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機密天使タリム 第4.5話 期間限定公開「人生最高の二つのプレゼント」

タリムの誕生日記念で限定公開。
本来は終盤で明かされる予定の過去エピソードです。

今話は過去編の後、第一話が始まる直前のお話。
過去編(第四話)はこちらから。


1998年6月15日、機関

『……二ホン?』
「ああ、今日からこの国で過ごすんだ」

 私の護衛、黒鵜先生がそう言った。

『私って、この間までどこの国にいたの?』
「機密事項だ」
『えー……。どーせまた、ほとんど外に出られないんでしょ?
二ホンとか言われてもなー』
「いや、そろそろ訓練は終わりだ。
実戦に入る」
『ってことは、実戦のときだけ施設の外に出られるの?
ヤッター!!!
ってことは、任務が終わった後は寄り道すれば遊べるね!えへへ』
「バトルスーツでウロウロするな。
任務終了後は速やかに帰投してメディカルチェックを受けろ」
『はー……。
つまんなーい。
こういうの、日本語でセチガライって言うんだっけ?
わざわざ日本語まで勉強させといて、そりゃーないよー』
「……すまん」

 珍しく、黒鵜先生が謝った。

『あ……訓練で忘れてた。
私今日誕生日じゃんー』
「……そうだったな。誕生日おめでとう」
『ぶー。どーせ今思い出したからなーんにも用意してないんだよね?」
「悪かった。なにか欲しいものはあるか?
俺で出来る範囲のものなら、用意する」

 私は少し考えた。

『欲しいもの……。
んーと……猫!!』
「ぬいぐるみか」
『本物!!』
「却下」
『えー……。
私だって、お友達が欲しいよぉ。
人間の友達は機密とかで無理でもさあ……』
「機械の多い施設内での飼育に猫は向かない……。
機械を破壊される危険性もあるが、猫の生命も保証できん」
『ぶー。じゃあ、なんもいーらない!』
「……タリム、そんなに友達が欲しいのか」
『どーせ無理でしょ、わかってんだから』

 

1998年7月7日、機関

「タリム、センサーに変異体の反応があった。
いよいよ初出撃だ。
準備はいいか?」
『……と、当然ですよ。
わわわわたしを誰だと思ってるんですか。
化け物を倒して帰ってくるだけの、誰でも出来る簡単なお仕事です』
「……お前にしか出来ないがな」

 私の手はガタガタと震えた。

『わ、私がここで負けたらどうなるの……?』
「世界が滅ぶ。それだけだ」
『今更だけど責任重大っ?!
どうしよう……ちゃんとやれるかなあ。
怖くなくて優しい敵だといいけど』
「そんなものはない」
『……ですよねー。
はあー……。
タリム、出撃します!!』
「タリム、ヘルメットの感情制御機能と、認知阻害システムをオンに……おいっ!!」

 私は緊張で先生の言葉を聞き流しながら、装備一式を纏い、背中から銀色の機械翼を出して、施設の私専用カタパルトから飛び出した。
 

『センサーではええと……南南東2km……1km……500m……あれは?!』

 一人の少年が、化け物に襲われていた。

『絶対死なせない!!!
敵を殲滅します。大事なものを守るために……!!』

 とっさに身体が動いていた。
 化け物の前に立ち、トンファーで攻撃を受け止めた。受けきれなかった牙が腕をかすったが、問題ない。
 私は構えを取った。
 
『適合率92%、エネルギーチャージ完了。……ロックオン、タリム砲発射!!』

  私は、誇らしかった。
 ようやく、自分の責任を果たす第一歩を踏み出せたことを。
 誰かの命を守れたことを。
 だから、浮かれていたんだ。

 本来なら一般人に存在を知られてはならないのに、認知阻害システムも使わず。
 私はヘルメットを外すと彼に『大丈夫?』と言って微笑んだ。

『あ、人前でコレ外しちゃダメなんだっけ……。世界で唯一の機密兵器とか、面倒だなあ』
 
 それが、運命の始まりだと知らずに……。


翌日、機関

 その翌日、施設内の私の部屋で黒鵜先生と話していた。

『無事に初任務達成できたーーー!!
あ、そういえば結局誕生日のお祝いもらってない!!
両方合わせて凄いご褒美ないかな~~~?』


「あ……すまん。ここ数日用意する時間がなくてな。俺で出来る範囲の……」
『それもう聞いたー。
私友達がほしいなー!!』
「それはプレゼントとして用意出来るようなものでは……」


