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群馬の誇る温泉文化!「ユネスコ無形文化遺産」に登録されるとどんな影響があるの?


草津温泉や伊香保温泉などたくさんの温泉があることから、"温泉県"としても知られている群馬県。今そんな群馬県を中心に、日本の伝統文化である温泉を「ユネスコ無形文化遺産」に登録しようという動きが行われています。しかし、そもそも無形文化遺産とは何なのでしょうか? また、登録されることでどんな影響があるのでしょう? そんな疑問について、日本古代史研究、地域研究などを専門とし、温泉文化ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会の特別顧問も務める、熊倉浩靖特任教授に聞いてみました。



群馬県には、世界から認められた遺産がたくさん


群馬県にはたくさんの遺産があるそうですね。

群馬県にある遺産というと、2014年に世界文化遺産へ登録された「富岡製糸場」が有名かもしれません。しかし実は、他にも世界に認められた遺産が多くあります。

例えば、2017年にユネスコ「世界の記憶」へ登録された「上野三碑(こうずけさんぴ)」。「世界の記憶」とは、人類にとって貴重な文書や書籍などの保護・活用を目的とするもので、アンネ・フランクによる「アンネの日記」の現物や、ベートーヴェンの「交響曲第9番」の自筆楽譜など、後世に共有すべき貴重な「原本」が登録されています。

上野三碑は、約1300年に渡って守り続けられてきた日本最古の石碑群であるとともに、母親への感謝を伝える文など、これからの世界にも伝わってほしい、伝えていかなければならない内容が刻まれているものです。これは、歴史的に貴重なものであることはもちろん、地域・世界の将来にとっても価値のある遺産といえます。


群馬県にある、その他の世界的な遺産についても教えてください。

自然が作り出す遺産も多くあります。例えば、豊かな生態系を持ち、かつ地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域「ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)」に認定された「みなかみエコパーク」。さらに、まだ日本レベルですがユネスコの定める基準に基づいて認定され、「大地の公園(ジオパーク)」に登録された「下仁田ジオパーク」や「浅間山北麓ジオパーク」など、群馬県はたくさんの遺産を有しているのです。

群馬県が中心となり、日本の温泉文化を「ユネスコ無形文化遺産」登録へ導く


先生は、温泉文化ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会の特別顧問として、日本の温泉文化が無形文化遺産に登録されるための活動を支えているとお聞きしました。温泉文化の登録について詳しく教えてください。
実は、温泉文化の登録は、欲張りから始まっているんです(笑)。先ほど説明した通り、群馬県にはたくさんの世界的遺産があります。ユネスコ「三大遺産」と呼ばれるうちの二つ「世界文化遺産(富岡製糸場)」「世界の記憶(上野三碑)」もすでにあります。そこで、もし「三大遺産」の残りの一つである「無形文化遺産」が登録されれば、群馬県に「三大遺産」が揃うな、と思ったんです。そうして、群馬県が日本を引っ張っていけるような無形文化遺産ってなんだろう、と考えたときにひらめいたのが群馬県の名物である「温泉」でした。
無形文化遺産とは、民俗芸能,口承伝統など、地域や国が風土に合わせて培ってきた、形にならない民俗文化財の保護を目的としたものです。例えば、現在登録されている日本の無形文化遺産には、能や歌舞伎、いくつかの祭りや和食などがあります。
「温泉文化」のどのあたりが無形文化遺産につながるのでしょうか。
現在失われつつある「湯治」の本質部分が、文化として保護すべき点に当てはまるんです。私たちは、「湯治」の本質は、日本の「祭り」に似ていると考えています。
日本の民俗学に「ケガレ(穢れ)」という言葉がありますが、これは「身体が汚れている」ということではなく、「ケ(=日常)が枯れる」という意味です。日常に疲れていくと、「ケ」が枯れる、つまり日常のエネルギーが失われていく。そんなときに、祭りで大きなエネルギーを投入することで、「ハレ(=非日常)」の状態に持っていく。その後、仲間同士で歌ったり、食事をしたりすること(「直会(ナオライ)」)で、また「ケ(=日常)」へ戻っていく。このように、「ケガレ」「ハレ」から「ケ」に戻ってくるという日本の「祭り」は、民俗学でいう人間の心身のリフレッシュ構造になっています。
私たちは、この「祭り」のリフレッシュの構造が、「湯治」の本質にも当てはまると考えています。例えば、温泉では「さっと体を洗ってから静かにお風呂に入りましょう」とよく言いますよね。これは、日本の民俗学で言うところの「潔ぎ」と「イム(忌)(=身を慎み)」、つまり穢れた外側の汚れを落とす行為になるんです。身を慎み(「イム」)、温泉の持っている熱や成分を体に受けることで、祭りのように新しいエネルギーを自分に取り込む(「ハレ」)。その後、浴衣を着てみんなで食事をし(「直会(ナオライ)」)、日常(「ケ」)に戻っていく。このように、「湯治」の本質も、実は「祭り」の構造と同様だと思われるのですが、現代ではその事実が忘れられかけている。だから、「無形文化遺産」に登録してその本質を保護しようということなのです。

