木の細胞の死の原因を探る
今回は環境資源科学科の半智史先生にインタビューしました。
「自然と調和した社会」と「研究」
─先生が森林について学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
元々大型の野生動物に興味があって、それらを守るような仕事をやってみたいと思って、そういった勉強ができそうな大学の農学部を志望して入学して、当時は根拠もなく動物行動学が大事そうだと思ってたんですけど、実際にそれを扱っている研究室を調べてみると、ダニとか社会性昆虫についてやってる所で、なんだかイメージと違うぞってなったんですよ(笑)
それで、動物に関わるようなところで、森林とか生態系とかって結構大事なんじゃないかと思って、森林を選びました。
―森林や生態系が大事だと思ったきっかけはありましたか?
大学での授業を含めて色々聞いてるうちに興味を持ったかなと思いますね。ただ、元々高校生のときからすごく興味があって、本を読んだりとか一般向けのシンポジウム(注1)を聴きに行ったりとかもありましたね。
―他大学を卒業されてから、大学院は農工大に進学されてますが、理由を教えてください!
そうですね。学部は他大学でしたが、卒業論文の指導教員が船田先生(注2)だったんです。そうしたら、船田先生が農工大に移るっていう話になったんですよ。
そのとき、船田先生について農工大で大学院に進学するか、学部を卒業した大学で別の先生の研究室に入って大学院に進学するかっていう選択肢があって。でもそのとき船田先生とやってた樹木の細胞についての研究がすごく面白くて、そのまま自分のやりたいことを続けようと思って農工大に来ました。
―そのまま研究者になったということですね!
そうですね。ただ、自分が研究者に向いてるとかは思っていなくて。すごい基礎的な研究をしてたので、社会の役に立つのか疑問に思ってたんですよ。
でも他大学の先生の集中講義(注3)の冒頭で、
「これからの時代は自然と調和しながら生きていくのがすごく大事で、その中で農学をきちんと学んでいる君たちは社会に出て役に立つ人材になるはずです。」
っておっしゃっていて、その言葉が背中を押してくれました。研究自体すごく楽しかったので、継続してやりたいなと思いました。
木の細胞はどのように死ぬのか
─ありがとうございます!次に、具体的な研究内容について教えてください。
はい!樹木の円盤があると分かりやすいんだけど…
これはスギの円盤で、この一番外側の部分に分裂組織があって、生きている細胞がいっぱいいるんですよ。でも、分裂組織よりも内側の部分になると生きている細胞は全体で10%くらいしかなくて。特に、色の濃い部分は全部死んだ細胞から構成されているんですよ。木の幹はほとんど死んだ細胞からできているんですね。
ただ、細胞がどのタイミングで死ぬかっていうのは、どうやらコントロールされているようだという話なんです。しかるべきタイミングで死ななければ、うまく細胞の機能を発揮できないというのがあるので、いったいどのようにコントロールされているのかっていうのを研究しています。
特に、円盤の中央にある心材が、どういうメカニズムでできてるかというのを調べています。
―外側にある生きた細胞について知るために、内側の心材について調べているということですか?
なんて言ったらいいのかな(笑)内側には、若いときに作った組織があって、色がつく直前くらいの部分には15年くらい生きている細胞がいるんですね。
それで、最後に色の元になるような成分を作って死んでいくんですけど、色がついた部分には抗菌性が高い物質が沈着して、簡単には腐らない組織に変わっている。
ただ、15年くらいで急に死ぬ理由が分からないので、内側の心材が作られる場所を調べているという感じです。
―なるほど!
難しいですよね。ただ、木材を利用するうえでも、腐りにくくなっていることとか、色が違うことそのものが大事な特徴なんで、そういう個性を理解するという意味でもこの研究は大事なのかなと。
こんな感じで緑っぽいのもあれば、白っぽいのもある。
こういう個性がどうやってできているのかを理解するのも大事かなと思っています。
また、こういう性質をコントロールできるようになったら、材料としてよりよいものが作れるということで、社会に役立つ可能性があるんじゃないかなと思います。
興味を追求する
─研究していて面白かったエピソードはありますか?
そうですね。基本的には大きな木を使わないと調べられない研究なので、いろんなところにサンプルを取りに行くんですけど、そういうときはすごく楽しいですね(笑)
この間も富山の方に木を取りに行ったんですけど、直径が2メートルくらいあって、そういう木からサンプルを取るのはテンションが上がりますね。
―どの木を材料にするかのこだわりはありますか?
こういう現象を調べるには、こういう種を使うと良いとかはありますね。あとは、材料が手に入るかということもあります。
例えば、これはカキの木なんですけど…
普通のカキの木の幹は真っ白なんですけど、1000本に1本くらいこういう黒い幹があると言われてるんですよこれがどういう理由なのかは分かっていなくて、学生もテーマにして研究しています。
―研究者としてのポリシーはありますか?
知りたいことをどんどん突き詰めていくっていうのが大事かなと思っています。でも、絶対自分ができないことが出てくるんですよ。
そういうときに、ここはもういいやってなるんじゃなくて、いろんな人と組んで研究を進めています。
分野が違う人達とも組んでやってみると、意外な切り口があることに気が付いたり、一つの専門だけだとたどり着けない面白いことが分かったりするので、そういうことも大事にしていますね。
―ありがとうございます!最後に高校生のみなさんにメッセージをお願いします!
何か興味があることはどんどん突き詰めていって欲しいなと思います。あとは自分の得意なこと以外にも、色んなことにチャレンジしてみるのも大事ですね。
実際に触れてみる意外と楽しいこともあったりして、でもそれは一度やらないと分からないんですよね。私の進路選びもそういった要素が大きくて、色々とやってみて一番楽しいと思えたことを大事にしてきたんです。じっくり考えて構築した道筋だけでなく、巡りあわせも大切なのかな。実際に経験することでこれまで選択肢になかったような方向性や将来像が見えることが、受験勉強でもモチベーションにつながると思うので、高校生のみなさんにも色々なことやものに触れてほしいです!
―本日はありがとうございました!
注釈
(注1)一つの問題に対して、複数人が意見を述べ合い、質疑応答を繰り返す形の討論会
(注2)2023年現在の東京農工大学農学部長
(注3)東京農工大学で行われている短期講義。通常の講義とは異なり、実習やディベートが中心で、英語で開講されているものもある。
文章:たに
インタビュー日時: 2023年 12月 12日
インタビュアー:たに
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
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