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何者でもない手、綺麗な手

 仕事を辞めてから早いものでもう3週間が経とうとしていて、いい加減次の仕事を見つけるアクションを起こしたい気持ちは十二分にあれども離職票が未だ元会社から届かないのでなんとも宙ぶらりんな日々を過ごしています。趣味のひとつである銭湯施設めぐり(サウナが大半を占めているのですが家とは違うでっかい風呂が好きという気持ちも大いにあるので銭湯施設めぐりと呼称させていただきたい)のなか、太陽光差し込む内風呂に入りながらぼんやりと自分の手を見つめていて思いました。
「随分綺麗な手になってしまったなあ」と。

 私が元々働いていたのはものづくり系の仕事だったもので、手が汚れるのはしょっちゅう。深爪はいつものこと。時々怪我だってしていました。一番気になっていたのは爪の端に付いた研磨剤の色でした。爪と肉の間に残った研磨剤は連休に入ればある程度落ちるのにこの爪の端に付いた研磨剤の色はなかなか落ちませんでした。どんなにネイルブラシで擦っても落ちなかったそれはなんだか自分と会社を繋ぎ止めているようであんまり見てて気持ちの良いものではなかったと記憶しています。
 ただ、皮膚の色とはまるで違う金属由来の灰色のその汚れは自分がその仕事を懸命に遂行している証拠でもありました。仕事自体は好きだったので。
 そして私は自分に限らず働いている人の手がなんとも好きなのです。日々の仕事によって変わっていったゆるやかな進化にその人の時間や経験が凝縮されているようでなんとも愛おしさを感じてしまいます。母が長年整形外科で働いていて、それによって変形していった手の骨や厚くなった指の皮が好きだったりします。

 もうあの会社には戻ることがない、しばらくこの職種に就くこともない予定の自分。すっかり綺麗なフラットの状態に戻ってしまった自分の手を見て「何者でもない手になってしまったなあ」などと入浴後の焼きカレーを食べながら思いました。次どんな仕事に就くのかもまだ未確定。心地よく働ける環境に就けたらいいなあ。

 仕事を辞めたらやりたかったことのひとつだったので、とりあえずは、深爪を治すことにしました。

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