【小説】ダンジョン脱出〜迷宮の罠師〜 0日目 Part1 大口のクエスト
0日目 Part1 大口のクエスト
今日は晴れて、ぽかぽかと温かい。
僕は仕事机に向かいながら、本を読んでゆったりとくつろいでいた。
すると、郵便フクロウが僕の仕事部屋の窓をコツコツと叩いた。
「ロクさん、アンタの『お客さん』からクエスト依頼だッポ~」
そう言うと郵便フクロウは窓の隙間から、クエスト依頼書が入った封筒を、部屋に押し込んできた。
僕は読んでいた『ダンジョントラップ入門』(トラ・プロハン著)に栞をはさみ、無造作に机に放ってから、封筒を拾い上げた。
とうとうこの日がやってきた。
大口のクエストだ。
今まで、さんざん下っ端のトラッパーとしてパーティーメンバーにこき使われ、辛酸をなめてきたこの僕に直々の依頼だ。
これで『へっぽこ罠師のロク』の異名ともおさらばだ!
「よおおおし!」
僕は思わず雄叫びを上げる。
数日前、ギルドリーダーに直談判して無理やり工面してもらったクエストだ。
トラッパーでも受けられる大口の依頼を回してほしいと泣きついたのは妹には内緒だ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
自宅兼仕事部屋のドアを恐る恐る開けて、妹が顔をのぞかせる。
妹は数年前、パン屋の手伝いをしていたとき、熱々のすすを目に浴びてしまい、今はぼんやりとしか目が見えなくなってしまった。
そう、僕は妹の目を治療費を稼ぐため、冒険者になった。
「前言った大口のクエストが正式な依頼書になって届いたんだ!」
「そうなの?…やったね!お兄ちゃん!小間使いの罠師はもう嫌だって言ってたもんね」
「え、あぁ、うん。そうだな」
小間使い、そう冒険者と言っても僕は体力がないので、剣士にはなれず、魔術は元々備わってる魔力が少なすぎて断念したのだ。
結局、誰もやりたがらない、地味な「トラッパー」という役職をやるしかなかった。
これが、ようはただの雑用係。ダンジョンを下調べしたり、【潜伏】スキルを使って索敵したり、モンスターを分析したり、ダンジョンに張り巡らされた【罠】を解除したり…。
「ごめんね、私の目の治療のために、お兄ちゃんに無理させちゃって」
妹が少し目を潤ませて、僕を見上げる。
「妹よ、そんなことを言うな。お兄ちゃんは、いや、トラップのエキスパートの、このロク様がお前の目を国一番の医者に診せて、あげくは大金持ちにしてやるぞ!」
そう言って僕は小柄な妹を抱き上げ、仕事部屋をぐるぐると回り始めた。
「きゃはは!やめて〜お兄ちゃん〜おろして〜」
そうだ、僕はこのクエストを難なくこなして、妹の目を治療してやるんだ。
そして、トラッパーのプロとしてこの街にロクの名を轟かせてやる!
このとき僕はまだ知らない。
まさか、脱出不能のダンジョンに閉じ込められ、無事にすべての罠を解除し、出口の扉を開けられたらクエスト成功、罠の解除に失敗して出口を開けられなければ、永遠に外に出ることはできないなんて。
ちくしょおおお、あの依頼主のヤツめ!末代まで呪ってやる!
※ヘッダー画像はChatGPTによる生成画像です。
余裕があったら自分で描きたいなぁ。