【昭和歌謡名曲集14】老女優は去り行く 美輪明宏
美輪明宏の歌である。黄色い髪の人である。天草四郎の生まれ変わりである。証拠はないが、本人が言っているので間違いない。若い頃からホモセクシュアルであることを公表し、社会と戦ってきた。同じゲイの友人が縊死する話など、何度聞いても戦慄と憤りを覚える。
長年、シャンソンを歌ってきた。「ヨイトマケの歌」がヒットしたが、ヒットするとかしないとか、そんなこと関係ない人である。寺山修司とか三島由紀夫とかとお友達で、彼らの舞台に立った。私は「黒蜥蜴」を見たが、圧倒的存在感であった。
「もののけ姫」の山犬の声優で、何言ってるかわからんと悪口を書いたが、あれは悪口ではない。何言ってるかわかんなくても、いいのである。美輪明宏が喋っていることに価値がある。存在が国宝である。
「老女優は去り行く」は紅白で見た。例によって、全歌手にチャチャ入れながら見てたが、美輪明宏の登場で襟をただした。期待爆上がりである。して、予想に違わぬ美輪ワールド! なんじゃこりゃ! お化けじゃ!(褒めてる) テレビのオカルトおばさんとしか見ていなかった母親は目が点になっていた。
しかし、思う。美輪明宏の弱さはどこにあるのだろうか、と。
美輪明宏はいつも強い。いつも自信がある。いつも揺るぎない。信念がある。彼には迷いとか弱味とかないのだろうか。
辛い青春時代を何クソと生きてきて、表現者として劇作家の上をいく演技を披露して、フランスで認められるほどシャンソンの心が歌えて。隙がなさすぎる。越路吹雪のような舞台上では鬼神のごとく、舞台を降りればまるで少女のような繊細さで震え慄く、そういう振り幅が、美輪明宏には見えない。私だけだろうか、そう感じるのは。
だから謎の人である。ずっと謎の人であり続けている。
たぶんもう舞台に立たないし、コンサートも開かないだろう。でもそれでもいい。私たちはただ美輪明宏と同時代を生きていることに感謝しよう。
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