 戦後教育学と生活綴方教育の意味の探究

第1節 戦前教科研の生活主義と生活綴方理解

戦前教科研の「生活主義」

生活綴方批判と綴方教師たちの反論

第2節 戦後の教育学による生活綴方の検討

戦後教科研などにおける生活綴方の復権と評価のゆらぎ

生活綴方は教科指導と生活指導へと発展的に解消するという論

生活綴方と教科指導との二重構造実践論

授業に生活綴方の精神をとり戻す

第3節 教育全体を貫く生活綴方の方法

教育と生活の結合の方法としての生活綴方―教育の基礎となる方法(小川太郎)

生活綴方は生活指導と学習指導のどこまで食い込むか

第4節 生命の根源的自発性に依拠して,子ども・青年の目的意識性を内側から育てる(大田堯)

西堀青年学級の生活綴方

生活綴方は教科学習の基礎

生命の根源的自発性と啐啄同時

第5節 綴方による生活直視と自主的価値選択主体の形成(勝田守一)

生活綴方を日本教育の支柱に

文化伝達と文化革新,あるいは社会統制と自由・解放・批判的創造としての教育

生活という現実を直視する綴方

人的能力政策と能力主義に対抗して

第6節 目的的生活実践過程の一環としての教育・学習過程(宮坂哲文)

禅林の生活教育

教科外活動への研究関心の展開

学習指導と生活指導と生活綴方

領域としての特別教育活動から機能としての生活指導へ

人間の総合的形成の計画化

学級経営への着目

第6章 「山びこ学校」と戦後日本の社会的実践主体形成論

第1節 生活綴方と生活問題解決実践主体の思想(鶴見俊輔)

日本生まれの攻撃的プラグマティズム思想

民衆の自発的な思想運動としての生活綴方

概念づくりという課題

生活綴方的方法と日本文化の問題―共同体とのあいまいな関係

日本の思想を建て直す

第2節 社会的実践的責任主体の形成(上原専禄)

生活綴方への期待―生活を問題的に認識する

仏教と日蓮を支えとして歴史的社会的課題に取り組む

おのれの悟りよりも社会の課題解決

生活綴方は生活を問題的にとらえる

身近な生活と歴史的社会的視野とをつなぐ

国分は両輪論から綴方従属論へ

教育を越えた歴史の課題に応える教育

地域,日本,全人類の問題に立ち向かう人間の形成が国民教育

系統的教科授業への疑い

歴史的社会的主体としての人間の形成

子どもの課題関心と認識の主体的再構成

「課題化的認識」という未完の提起―主体的であることと客観的であること

第3節 生活綴方・生活記録と内発的発展論―生活と知の内発的な発展を求めて―(鶴見和子)

生活綴方は自己改造・自己教育の実践

生活綴方の社会的集団的な性質

生活記録運動への批判と運動の困難

内発的な知と生活を支える理論の探究

内発的発展論と生活綴方

生活綴方の現代教育への拡張

再び生活綴方と内発的発展論

終章 教育実践の生活課題化的構成

引用文献一覧

「山びこ学校」関係資料

初版あとがき―「山びこ」実践から生れた課題をふりかえる

著者略歴

https://www.amazon.co.jp/増補「山びこ学校」のゆくえ-戦後日本の教育思想を問い直す(22世紀アート)-奥平-康照-ebook/dp/B09RMQ89WM/ref=sr_1_2?dib=eyJ2IjoiMSJ9.D-9BVAsN0BujM8khvIgjNhHoDF4mYPqvndjBQGvqUgqe2e8qOXBciQcTYm10BCwucM3qWpkMYsIvBMlhY3pOAMnaRlNRfAVI5G7azyWi8lY.Xd4qOnBxJPQU3WEcaoGC8W6wPubh_VhlPKFvNvkZ3X0&dib_tag=se&qid=1734297121&s=books&sr=1-2

菅原稔氏の研究

 もう一人が、菅原稔氏です。菅原氏の論文は、インターネットで検索すると多くヒットするので読めるのですが、私の関心に合うものが多く、しかも私の知りたいこと研究しようとしていたことをすでにかなりの量と質でまとめられていました。今までこの方を知らなかったことを恥じました。ていねいに読んでいきたいので、著書を購入しました。本当は奥平康照氏の本も購入したいのですが、市場価格で二万円以上になっており、ためらっています。

 生活綴方を学ぶ人、実践している人、これから実践したい人、昨今の教育書のふわふわした感じやハウツー感、横文字の多さに嫌気がさしている人は、こういった本を読んで一度原点に立ち戻ることで進むべき道も見つかると思っています。でも教育の原点って何でしょうか。

 教育の原点とは何かについて知らなくても、そこに原点があるのではないかと「教育の原点を探し求める旅」として、奥平康照氏や菅原稔氏の、これらの本を読んでいきたいと思っています。

 上記の本の見出しを挙げておきます。見出しから、戦後の生活綴方、作文教育を学ぶ上では必読の研究書のような直感を得ています。俗な言葉でいうと「やばい本」という印象です、

