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【真】黒服物語〜金と女と欲望の世界〜13


客「何で俺の頼んだ酒が持って来れへんのじゃおう」


そう声を荒げてからの4秒間は1つの映画のワンシーンでしか見られない光景が目の前で起こった。


嘘みたいな光景が目の前でスローモーションで再生される。


吸い終わりのタバコが無造作に置かれ、高級なシャンパンが綺麗に並べられている重量感で気品のあるテーブルに両手を添え、出せる力を全て振り絞りその客が両手を真上に振り翳すと目の前のテーブルが一瞬でひっくり返された。



小さい頃ふざけて何度もやろうとしたが一度もすることはなかったちゃぶ台返しを50歳を手前にし高級なスーツと高級な腕時計を身にまとう叔父様がまさかこんな簡単にちゃぶ台を返すとは思ってもいなかった。



そして何よりも20歳を過ぎた今この瞬間に目の前にするとは思わなかった。


辺り一面に飛び散らかるガラスの破片


床一面に染み渡る酒


激しい状況とは裏腹に静まり返る空間


何も考える暇などなかった。


不意にその客と目があった瞬間にこれまでの楽しい夢のような時間が終わりを告げた。


ふと我に帰る勘太郎。


僕「〜さん、な、何してるんですかやめてください!!!!」


僕の声など届いていない。


その客はさっきまで何度も何度も僕とひなに自慢していた高級レトロ品のデュポンを手にして大きく振りかぶる。


僕「〜さん、そ、それ以上はほんとにダメです!!!やめてください!!!!〜さん!!!」


グシャ。



えぐみの効いた効果音が静かな静かなこの空間に響き渡る。



僕の真横にありその客の真正面にある大型TVへ向かい高級レトロ品のデュポンが一直線で向かっていく。


液晶画面が無惨にも崩れ落ちる事は必然だったのかもしれない。


止めに入ろうとした時には間に合わなく2度過ちを犯せさせてしまった。



(あぁ、なんて事になってしまったんだよ。何なんだよまずこの状況、、、。何がどうなって何がどうなったんだ!?!?)


ひな「グスッ、、、グスッ、、、」



夜の世界に美しく輝き常に煌びやかに着飾る夜の女が泣き崩れている。


夜の世界で生きる煌びやかな蝶の泣き姿を目の当たりにするのは後から思い出した時に今回と合わせて2回しかなかった。



(あ、そうだ。まずは僕以外の人にこのヤバい状況を伝えないと!!え〜っとこの時はどうすればいんだっけ?走って伝えにいくか?)

(いやいや、この場から離れるのはどれだけ頭の悪いポンコツ野郎でもありえない判断だろ)

(あっ、空インカムだ!空インカムを流して緊急事態を伝えるんだこういう時は!!)



ズーッズーッズーッ、、、、ズーッズ、、




空インカムとはいつもスタッフ内で何かの会話をする時に使うインカムを何も喋らず10秒間流し続ける事だ。

この空インカムが10秒間流れた時にはお店の何処かで全ての業務を投げ捨ててでも助けに行かないといけない事が起きているという一種の緊急事態宣言となる。



仲野「!?!?」

柿原「!?!?」

仲野「何処だ!!!どの席で何がおきてる!!」

柿原「勘太郎のとこです店長!!個室!!何だこれ!テーブルひっくり返ってるぞ!!すぐ僕いきます!!!」

仲野「俺もいく!!柿原副店長すぐに白戸部長に連絡して!!!」

柿原「了解です!!すぐに連絡します!!」


空インカムが流れてから5秒後に事件が起きている個室に仲野が飛び込む。



仲野「お客様どうなさったんですか!?!?ひなさん、勘太郎大丈夫か!?!?」



その時には既にその客は自分の犯した罪の大きさに気づいていたのかもしれない。


だがその罪を認めたくないいらないプライドが邪魔をする。



客「なにしたもどうもねぇよ、俺の頼んだ酒が出せねぇってこのガキが言うからよそれまでのことだ。」


仲野「お客様、自分自身でもわかってると思いますがこれは流石にやりすぎですよね?かなり酔われてるんじゃないですか?まずはこの水飲んで落ち着いてください!」


客「水なんていらねぇよ、こんな安クセェ水じゃなくて酒持ってこいって言ってんだろうがよぉ!!」


そう言い放ち仲野が渡したペットボトルの蓋を開けその水を口に大きく含み勢いよく仲野に向かいその水を思いっきり吹きかける。



、、、、、、、、、、。



仲野「お客様、、、、、、、、?」



勘太郎が目にした仲野の目は思い出すと今でも背筋が凍るような冷たい冷たい眼になっていた、、、、。


次回、、、、、、店長仲野遂に、、、。

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