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数学で世界をステップアップ!~音の計測・処理から応用へ~

今回は知能情報システム工学科の矢田部浩平先生にインタビューしました。
今ではweb会議で当たり前に使われているzoomアプリなどは音響の研究があってこそ不自由なく利用することができています。本記事では音響とその研究に使われている数学についてお話を伺いました。

<プロフィール>
お名前:矢田部浩平先生
所属学科:工学部知能情報システム工学科
研究室:矢田部研究室
趣味:大乱闘スマッシュブラザーズ



物理現象からデジタルデータへ


─矢田部先生はどのようなことを研究されていますか?

音をはじめとする様々な物理現象をデジタルデータに変換して、解析・処理をするための信号処理について研究しています。
まず物理的な現象として音があり、それをマイクで録音すると、デジタルデータになって処理することができます。僕がメインでやっているのは音だけに限らない信号の解析や処理です。どうやったら物理現象をうまく計測してデジタルデータに変換できるか。そして計測したものはどうしたら面白い処理ができて、それをどう扱うことができるかについて研究しています。

–なぜ音をはじめとする物理現象の計測や処理の分野に興味を持たれたのでしょうか?

中学2年生ぐらいでギターを、高校からバンドを始めました。
高校生の時は音大に行きたいと思っていました。しかし親の反対で理系の大学に行けと言われて、理系の大学に進学しました。具体的には早稲田大学の表現工学科という、理工学部にあるけれど、例えばドキュメンタリー映像を撮影したり、CGアニメーションを作ったり、作曲をしたりとアート寄りの学科に進学しました。僕はバンドをやっていて、音楽が好きだったから音響に関わりたいと思い、そのまま音響に関する研究室に所属しました。
バンドマンとして将来生きていこうと思って頑張ったんですけど十分な才能がなくて夢破れ、それでもロックな生き方をしたかったので大学教授になろうと決めました。

楽しめて面白いものでないと


─研究者としてのこだわりはありますか?

研究のこだわりとは違うかもしれないけど、楽しめて面白いことをやりたい。逆に言えば楽しめて面白ければ何でもいいという気持ちです。技術の裏側にある数学が面白ければ何でも面白いって思っているので、数学的に面白いかは重要です。

–数学的に面白いとはどんな時に感じますか?

人が知らない、気づいていないテクニックを上手く扱えた時が面白いです。

数学自体は抽象的なものなので、何にでも役立つポテンシャルがあります。例えば、微分積分とかって計算の方法は知っていても、それが現実とどう結びつくかっていうのはあんまりピンとこないかもしれませんが、我々みたいな工学の人間は、数学を現実の問題に応用するということをいつも考えてます。抽象的な数学としての積分があって、積分のこの部分を現実の問題に当てはめることができたら、その積分を解くことで今考えてる現実の問題が解ける、みたいな使い方ができるんですよ。

僕は、研究としては結構マニアックな部分をやっています。学会に行っても誰も知らないようなすごいマニアックな数学のツールを使って、こんな面白いことできますとか、こんな性能になりますとか、そういうことを「面白くない?」みたいに提示するのが好きです(笑)

–今では当たり前になったweb会議なども音響の研究あってこそのものですよね。

そうです。何かのデジタル端末をつかって音でやり取りをすることって日常で普通にありますよね。これは音響工学(注1)や音響信号処理(注2)の研究や技術の結晶です。

–では音の処理や計測といった研究が社会に対してこれからどのように役立っていくのでしょうか。

難しい質問ですね。例えば音声合成やリアルタイム翻訳みたいに社会的なインパクトが大きい技術もありますが、僕が関わっているようなマニアックな研究だと明確にわかるような形では見えてこないかもしれません。

–そうですね、音響の良し悪しとか意識しないと気づかないところです。

音の処理に気付ける人ってそんなに多くないと思いますし、そもそも気付きにくいところで音響技術が使われていることもあります。例えば、スマートフォンや補聴器みたいにわかりやすく音響が関わっているものもあれば、超音波検査や海中の通信など見えないところで役に立っている音響技術もあります。実は音響分野自体はとても広いので、分野全体として今後どうなるかとかの明確なイメージはないですけど、そこに使われている数学の技術っていうのは、今後も世の中の発展に寄与するポテンシャルをたくさん持ってると思っています。

–数学は普遍的だからこそ、そのポテンシャルを持つということですね。

そうですね。数学っていうのは普遍的だからこそ、扱う対象が何であっても、同じ数式で書けてしまえば同じテクニックを使えるんです。だから、この数学のテクニックをこのデータに使うと面白いことができるよという提案をし続けることは、数学と現実の応用の架け橋を作っていることになると思っています。
全然違う分野でも同じ数学のテクニックを使っていれば、数学の言葉で「こうしたらいいかもね」みたいに議論ができて、情報処理とか信号処理と呼ばれている技術が発展していく原動力になります。究極的には数学の力で世界がステップアップしたらいいなって僕は思ってます。

大学院進学をひとつの選択肢に


─何か最後に高校生に向けてメッセージをいただけますか。

高校生の目線で僕が一番大事だと思ってるのは、今学んでいる教科が大学に入ってからどう役に立つのか、研究を始めてからどう役に立つのか、そしてその先どう使われるのか、ってのを知ることです。これらについて先に知っておくとイメージを持って勉強できると思います。興味のある分野、技術、研究などがあれば、積極的に高校生のうちから情報を探してみるといいんじゃないかなと常々思ってます。

ちなみに音響分野でそういった情報を得る一つの機会として、音響に関してだけで年間1000件以上の研究発表が行われている音響学会(注3)という学会があります。毎年3月に都内で研究発表会があるのですが、高校生以下は無料で参加できます。こういった機会を利用して早めに情報を手に入れるのもいいかもしれないですね。

あと、大学院って高校生の時点ではイメージつかないかもしれませんが、大学院で取り組む研究ってすごいクリエイティブです。何でクリエイティブかっていうと、今まで誰も知らないこととか、今まで誰もやってないことを自分がやる、そして初めてそれを世の中に出すっていう行為が研究だからです。

研究をやろうと思ったら、学部4年間だけでは全然足りなくて、やっぱり大学院、少なくとも博士前期課程、あわよくば博士後期課程まで進まないと、研究の醍醐味である本当にクリエイティブなところっていうのは扱いきれないと思います。だからこそぜひ大学院進学を高校生の時点で選択肢として、考えてみていただけるといいなと僕は思ってます。

(注1)音に関する技術を研究する学問である。実際には情報工学や電気・電子工学、物理学、機械工学、心理学などの多くの学問と関連している。

(注2)信号処理や機械学習によって、時系列データの解析や処理を行う音響技術のこと。

(注3)日本音響学会の略称。会員数約4000人。音に関するあらゆる分野の研究者や技術者が多く参加している。

文章:晴る
インタビュー日時:2023 年12 月9 日
インタビュアー:晴る

※インタビューは感染症に配慮して行っております。



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