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【昭和歌謡名曲集21】夜へ急ぐ人 ちあきなおみ

ちあきなおみが紅白でこの歌を歌い終わった後、白組司会の山川静夫が「なんとも気持ち悪い歌ですねえ」と言った。それほどに普通の歌ではなかった。(当時の紅白は本気で勝ち負けを競ってたんで、こんな発言も出たのである)
 作詞作曲は友川かずきで、彼は津軽弁で叩きつけるように歌う。いや、「ように」ではなく、本当に歌詞を叩きつけている。すごい。
その友川かずきにちあきが頼んで書いてもらった曲がこれである。なぜ。
一度聞いたら忘れられない悪夢のような黒魔術のような狂気の歌である。断っておく。ダメではない。凡百の歌が聞き流され、忘れられていく中で、一度聞いただけで忘れられない歌が、一体この世に何曲あると言うのだ。
 ちあきなおみは歌の上手い歌手であった。歌唱力は日本で三本の指に入る。しかも、歌謡曲のみならずジャズ、シャンソン、演歌、ニューミュージック、なんでも歌えた。レコード大賞を「喝采」でとったが、「矢切りの渡し」を最初にヒットさせたのもちあきである。細川たかしのは、あれはカバーである。ちあきの方は所属レコード会社を移籍するゴタゴタで廃盤になっただけで、それがなければ二度、レコード大賞をとれたはずである。
そんなことはどうでもいい。「夜を急ぐ人」である。
まず、歌詞が不穏である。チョイスされる言葉がとにかく怖い。歌の景色がとにかく怖い。怖すぎる。
次に、曲が不穏である。取り殺されるかと思う曲調である。いろんな霊が飛んできそうな曲調である。
そして、ちあきが不穏である。まさに狂乱の歌いぶり。なんか悪いものに取り憑かれたような歌いぶりなのである。歌がうますぎるだけに鬼気迫る。迫りすぎる。
全く尋常ではない。私も紅白で聞く曲ではないと思う。子供が泣く。では、どこで聞くのがふさわしいのか。いろいろ考えたが、私には思いつかない。一瞬、貴船神社の裏山あたりがいいのじゃなかろうか、と過ったが・・・。

ちあきなおみは愛する夫、日活の俳優だった郷鍈治が亡くなると引退した。あれからもう30年以上たつ。昭和歌謡史に残る天才歌手だった。



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