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あの頃5

静かにドアを開けると、4、5人の視線が一気に集中した。

あの、入部したいんですが。

そうなんだ。じゃ、この紙に名前と学部と住所書いてね。

昨日説明してくれたメガネの先輩が紙を差し出してくれる。
部室の真ん中には幅広の長机が2つあって、壁伝いにぐるりと長椅子が置いてある。
奥の壁には窓があって、少しだけ開放感がある。地下といっても半地下の作りのようだった。私は一番ドア寄りの場所に腰掛けた。
部室にはメガネ先輩を含めた男の人が三人と女の人が二人いた。

活動は水曜と土曜。会場と時間は学生課前の張り紙見て。なんも出てなかったら、会場はここ。えっと、あと部費はーー。

昨日、説明されたことをもう一度聞く。メガネ先輩は自分のことをYと自己紹介した。私も名を名乗り、よろしくお願いします、と言った。

今週の土曜に新歓やるから、俺たちの自己紹介とかまとめてその時ね。部室は自由に使っていいから。閉まってるときは、学生課から鍵もらって。

一番奥に座っている背の高い男の人が言う。この人は、後で3年のDさんだとわかった。文藝部の部長だった。

あの。活動って、どんなことするんですか。

笑いが起きる。

どんなって文藝部だから、詩か小説書くのよ。それで合評会するわけ。締切は、毎月、末日。書けたら、机に箱があるでしょ。そこ入れといて。暇な時、みんなが読むから。

机を見ると、箱の中にコクヨ400字詰の原稿用紙の束が一冊入っている。箱の隣にはビッグコミックスピリッツとGOROがあった。

Sさん、早いよねえ。
毎月、出すしねえ。

私の視線に気づいて、女の人が言う。これもあとで分かるが、2年の KUさん。相槌を打った女の人は同じ2年のT Aさん。

私がSさんの原稿に手を伸ばすと、同時に隣に座っていた太った男も手を伸ばす。思わず私は手を引いた。すると男は、ビッグコミックスピリッツを手に取った。

先輩、これ読んでいいですか。今週号まだ読んでないんで。

ええよー、の声を聞くと、嬉しそうにビッグコミックスピリッツをめくり始める。

あ。僕、KO言います。君と同じ新入生。よろしく。

KOはそう言うと、一心不乱に「めぞん一刻」を読み始めた。

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