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七帖「紅葉賀」角田光代訳源氏物語(何やってんだか)

朱雀院の行幸に、源氏と頭中将が揃って舞うこととなり、帝は藤壺にも見せてやりたいと清涼殿で試楽(予行演習)を行う。
「青海波」を舞う二人は誠に見事である。頭中将は年も近い義弟源氏を何かとライバル視する。勿論源氏の気品には敵わないが、いいコンビである。
 みな大絶賛の舞であったが、弘徽殿だけはうぬぬと面白くない。憎っくき桐壺の子、源氏。今に見ておれ。背後にゴーいうて炎が昇る。嫉妬である。桐壺死んでんのに。

源氏は藤壺に近づきたいと思うが、警戒されてなかなかできない。藤壺はやがて子を産む。源氏と瓜二つである。余計に藤壺は警戒し、源氏は子にも会えない。

二条院に下がると、若紫がいる。源氏に懐いて片時も離れようとしない。そのうち、あれはどこの姫だと噂がたって、帝まで心配してくる。勿論葵上は益々源氏に冷たくなり、ゴーつって嫉妬の炎を燃やす。誰が正妻なんじゃ。えっ誰じゃ。どこの馬の骨とも知れん女を引っ張り込みよって。あては左大臣の娘じゃぞ!ゴー!ゴー!

 若紫が放してくれんので、源氏は他の女のところへ渡れない。うーん、この好色もんが我慢できるかと思ってるうち、典侍(ないしのすけ)が盛んに色目を使ってくるのに気づく。典侍、おん年五十八である。源氏が20くらいで頭中将はその少し上。いや、まさか。まさかねえ。いくらなんでも。いやいや、しかし、源氏の守備範囲は広いのであった。広すぎる。それを知った頭中将は、お先にいただく。ええっ!中将、お前もか。ていうか、ライバルだもの、そうだもの。要するに、これは一種のお遊びである。本気ではない。典侍も、源氏を引っ掛けようとするのは、ひとえに好色の故である。他意はない。
 好奇心抗しがたく、とうとう源氏は典侍と致す。それを陰で見ていた頭中将は、もう嬉しくてしょうがない。それっ!とばかりに、怒った旦那のふりして抜身で乗り込んでく。慌てて屏風の陰に逃げ込み、あたふた直衣を着る源氏。おやめくださいと、頭中将に縋る典侍。おのれ、おのれと楽しそうに怒鳴る頭中将。そのうち源氏は、あれれ、これって、もしかして、あっ、戯れかあ、と気づく。で、互いに腕をつねったり、直衣を引っ張りあったり、脱がそうとしたり、帯が切れたり、冠は歪んだままで、二人ともヨレヨレの有様。二人して大笑い。全く何やってんだか。んで、仲良く帰ってく。残された典侍は目をパチクリ。

若さは馬鹿さである。源氏も頭中将も若い。馬鹿をやりたいお年頃なのだ。私も若い頃、意味もないのに、友達と噴水にバシャバシャ入ったり、夜通し高速の下を歩いたり、怒ったり、走ったり、変なとこで寝たりしたもんだ。ああ、若いっていい。馬鹿でいいなあ。

この巻では、幼い紫と歳いった典侍が、共に源氏に思いを寄せる。嫉妬メラメラの弘徽殿と葵がいる。勿論源氏と頭中将はいいコンビ。対照的なものを二つ置いて語るのが、式部の得意技なのかもしれないな。これからは、そこにも気をつけて読んでいこうか。

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