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【短編小説】恋愛詐欺師

僕は人生の勝ち組だ。歩いているだけで沢山の

人がメロメロになり、貢いでくれる。誰よりも良

い夢のような人生だ。そこで僕は、恋愛詐欺師に

なることにした。そのままのんびり暮らしてれば

困ることもないんだけど、こうも完璧な人生だと

時々刺激が欲しくなるものさ。僕は、キリッとし

たイケメンというよりかは、ゆるっとした、いわ

ゆる『あざとい』というやつだった。世間では、

僕のようなやつを『子犬系男子』とも言う。

少しモヤモヤするが、そういうことだ。

詐欺師ともなると、いくつかの『顔』が必要だ。

色々な女の子がどう認識するか。もちろん、

本名丸出しで「詐欺師です」なんて言う詐欺師は

いない。大体は偽名だ。僕も、こう見えてかなり

色々な名前を持っている。

今日は、近くの町に住むレナちゃんの元にいく。

レナちゃんの家に着くと、ご飯が置いてあった。

なんて優しいのだろう。さすがの僕も、こうも

なってくると心が痛む。しかし、これが僕の生業

だ。すまないが、止めるわけにはいかない。

レナちゃんの元では、僕はジロウという名前だ。

なんとも安直な気もするが、まぁそれも可愛らし

い。レナちゃんにサヨナラを言った後、僕は

ミユちゃんの元へ向かった。こんなに多くの人を

騙していても、僕のことを「クズ」なんて言う奴

は1人もいなかった。そりゃそうだろう。僕が

詐欺師だなんて、知る由もないのだから。

おっと、もう着いた。ミユちゃんの家は、さっき

のレナちゃんの家からさほど遠くは無い。

「あ、ムギー!」

ここで僕は、ムギという名前だ。奥には、仕事を

しながらコーヒーを嗜む男がいた。

「おお、今日も来たか。もうミユに懐いてるな」

ここでも、ミユちゃんはご飯をふるってくれる。

なんて優しいのだろう。やっぱり、僕は心が

締め付けられる。そろそろ、潮時かもな。

「もう帰っちゃうの?また今度ね」

僕は、ミユちゃんにサヨナラと謝罪を込めて尻尾

を振った。

『ニャア』

ミユを背に、1匹の野良猫がその場を後にした。


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