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ザルツブルクとおばさん3人 ②

わたしの母は秋子という
9月に生まれたから秋子

その姉はやよいという
かろうじてひらがなだけど
まぎれもない弥生の季節3月生まれ

2人の姉に叩かれ育った
末っ子長男の嫁は節子という
節分の2月に生まれたからと決まっている

その3人といとこのマイコとわたしの5人
ひと夏のザルツブルクの思い出は
憧れのロングワンピースにはじまる

夏のザルツブルクの音楽祭といえば
ルネッサンス期に迷い込んだような貴婦人のまち
ドレスのスソを引きずりあるく婦人に
伯爵たちは腕を貸し老若男女が町中でキスをする
それはそれは見事なものだった
そのドレス、どこでクリーニングするの?
となる、洗う方も一苦労

揃いも揃って音楽祭に出かける富豪たちを
唖然に見つめる三姉妹
自分が何月に生まれたかもわすれて
アントワネットだと思い込むのに時間はいらなかった

ホテルに荷物を置くと
枕元のモーツァルトチョコを頬張り
「なんや、ザラザラしたの入ってるわ」
(それはマジパンです、有名です)
「アタリちゃう?いや、ワタシも入ってたわ」
「みんなアタリやーん!」
(会話がくだらなすぎる)
そして出かけた先はドレス屋さん笑

え?ウソやろ。
そのドレス買ってどーする?みたいなのを
3人揃って眺めている、いや、選んでいる
気分に浸りたいのはわかる。
旅行に出かけているのもわかる。
旅の恥はかき捨て、という言葉も知っている。
ただ、そのドレスはおかしい。
せめてレンタルにしてくれ(本気の叫び)

フワッフワの金髪でもなきゃ
クルクルのまつ毛もない
青い目どころか
澄んだ目すら持ち合わせていないおばさんが
どーしてここまでその気になれるのか
旅にはおそろしい力があるのだと
しみじみと勉強になった

よーやく落ち着いた先はロングワンピ
いや、マキシワンピ
スソを引きずりたかったのね。

秋子はみどり色、やよいは淡い紫色
節子はベージュ、それ着てどこいくの?みたいな
仕方ない、旅は道連れ世は情け

華やかなサンダルも買い
痛い痛いと言いながら慣れない石畳をあるく
伯爵がいるわけでもなければ
左手の扇子の代わりはビール
ビールを飲むときには必ずひとこと
「お水は高いから〜今日は控えめに〜」
いちいちいらんわ、その言い訳。
それでも満足気な3人をみて
ほんとに連れてきてよかったと心底おもう珍道中

明日は登山だから
ワンピースは今日のうちに楽しんでねと
ヨーロッパさながらのテラスのお席で
夜遅くまで大好きな
夏のザルツブルクといえば
23時頃までは明るいから
こんな夢のような一日があっても
神さまも旦那さまも喜んでくれるだろう

この3人の旦那さまは
本当に素晴らしいとおもう
バカ高い夏のウィーンへの航空券を買い与え
嫁の実家のジジババの面倒を仰せつかり
当時はセントレア空港もなく
3人の旦那さまは荷物持ちと関空へのアッシーくん
お小遣いを持たせて「楽しんでね」
という具合だったのが目に浮かぶ
3人の誰もが、無事の離陸を祈りながら
彼らもまた12日間のバカンスだったに違いない

アーメンの幕は私へとバトンタッチされたわけだわ

追記ですが、当時買った秋子の緑色のマキシワンピースは
日本に帰ってすぐ丈をつめて
くるぶし丈と化してまだ愛用しております。

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