まえがき

第1章 戦後作文・綴り方教育の胎動

 第1節 「国語創造」誌の創刊
  1.「国語創造」誌の刊行経過と構成・内容
  2.「国語創造」誌所収論考にみる「書くこと(作文・綴り方)」教育理論・実践
  3.おわりに
 第2節 作文・綴り方教育誌の地方的展開―『綴方実践への道』―
  1.『綴方実践への道』の目次・構成と、「推奨のことば」にみる飯田廣太郎の作文・綴り方教育(論)
  2.『綴方実践への道』所収論考に見る作文・綴り方教育(論)
  3.おわりに
 第3節 昭和22年度・昭和26年度「学習指導要領」と戦後作文・綴り方教育の再出発
  1.「学習指導要領」前史(1)―「小学校令」(「国民学校令」)と「書くこと(作文・綴り方)」―
  2.「学習指導要領」前史(2)―『合衆国教育使節団報告書』と「書くこと(作文・綴り方)」―
  3.「昭和22年度学習指導要領・国語科編」と「書くこと(作文・綴り方)」
  4.「昭和26年度学習指導要領・国語科編」と「書くこと(作文・綴り方)」
  5.おわりに
 第4節 同人誌「つづり方通信」と戦後生活綴り方教育復興の一側面
  1.「つづりかた通信」誌刊行の背景
  2.「つづりかた通信」誌刊行の目的および経過
  3.「つづりかた通信」誌の構成と内容
  4.「つづりかた通信」誌所収論考の考察
  5.おわりに

第2章 新教育運動の中の作文・綴り方教育

 第1節 コア・カリキュラム運動と作文・綴り方
  1.戦後作文・綴り方教育とコア・カリキュラム
  2.大学を中心とした研究的立場からのコア・カリキュラム研究と作文・綴り方
  3.附属学校を中心とした実践的立場からのコア・カリキュラム研究と作文・綴り方
  4.新教育・学力低下を問題にする立場からのコア・カリキュラム批判と作文・綴り方
  5.おわりに
 第2節 単元学習の草創と作文・綴り方教育
  1.「昭和22年度指導要領」にみる単元学習と作文・綴り方
  2.飛田多喜雄の単元学習論と作文・綴り方
  3.倉澤栄吉の単元学習論と作文・綴り方
  4.「26年度指導要領」にみる単元学習と作文・綴り方
  5.おわりに
 第3節 作文・綴り方復興の契機としての『新しい綴り方教室』
  1.『新しい綴方教室』の刊行とその反響
  2.『新しい綴方教室』刊行当時の作文・綴り方教育
  3.『新しい綴方教室』の成立
  4.『新しい綴方教室』の作文・綴り方教育論に対する評価
  5.『新しい綴方教室』の作文・綴り方教育論
  6.おわりに
 第4節 「書くこと(作文)」と「つづり方(つづること)」の位置と意義
       ―「生活文」指導をめぐる作文・綴り方論争―
  1.作文・綴り方教育の隆盛と「書くこと」「作文」「綴り方」
  2.A「『つゞり方』か“作文”か―学校作文への反省―」の内容、特質と反響、反論
  3.B「混乱する綴方教育 生活文か、作文か『指導要領』に教師の悩み」の内容、特質と反響、反論
  4.C「社説 教育の観念化を恐れる」の内容、特質と反響、反論
  5.おわりに

第3章 作文・綴り方教育の展開と拡大・発展

 第1節 学校文集『山びこ学校』の刊行とその評価・反響
  1.戦後作文・綴り方教育における『山びこ学校』
  2.『山びこ学校』の成立とその背景
  3.文集「きかんしゃ」の内容と特質
  4.『山びこ学校』に対する昭和20年代の評価と反響
  5.『山びこ学校』に対する昭和30年代以降の評価と反響
  6.おわりに
 第2節 「第1回 作文教育全国協議会(中津川大会)」に見る戦後作文・綴り方復興の到達点
  1.「第1回 作文教育全国協議会(中津川大会)」の意義
  2.「中津川大会」開催にいたる経過
  3.「中津川大会」の概要と性格
  4.戦後の作文・綴り方教育における「中津川大会」
  5.「中津川大会」の内容と特質
  6.おわりに
 第3節 生活綴り方批判の「受容」と「反批判」
  1.「生活綴り方批判」「反批判」の概要
  2.「生活綴り方による生活指導」をめぐって
  3.「生活綴り方と教育の科学化・系統化」をめぐって
  4.おわりに

第4章 戦後作文・綴り方教育の到達点と課題

 第1節 野名・田宮論争とその背景としての「1962年度活動方針」(日本作文の会)
  1.「野名・田宮論争」の背景―戦後作文・綴り方教育への評価―
  2.「野名・田宮論争」の経過
  3.「野名・田宮論争」の前提
  4.第1次「野名・田宮論争」の展開とその内容
  5.第2次「野名・田宮論争」の展開とその内容
  6.「野名・田宮論争」の成果と課題
 第2節 倉澤栄吉の「書くこと(作文=綴り方)」教育論
  1.戦後作文・綴り方教育論の成立・展開と倉澤栄吉
  2.倉澤栄吉の「書くこと(作文)」教育論の展開1
    ・「実作主義」・《単元学習》の中での「書くこと(作文)」を中心とした時期
  3.倉澤栄吉の「書くこと(作文)」教育論の展開2
    ・「言語主義」・書く活動の中での《言語・表現》の機能を中心とした時期
  4.倉澤栄吉の「書くこと(作文)」教育論の展開3
    ・「活動主義」・書かれた作品よりも《書く活動・書く過程》を中心とした時期
  5.倉澤栄吉の「書くこと(作文)」教育の意義・目的論
       ―「書くこと(綴り方・生活綴り方)批判」を視点として―
  6.倉澤栄吉の「書くこと(作文)」教育の内容・方法論
  7.おわりに
 第3節 児童文の特性に着目した「文章表現形体」論の誕生
  1.「文章表現形体」論の成立
  2.「文章表現形体」論の成立―国分一太郎の論考を中心に―
  3.「文章表現形体」論をふまえた実践―「作文と教育」誌所収論考を中心に―
  4.「文章表現形体」論の展開と変容―「表現形体」論から「定式化」論へ―
  5.おわりに

あとがき
索  引

http://www.keisui.co.jp/cgi/isbn.php?isbn=ISBN978-4-86327-351-1

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