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区役所の優しいかみなりさま

某都内の区役所にいい人がいる。

その人は、わりとの頻度で
わたしに電話をくれる。ナゼ?
なにか案じてくれているに違いない。
区民税のお支払いの件、を案じてくれている。

忘れたころにかかってくるその番号の
しも4桁は、覚えてこそいないが
見るとわかる。でもだいたい出られない時間。
留守番電話も入れてくれる。
内容など聞き取れない早口で。

たまにはかけ直すか!とダイヤルすると
100%の確率で
"席をはずしております"
居留守かよ、と思わせる100%。
きっと区役所のならわし。

2.3回それを繰り返したある日
ならない私の電話がなる、いつもの番号
私はすかさず電話に出る
もうかけ直したくないし電話代の高いプランだから
役所の方とのお話にお金は払えない

「お金を払いなさい」という電話に
ご丁寧にかけ直して電話代まで払うなんぞ
ごめんだわ。

「この区に籍をうつして一年が経ったので
色々と査定の結果が出ましてね
年金も国保も区民税もお支払い今月末なのよ
ウン十万、あなたどうする?」って。

とっても好感度な声色と
馴れ馴れしいとまで思える口調に
わたしはすっかりこの人が好きになった
とくに最後の「あなたどうする?」に。

かかってきた電話は気兼ねなく話せる
モノは試しに「じゃあ払いません!」
といってみた。
役所のひとってのは
"無理"なのに"問う" 
そんな問いをするからだ。

「払いたくないわよね〜でも義務だから。
一度お話してみませんか?」
となる。なんでだ。

なんだかこの人に会ってみたくなった。
国民の義務を無視するつもりはないし
滞納とかする人をとても嫌がった
今は亡き父の供養と思って守っている

名前を伺うと「高木さん」
こころ半ば踊らせながら約束を取り付ける。
コロナ禍の今は暇なのだ、わたしは。

約束の日に9分遅れで区役所に着く
素敵な女性が対応してくれて
「あ、この人と話してたんだ〜よかった」
と夢を見たのも束の間
高木さん呼んできますね。と。

まるまる太った50オーバーの
「高木さん」が、現れた
きっとあだ名は「ブー」だったに違いない。
(歳の頃がわたしと同じくらいの人なら
ピンときていただけるだろう、かみなりさま)

出た、留守電の早口だ。
「私はね〜貸付けの申請をオススメするわ〜
100万円とか200万円とかの人がほとんどだけど」
いまなら無利息、無担保らしい。
ブーは色々おしえてくれた。
貸付けなど、する気もないわたしに。
そんな大金借りてどーしろってんだ。
コロナ禍で区役所は果たして暇なのか?

今払わないと延滞料金が、と恐れていた私は
一応全額分のお金を持っていた
払わなくていいかもしれない
微塵の希望があったし、希望を持たせたブーが
目の前にいたから払わずにいたけど。

この話の内容なら素直に払って
ブーの、私に対する心配をなくそうと。

あのぉ…とりあえずお金は持って来たので払います。
となるわな、もちろん。
いくら無利息でも、返さなきゃなら借りたくない。

あら!いいじゃない〜。
じゃあこれならコンビニで払えるから
と振り込み用紙を山ほどくれた。
ここで払わないのなら
本当の本当に話に行っただけだった。
井戸端の。蓮端の。

それからいろんな話をした
失礼ですがおいくつですか?と聞いたら
あなたと同じくらいよ!と言って
私の歳をいうと
「あら!ひと回りちがうわね」だってさ
ブーはこの上なく失礼なのに憎めない

家族のこと、仕事のこと。
そして面談室なるところに1時間くらいいた。
ふたりはヨクワラッタ。
もしかしたら区役所は本当に暇なのかもしれない。

そして役所のひとはイヤな人だけではないことを
ブーが教えてくれた、だいたい行きたくないけれど
ちょっと身近に感じられた。

もし困ったことがあったら
次もブーに相談しようと思った。
全く頼りにはならないけれど
すごく楽しい時間がすごせる。

次の約束は9月末。
「自分の手帳に書いておくわよ、本来なら取れないから」

さて、やさしいブーとなにを話そうか。
仕事を紹介したいと言ってくれたけど
今のところ、モノ書き以外の仕事なら
自分で見つける所存でございます。
またね、ブー。

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