 そこに茨先生がやって来た。

「友達?そうねえ……この子もそろそろ外で人と交流したほうがいいかもね」
「……機密の塊のタリムを、一般人の中へ?」
「ええ。この地域の学校に、機関の影響が強い中学校があるのよ」
「学校の協力で機密は守られていても……。タリムに学校生活が出来るか?」
『がっこう……?あの、ドラマとかでよくある、ヤンキーがオラオラしたり、校舎裏の木で告白したりする、おっきい建物?』
「……大分情報が偏ってるな。
日本の学校は特に複雑怪奇で理解しがたい独自の文化があると聞く。
やはり、七歳からずっと機関で育ってきたタリムは難しいだろう……」
『えっと、学校に行けば同年代の子どもがいっぱいいて、友達が作れる……?』
「友達が出来るかどうかは不確定だ。不条理な経験をする可能性のほうが高い」
『……でも、私……ちょっとだけ、見に行きたい……』

 茨先生は肩をすくめて言った。

「ね、見るだけならいいでしょ。
私たちも実戦直前の調整で誕生日もうっかり忘れてたしさ。
あんたと私で様子見てりゃ大丈夫でしょ」
「ふう、わかった」
『やったーー!!!』

 私は黒鵜先生と茨先生の三人で、中学校の校庭に行った。
 部活動で数人が走っている。
 体育館でボールが床に弾む音と、活気のある声がする。

『うわぁー……。すっごい!!
若い子たちがいっぱい!!
みんな白衣とかスーツ着ていない!!
うわ、サッカーしてる。いいなあ。
……あれ?』
「どうしたの?」
『木陰のベンチで寝っ転がって本読んでる子がいる。
変なのー。皆と一緒にサッカーで遊べばいいのに。
……あれ?あの子昨日助けた子じゃ……』

 その子を眺めながら、黒鵜先生と茨先生が話し出した。

「ねえ、黒鵜」
「なんだ、茨?」
「この子にも、自分の意志で戦う理由が必要だと思うの。
私たちがそう育てからってだけじゃなく、心から自分で選び、戦えないと、
いつか必ず挫けると思う」
「その理由づくりのために学校へ?
適応できなければ、逆効果になる」
「そうならないために、私たちが学校内でサポートするのよ!!
私が保健の先生。あんたが担任」
「……すぐに手配すれば出来ないことはないが」

 私は思わず声が震えた。

『学校……行けるの……?
行っていいの……?
本当に……?』
「うん!!大分遅れだけど、私からの誕生日プレゼント!!!」
『うわぁーーーーーーーー!!!ありがとう茨先生!!人生最高のプレゼントだぁーーーーっ!!!』
「おい!俺からのプレゼントでもあるんじゃ……」
『黒鵜先生はなにくれるの?』
「……ちょっと待て、真剣に考えるから……」
「ぷぷぷ、こいつ珍しく焦ってやんの!」
「茨ぁ……!!」

 黒鵜先生は茨先生を睨みつけた。

「だいたい、俺たちが先生として見守るのはいいが。
タリムに一番必要なのは同年代からのサポートではないのか?」
「そうねぇ。
あの少年が世話係でもやってくれたらいいんだけどなー」
「……そうか。
タリム、学校が始まったらあいつがお前の世話係だ」
『うん……??』
「ちょっと黒鵜?!あの子巻き込むの?」
「少し学校生活をサポートしてもらうだけだ」
「だからって、あの子がちゃんとタリムの面倒を見てくれるか……」
「調べはついている。
少し複雑な家庭環境で一人暮らしのようだが……以前身体を張って幼馴染の少女を守ったことがあるそうだ」
「まあ、それなら少しは見込みがあるかな……」
「タリム。
彼を下僕だと思って存分にこき使って甘えてやるといい」
『いいのー?!』
「ちょっと黒鵜ー?!」
『あとさ、あとさ!!
出来ればだけど!!出来ればだけど!!
機関の施設以外から学校通いたい!!
流石に無理かな?』
「あー、それなら私のマンション……普段あんま使ってないけど……」
『それ機関のマンションじゃんー。
ホテルとかも嫌だよー。
そういうのじゃなくて、もっと普通の家がいいなー』
「……俺に妙案がある。
それが、俺からの誕生日プレゼントだ」
『やったーーーーーーー!!!!
人生最高の誕生日プレゼントが二つもあるんだ!!!
しっかり予習して行かなきゃ!!!』

 茨先生が心配そうに訊いた。

「タリム、予習って……」
『”ドキッ☆恋とキラキラの転校生~運命の出会いは突然に~”を読んでおけば問題ないはず!!!
あれは日本の少女漫画の中でも名作中の名作……っ!!
まず、ヒロインはパンを口にくわえて”遅刻遅刻~~っ!!”から始めないと!!!
あれ、パンをくわえたまま上手く言えるかな?』

 茨先生はため息をついた。

はじめて制服を着てルンルン


そして、第一話の始業式の朝へ続く。


今話を読み終わったら↓第五話へどうぞ。


あとがき

タリムの誕生日は本編終盤にあります。
本来はその少し前に明かされるエピソードでした。
公開限定期間は未定。
まあ、なんか問題点が出ない限り消さないです。

↓♡を押して頂くとヒロインおみくじが出てきます。


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