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萬御悩解決致〼 第一話21【最終回】

「悪かったよ」服をはたきながら相良が立ち上がる。
「俺にか」
「お前になんか、謝らねえよ」
「なんでだよ。お前のせいで、野球部、やめたんだぞ」
「なら、また入れてもらえばいいじゃねえか」
「あ、そうか」
「吉田に謝ってんだよ」
 奈央の後ろに楓がいる。
「リスカするほどと思ってなかった。ごめん。悪かった」
「もう他の人にもしないでくださいね」楓が言う。
「ああ、わかったよ」
「私とおんなじことした女の子にも謝ってくださいね」
「ああ、約束する」
「それから」
「まだ、なんかあるのか」
「リスカ、やめてください」
 相良は、ちょっと驚いた顔をした。
「輪ゴム、はめるよ」
「ぜひ」そう言って、楓は少し笑った。

 相良と別れて内野の応援席に戻ると、試合が終わっていた。11対6。本当かよ。6点もとったの。あれから、本当に?
 ベンチ前、円陣を組んで、大熊先輩が話している。柴田先輩は俺を見つけると、「こっちこい」と手招きする。
「よし、揃ったな。じゃ、応援席に向かって整列!」と大熊先輩。
 大きな拍手が起こる。
「また負けてしまいました。しかし、今回の負けは次に繋がる負けだと思っています。今日、6点取れたのは、応援してくれた皆さんのおかげです。3年は次の夏季大会が最後です。その時はまた、応援、よろしくお願いします。礼!」
 また、拍手。
「よし。グラント整備だ。勝ったチームにやらせるな。疲れることは、負けたチームがやるんだよ」
 みんなトンボを手に走り出す。俺も行こうとしたが、大熊先輩に呼び止められた。
「なんですか。先輩」
「花田。今日の応援のお膳立てをしてくれたのはお前だってな」
「あ、いえ、俺は言われたことをしただけで」と奈央を探すが、もういない。
「ありがとう。負けたけど、今日はいい試合ができたよ」
「いえ、先輩。とんでもない。最後いなくてすいませんでした」
「いや、いいさ。試合の半分いてくれただけで十分だ」
「え? どうしてですか」
「先生から聞いたよ。事情があってやめるんだってな。わかってる。根掘り葉掘り訊きゃあしない。でも、最後、よく戻ってきてくれた。嬉しいよ」
「あの、先輩。辞めるって、実は」
「いい。いい。言わなくていいぞ。プライベートなことは訊かないさ。よし。行っていい。今まで、よくやってくれた。ありがとう。みんな! 花田が行くぞ。手をふれ!」
グラウンド整備をしているみんなが、その手を休め、手を振る。
「今日はありがとうな」
「ありがとう」
「落ち着いたら、遊びにこいよ」
「いつでも大歓迎だ」
応援席からも拍手が起こる。
仕方なく、「お、おう」と手をあげた。
すると、いっそう強い拍手が。

圭介! 
奈央! 
俺、どうすればいい? 
どうすれば、このピンチ、乗り越えられる?!

        第一話、完

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