思いやりは1つじゃない
———活動概要
普段から頼りにされていて接しやすい雰囲気を持つ熊田敏秀さん。周りからは 「くまちゃん」と呼ばれ親しまれている。熊田さんが所属し指揮を取る 「Art in Life」は、有賀三夏先生ご指導のもと、「人生に芸術をどう使おうか?」というテーマを掲げ、アートが持つ力を利他的に社会と繋げる実践活動を行なっている東北芸術工科大学の学生有志団体である。「芸術思考」という他者や社会に貢献しようという意思の下で人が何かを作り出すときの思考プロセス、利他性の学びを通じて、多重知能の認知と活用・応用を試みてきた。
そのために、地域の小学校や施設に出向いてアートワークショップを行なったり、アメリカのミュージアムにて作品展示を行なったり、病院でのホスピタルアートの循環展示などの活動をしている。アートの持つ力を使って人や社会に寄り添える作品作りや展示など、幅広い活動を通して日々学んでいる。
———相手を思うとは
様々な活動に共通している利他的の意味として「他人のために自分を多少犠牲にしても尽くす」とも汲み取れる。しかし、その行為に当てはまっていれば全て「利他的」と言え、押し付けがましいような「あなたのためのもの」を渡したとしても、意味は通ってしまう。そうではなく、相手が喜ばなければ、それは本当に正しい利他と呼べるのか疑問である。一例として、病院での展示では空の上や天使などの作品は悪い解釈を与えかねない。また、海外の展示では、肌の色やジェンダーなど、配慮すべき点が多々あるという。
「可能な限り受け手の気持ちに寄り添って、同じ目線で捉え直すことが大事だよ。」そう答えながら、熊田さんは真剣な眼差しを向けながら笑みを浮かべた。
———相手を思うことで見えるもの
熊田さんは活動の中で、地道な努力やいろんな人の協力を得て今があるのだとこれまでの経験を通して学んだという。「やりたいことができるというのは恵まれている環境やお金、人脈も必要になってくる。それらを地道に繋いでいる方は、とても輝いて見え、その周りに集まる人々もまた前向きであたたかい方だった。共感性を持ち、善意で協力するという大人の関係性の中で応援してくれているのだとわかった。」と語る。
現在、私たちの身の回りではコロナ禍により環境やコミュニケーション手段が変化している。だからこそ私たちも熊田さんたちのようにこれまではなかった新しい問題や悩みの部分に寄り添いながら、相手を思って行動する必要性があるのかもしれない。
今回の取材から、私は“相手への思いやり”について振り返るきっかけとなった。自分が思う優しさが相手にとって同じように捉えられているとは限られないということを知り、視点が広がったように思える。熊田さん達の活動は、「親切の押し売りではなく、相手の立場に立った視点をもっと持つべきである」と、人々や社会に訴えかけているのかもしれない。
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