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天才泉鏡花 新小説


鏡花に関しては批評はいらない。唯一無二。この人の後に、二度と鏡花は出ない。芥川も谷崎も永井荷風も川端も、みんな鏡花が好きだった。生前対立した自然主義の面々も、鏡花が死んで歴史になれば、やっぱり鏡花を尊んだ。
お化けだ幽霊だ義理だ芸者だ荒唐無稽だ絵空事だ、言ってはみても誰も鏡花のように書けはしなかった。鏡花は文章を読めばいい。そして酔いしれれば、それで良い。「たけくらべ」の出だしは名文だろう。違った意味で「城の崎にて」は名文だろう。「草枕」の出だしは忘れ難い。「メロス」の書き出しは誰でも知っている。もっと言うなら「源氏」の文章は音楽だ。「古今の仮名序」は国民全員に覚えさせてもいい。「枕」も名文、「伊勢」も捨てがたい。それら全てと比べても、鏡花の文章は神品だと思う。もう二度と鏡花は出ないが、幸いなことに鏡花の作品はある。「歌行灯」でも「高野聖」でも、「春昼」でも、はたまた「眉かくしの霊」でも「夜叉ヶ池」でも「天守物語」でも「草迷宮」でも、芸者ものの「婦系図」だって、そのほか無名の小品であっても、鏡花は素晴らしい。読まずに死んでしまうことの、なんと勿体ないことか。
鏡花は外国語にできない。唯一その良さがわかるのは日本人だけなのだ。

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