呪気

 また、日曜の夜がやってきた。何度も何度も僕を追い詰め悪夢を這わせてくる夜が。でも逃げられないんだ。生活は続いていく、生きていくためには労働を日常の一部に組み込まなければならない。

 そういえばさ、最近改めて失恋をしたんだ。好きになるのを辞めようと、もう新しい道と向き合おうと思っていたけれどやっぱり好きという気持ちは消失しなかった相手がいたんだ。彼女とはよく通話をするしゲームもする。でも僕は過去に彼女を傷つけたから、もどかしい気持ちを常に心に置いていた。
 「好きになってはいけない、互いのために。」その言葉は呪いのように僕の脳裏に焼き付いていた。
 そんな時期を一年とちょっと過ごした。そうだね、ほんとに大学を卒業する手前から社会人二年目になるこの時期まで。ようやく新しい環境に、働くという地獄が生活に定着してきた3月だった。  

 「私は彼氏いますけどね。」彼女からそんなセリフがふと零れ落ちた。もうどんな状況でそんな話になったかなど覚えていないが、呪われた僕には「そうなんだ、いいことだね」くらいの抵抗ぐらいしかできなかったのを鮮明に覚えている。そして追い打ちをかけるか如く「遠距離なんですよ、○○さんが知ってる人ですよ。」

 ただ、労働なんてちんけに思えるほどの地獄だった。もっとより深くに、這い上がれないところに突き落とされたかのような。
 そんな奴は、僕の数少ない大学時代の親友の一人しかいなかった。

 彼は魅力的だった、贔屓目とかではなく人間として。本当にいい意味で自分を良く魅せる方法を知っているし、なにより優しかった。そして何より趣味が似ていた。スマブラが好きで、仮面ライダーが好きで、同じスポーツが好きで。でも何より衝突も多かったけど間違いなく最高な友人の一人だった。僕が彼女に抱いている気持ちも何もかも包み隠さず話していた人間の一人だった。

 そんな彼が彼女の彼氏だった。一年と半年になるらしい。まだ夢追人であった時から、何者にもなれていなかったあの時から僕の気持ちはどこかに捨て置かれ、彼と彼女は付き合っていた。全く気付かなかった、うそ。なんとなく怪しい場面は幾度かあった。僕と彼が衝突したのは決まって彼女とのことだったし、二人で遊びに行っていたのも知っていた。彼が付き合ってないよという言葉をそのまま心にコピー&ペーストし、知らないふりをしていた。

 もうどうだっていいんだ、別に。彼は最高の友達であった過去に変わりはないし、彼女が本当に好きだった一人であったことに間違いない。
 彼女は言った。「ほんとうに好きかどうか分からない」「4~5回しかデートに行ってないし」「メッセージのやり取りとか通話とか圧倒的に○○さんの方が多い」
 どうでもよかった。何かがプツンと切れる音がした。僕は呪われいて、でもそれは自分がかけた呪いで、呪いは、、、。

 生活は続いていく。どんなに地獄でも社会にとって、個人の都合なんてどうでもいいようなものだ。僕はこれから彼と彼女に友達として接することはできるのだろうか。アルコールが頭を狂わしはじめ、僕は悠久の眠りへと落ちた。


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