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井伏鱒二のこと

井伏鱒二と言えば、「山椒魚」と「黒い雨」である。代表作があるのは素晴らしい。ツーと言えばカー。打てば響く気持ちよさ。
「漱石」
「はい。こころ」
「太宰」
「はい。人間失格」
てな具合。
だが、井伏先生の二作には、いろいろ味噌がついている。

「山椒魚」は、名作の誉れ高い短編だが、全集に入れる時、何十年も皆んなに読まれてたのに、ラストを変えちゃった。これに野坂昭如が噛み付いた。発表して、何十年も経った作品は、最早作者だけのものではない。読んで感動した俺はどーなる! ナルトはヒナタと結婚するが、やっぱサクラだったと、作者が書き直すようなものである。例えがよくわからないって? 私もだ。私は「NARUTO」を読んでない。
 発表して評価が定まった作品は読者のものでもある、ということか。

 「黒い雨」は、「重松日記」という元ネタがあって、内容が殆ど一緒だった。そんなことあるか。例え元ネタがあっても、それはあくまでネタだ。例えば、被曝後に主人公がメダカを見るシーンがある。こういうネタにない、細部の創造こそが小説なのだ。と、安岡章太郎が擁護したが、後に刊行された「重松日記」にも、メダカはちゃんと書かれていた。なんというか、とほほな話である。
 ついでに言うと、弟子の太宰も「女生徒」でやってる。らしい。現代でも、山崎豊子はその方面の常習者で、指摘されるたび失墜して、またそのたび不死鳥の如く蘇る。やっちゃっても、腕があれば復活できるのだ。私はこの事実をお薬や異性問題でやらかした多くの芸能人に贈りたい。腕があれば復活できる。えっと、いったい何の話だ。

じゃ、井伏鱒二の代表作は何か。私は「厄除け詩集」だと思う。
 サヨナラダケガ人生ダ
名訳である。この一節は百年残る。

PS:ほんとは画家になりたくて、試験に出す絵を一生懸命描いて提出した後、色のついたメガネしてたのに気づくエピソード、好き。

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