見出し画像

人と人工物の相互適応でより良い社会に

今回は知能情報システム工学科の近藤先生にインタビューしました。近藤先生の原点である人工生命の話から、人と人工物の関わりの将来像まで盛りだくさんな内容になっています。ぜひ最後までご覧ください!

近藤先生
<プロフィール>
お名前:近藤敏之先生
所属学科:知能情報システム工学科所属
研究室:近藤研究室
趣味:ドライブ

人と人工物とのつながり

―先生が研究テーマを決めたきっかけについて教えてください。

僕の原点は人工生命です。

―あまり聞き馴染みのないワードですね。

コンピュータで生命らしさは表現できるかという話です。コンピュータのように決まった通りにしか動かないものでも、生きているように見えることもあります。 例えば、ライフゲームというものがあります。二次元のセル(下図のように格子で表現されたもの)の世界で、白が死、青が生とする。それぞれのセルは、

  • 周囲に生きたセルが2つあれば次の時刻は不変

  • 3つあれば生に変化

  • それ以外は死

と設定したゲームです。

J.ConwayのLife Game
J.ConwayのLife Game

―(デモページで実際にDemo→Startしてみる)生きているように見えますね。不思議だ……。

なんか止まったら死んじゃったみたいな感じがするわけですよ。要するに決まった通りに動くプログラムであっても、ある条件が満たされると生きているように見えるという話ですね。

―コンピュータと生命というと人工知能(AI)が有名ですよね?

そうですね。チェスや将棋のAIが人間のチャンピオンに勝ったりしています。では、「コンピュータが人間に勝ったらそれで人間は終わりか?」というと全然そんなことない。AIを使うコンピュータ将棋がなかったら、今の若くて強い棋士は生まれてないよね。

―強い棋士の方が練習でAIを使っているという話はよく聞きますね。

人工知能が人間をダメにするのではなくて、それを使って人間が新たなステージに行ける可能性があると考えています。ロボットの義足をつけたらオリンピックで優勝しましたとかはナンセンスだと思うのだけれども、その人の社会生活とか幸福度を人工物によって高めることができたら、それは素晴らしいことだと思いませんか。

―人とコンピュータの相互作用ということですね?

そうそう。人と人工物の双方が学習、変化していくというところに非常に興味を持っています。これを相互適応と呼んでいます。今根底として考えていることはまさに相互適応で、VR技術やロボットを使ったリハビリテーションシステムの研究などをしています。

研究室で取り組んでいる没入型HMDを用いた認知心理学実験
研究室で取り組んでいる没入型HMDを用いた認知心理学実験

―人と人工物の相互適応の例として、どういったものがあるのでしょうか?

例えば、支援アルゴリズムの異なるロボットを使って、人が運動課題を学習する実験があります。完璧に支援してくれるロボットと組んで課題を練習した人は、その後に1人で課題をやっても大した上達が見られませんでした。条件を変えて調べてみると、ロボットの支援能力を、学習者の運動スキルが向上するにつれて上手になっていくように設計したとき、その人の運動能力が最も高くなることが示されました。ピアって言うのだけど、同じレベルの人と一緒に練習に取り組むと、能力が最大限に身につくと分かったわけです。

―なるほど。ライバルと切磋琢磨するイメージでしょうか?

これは私の想像だけど、学校の勉強なんかでも先生から教えてもらうよりも、友達同士でああでもないこうでもないって議論した方が、その後で身につくのではないかな?リハビリテーションロボットの課題難易度を調整するときに、こういった知見を使うと良くなるのではないかと考えています。

ハプティックロボットを使った協調運動中の脳活動を測定する実験の様子
ハプティックロボットを使った協調運動中の脳活動を測定する実験の様子

異文化との交流と自由な発想

―研究をする上で大切にしていることはありますか?

いち早く成果を出すということが研究の世界では重要なので、研究室外に発表することは大事だと思っています。研究室の学生さんのほとんど全員が在学中に国際会議に行っていますし、留学も積極的に支援しています。やっぱり学生時代は、いろんな経験をするのが重要です。失敗することも経験のうちだと思います。

―海外であることにはこだわりがあるのですか?

国内ももちろん行きますけど、やっぱり文化が違う人と話をする機会はすごく重要です。僕は、学生の時に数ヶ月間海外に行きましたし、2019年も5ヶ月間イギリスにいました。その間にものすごくいろんなアイディアを思いつくし、客観的に自分のことを見つめ直すことができました。やっぱり日本にいるとね、気づかないうちに周りに忖度していて(笑)。誰も僕のことを気にしてないと思うと、かなり自由な発想でいろんなことができる。

―留学は高校生や中学生にとってもいいことなのでしょうか?

現地の人と知り合いになるのは、文化や考え方を学ぶ上で非常に良いと思います。ぜひ機会があれば留学した方がいいと思います。大学に来れば支援制度もかなりあるので、そういうのを使ってみてもいいと思いますね。

研究の将来と高校生へのメッセージ

―研究の目的地を教えてください。

多くの人に影響を与えられることをしていきたいですね。例えば、健康寿命を伸ばしたり、ライフサティスファクションを高めたりするために暗黙的に人を支援するようなシステムを作っていきたいですね。あと、メガネでもぬいぐるみでも形はなんでもいいけど、パーソナルアシスタントがその人を生まれた時から記録し続けるというのも面白いなと思っています。情報を提供するだけじゃなくて、相互に成長していくような仕組みを取り入れた人工物を作りたいですね。

―最後に高校生に向けて一言メッセージをお願いします。

今は手軽になんでもできる時代で、色々とすぐに試せるのはいいことだけど、時間をかけずに見限っちゃうのはどうなのかなという気はしますね。どこに行っても最新の情報を誰でも手に入れることができて、発信できる時代って、逆にいうと情報を味わい切らずに捨てちゃうことがあるような気がしています。経験するだけじゃなくて、その後に自分でやってみようっていうのが、将来につながる気がしますね。

―これからプログラミングを始める人にも同じことが言えそうですね。

そうですね。思い立った時に始めてもらえれば良いのかなと思います。高校でプログラミングが授業で必修になって状況が変わってくるのかもしれないけど、やっぱりやらされているよりは好きでやるという方がいいですよね。

―義務というか作業になっちゃいますよね?

そうそう。先生がこれを言い、だからこれを調べてこうやりましたって作業になっちゃうとつまらないので、学生時代は失敗してもいいから、やっぱり自分で実験したりとか物を作ったりとかやって欲しいですね。

文章:ほき
インタビュー日時: 2022年 2月 18日
インタビュアー:ほき
記事再編集日時:2024年 1月 13日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?