温泉には日本の文化が凝縮されている。おもてなし文化を世界へ発信


温泉文化が無形文化遺産に登録されると、どのような効果や影響が見込めるのでしょうか。

世界的な遺産への登録の影響というと、「インバウンド効果(外国人の訪日旅行)」を考える方が多いかもしれません。しかし、インバウンドのためだけではなく、日本の温泉を使ったリフレッシュ方法や、"おもてなし"のあり方を伝えることも大切だと考えています。

例えば、温泉宿には、美しい花が生けられていたり、茶がたてられていたり、日本の文化が凝縮されていますよね。それらすべてが日本の温泉文化なのではないか、そしてこれらを海外の方に、人材育成の一環として教えることができるのではないかと考えています。

日本は少子高齢化が進み、地方の人口も減っている状況です。そんな中、海外の人を雇用することは、労働力の確保だけでなく、彼らに日本でしか得ることができないおもてなしやノウハウを伝え、それを自国に持ち帰り生かしてもらうことで、知的財産を文化輸出することにもつながるのです。

私たちは、群馬県に無形文化遺産が欲しいのではなく、群馬県から日本全体に向けて新しい無形文化遺産を引っ張っていきたいという気持ちを持っています。今年の6月には温泉文化の世界遺産登録に向けて、全国の温泉協会の方の同意もいただきました。2019年11月末には、中央温泉研究所が勉強会を開催するので、そこでも話をしながら全国的に活動をしていく予定です。

最後にこれから大学進学を考えている高校生へ向けて、メッセージをお願いします。

まずは、地元にあるものに興味を持ってみるといいと思います。例えば高崎だったら、実物の上野三碑に刻まれた文字を読んでみて、地域の大切さや言い伝えについて関心を持つ。そのような地元に関する知識を持っていれば、就職したときの商談なんかでも話が広がり、すぐに打ち解けることができるでしょう。

また、勉強は教えられたから覚えるのではなく、自分が学びたいことを少しずつ学んでいくことが大切だと思います。ときには苦手なことも学んだ方が、その分好きなことをもっと学べると思いますね。ネットで情報を得るときは一つの情報だけで考えるのではなく、検証してみることが大切です。1点だけで直線を引くのではなく、3つ以上の点を結び、比較をする。そうすると見えてくる答えがあると思います。

先生の必需品!

みなかみの桐箪笥屋の四代目が考案した桐のカバン

今回インタビューした教授


商学部 経営学科
熊倉浩靖 特任教授

著書
・『古代東国の王者』雄山閣(2008年)
・『群馬県謎解き散歩』KADOKAWA 新人物文庫(2013年)
・『日本語誕生の時代』雄山閣(2014年)
・『上野三碑を読む』雄山閣(2016年)

論文
・「都市行政評価ネットワーク会議 自治体業務改善のためのベンチマーキング」 日本評価学会『日本評価研究』Vol.11.NO.2
・「あずまのくに(東国)考」『群馬県立女子大紀要』第36号
・「世界記憶遺産候補・上野三碑を読む」『群馬県立女子大紀要』第37号
・「古典としての上野三碑」高崎経済大学『地域政策研究』第19巻4号
・「上野三碑と韓国石碑文化」『群馬県立女子大紀要』第39号

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