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【短編小説】兄弟


とある国の国王、オリバー・スチュワートには、二人の王子がおりました。二人とも未来永劫伝わる程の美貌の持ち主で、両者目尻についたほくろが特徴的な王子であったそうな。

兄は、ジェームズ・スチュワート。運動神経抜群の、はしゃぎ放題のやんちゃボーイ。

弟は、ルーカス・スチュワート。成績優秀で、落ち着いているメガネボーイ。

真反対の二人は、いつも互いの裾を掴み引っ張りあって過ごしていたそうな。

例えば、街で行われるスポーツ祭では、圧倒的な速さで前を行くジェームズだが、他の参加者は遠慮して、弟のルーカスに前を譲る。
 そして、ルーカスが2位に浮上したとき、ジェームズがコケた。これを良いことに、ルーカスはそそくさと、ジェームズの前を急いで、トップになったんじゃ。しかし……。

「おい!セコいぞルーカス!」

「ふん!何の気なしに走って転ぶ方が悪いんだ!俺が前に行かせてもらうぜ!」

「くぅ、おりゃ!これでもくらえ!」

「いてっ!」

ジェームズは、側に転がっていた石ころを、ルーカスの頭に目掛けて放ったと。これがまた当たってしまい、二人は大喧嘩の末、父であるオリバーに、喧嘩両成敗だと、拳骨をくらったんじゃと。

そんな具合が長い事続いておったある日、父であるオリバーが死んだ。宮廷内は大変だと忙しい日々だったんじゃと。そんな中、ジェームズとルーカス、どちらが王位を継承するかの協議が行われたんじゃよ。それぞれ引を取らないまま、協議は膠着してしまったんじゃが、とある執事が、オリバーの部屋からメモを見つけたんじゃ。

『王位は、競争で勝利した者に与える』

その遺言に基づき、大臣たちは二人をだだっ広い中庭に連れてきて、円形のコースを作ったんじゃ。

「ジェームズ様、こちらを、ルーカス様より早く一周すれば、アナタが王です。」

「ルーカス様。体力で負けようと、関係ありませんよ。ジェームズ様がすっ転ぶための仕掛けを作るのです。」

両者は、互いに互いを睨み合った後、スタート位置に着いた。しかし、二人は背を向けている。

「お二方、同時に始めますので、どうか揃って開始してくだされ。」

「ふんっ、コイツなんかと並走しろと言うのか。」

「私も同感です。兄と同じコースを走りたく無い、私は、反対向きのコースを走ります。」

珍しく気が合った二人は、執事の合図と同時に、走り出したとさ……。


───「あ、そういうことだったんだね、先生。」

「そうじゃよ。だから二人は別方向に走っているのだな。では改めて問題!一周1kmの円形のトラックを、兄が分速500m、弟が分速250mで、それぞれ逆の方向に進んだとき、二人が再び出会うのは何分後じゃろうか、分かるかい?」

学徒に問う老人の目尻には、ひとつのほくろが細かく刻まれたしわに覆われていた。

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