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青年は小説家をめざす

外国の橋の上で、柔道の受け身をしたことがありますか?

僕はある。

昨年、
zシアの軍事行動に、
衝撃を受けた。

(国名は身の危険を感じるため伏せる)

世界の片隅のアジアで、上場したとはいえ、
まだ小さなメディアプラットフォーム内の
一瞬で埋もれてしまうコンテンツであっても、

自分の頭で考え整理し、
今、書いておく必要があると考えた。

少し長い回想にはなるけれど、
しばしお付き合いあれ。

今から20年ほど前、
五木寛之の『青年は荒野をめざす』の文庫本を空港で買って、
zシアのモスクワとサンクトペテルブルグへの旅に出た。

ホテルと往復の航空チケットがセットになった格安ツアーだ。

主な目的は、サンクトペテルブルグにある、
エルミタージュ美術館。

小学校高学年の頃、
家の近くに市立美術館があって、
エルミタージュ展が開催された。

エルミタージュ

そのポタージュスープのような聞きなれない響きが、
ずっと頭の中に残っていて、
いつか行きたいと考えていた。

ツアーにはオプションで、
ガイド付き半日市内観光と、
そのガイドさんとの夕食会がついていた。

サンクトペテルブルグ半日市内観光の後に、
ガイドさんおすすめの店で夕食を食べた。

どんな食事だったかは忘れたけれど、
ガイドさんは、日本文学を専攻している大学生だったので、
日本語で、日本や日本文学の話をした。

ガイドさんは、
川端康成が好き。
雪国が特に好き。
といっていた。

僕が『罪と罰』を読んだと言ったらパチパチと手をたたいてくれた。

ノーベル賞を取れば、
こんな遠方の国の女学生にも、

好き好き

とダブルで言ってもらえるならと、
僕は、速攻で文学の道を志すことにした。

食事の後のコーヒータイムで、
女学生は少し暗い顔をして、
zシアから日本へのツアーで必ず起こる、ある出来事を話してくれた。

当時、zシアから日本へ行くツアーは、
船で新潟から入るルートが安かったらしい。

で、東京や京都、大阪などを訪問したzシアからの旅行者たちが、
帰路の船内で必ず、すすり泣いたらしい。

なんで、日本は豊かで、zシアは貧しいのかと。
日本のすべてがテーマパークのように見えたと。
ただただ悲しくて涙が出ると。


ガイドさんは、悲しげな顔で、まだ私たちは貧しいと、小さな声でいった。

もし、
様々な文化がまじりあった東京や、京都の桜、雪景色の温泉宿、美味しいお寿司やラーメンなどなど

それに加えて、
お尻の穴にあてる水滴まで細かくデザインされた、ウォシュレットトイレが、

どれも、もう手が届かないとしたら、
泣きたくなる気持ちはわかる。

その船内の様子を想像ししたまま、
どよんとした気持ちで、夕食会は終わった。

次の日が最終日で、
目的地のエルミタージュ美術館を訪問した。

エルミタージュ美術館は、意外と小さくてサクッと見終えた。

まだ少し時間があったので、運河の対岸に見える寺院まで散歩しようと考えた。

運河にかかった橋を一人で渡っていると、対岸の方から、横1列になって、30人ほどの子供の集団が向かってきた。

年齢は中学生ぐらいで、貧しいジプシー風だった。
すぐに前後左右10人ぐらいに囲まれて、肩にかけたリュックを奪われそうになった。

最終日だったので、リュックの中にはパスポートが入っている。
渡すわけにはいかない。

僕は大声で、

No!

と叫びながら、
体を大きく左右に振って、振り払おうとしていたとき、
体のバランスを大きく崩して、倒れそうになった。

自分で言うのも何だが、

柔道の受け身のように左腕をつかって
美しく回転し、少し離れた場所で、

新造人間キャシャーンの定番である
中腰のファイティングポーズをとった。

これぞ、まさしくスティーブ・ジョブズ氏の
コネクティング ザドッツ!
この日の為に高校の授業で柔道の受け身を練習したんだ。

先頭の乾いた目をしたリーダーらしき少年が、

お主、やるな!

と思ったのか、情けをかけてくれたのか謎だが、
少し笑って、周りに、もう行こうと促したので、

気が変わらないうちに、ダッシュでその場を逃げ、無事に日本にも帰れた。



そして今、
世界を理解したいが、理解できない。

反対、中立、賛同で3分する世界で、
個人として、できることが思いつかない。

世界は、悪意ある視線を、銃口を、ミサイルを、お互いの目の前に突き付け合っている気がする。

が、1つだけ確かに思えるのは、

あの文学少女とは、
今でも、普通に日本や日本文学の話ができる気がする。

その感覚だけは失わないようにしようと思う。


最後に、

旅で出会った人は、
格闘した少年軍団以外は、皆、真面目だったということ。

街全体が、何んだか窮屈そうだったこと。
旅行中の食事で、ビックマックが一番おいしかったこと。

加えて、
高校の授業で、柔道の受け身を徹底的に教えて頂いた体育の先生に心から感謝することを付け加え、回想を終える。


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