走れメロス8
ここで、走れメロスに関する有名なお話を。
ある時、太宰は友人の檀一雄と熱海に遊んだ。芸者でもあげて散々飲み食いしたのだろう。長逗留に、さすがに宿の主人も、ここらでご精算を、と言う。しかし、金がない。困った太宰は檀を人質に残し、金の工面に東京に戻る。師匠の井伏鱒二に借りる算段だ。
三日たち、四日たち、一週間経ったが、太宰は来ない。豪を煮やした檀は念書を書いて、太宰を探しに東京にもどる。井伏の家に行くと、二人で呑気に将棋を指していた。太宰は気後れして、井伏に言い出さないでいたのだ。怒る檀。その時、太宰はこう言ったと言う。
「待つが辛いか、待たすが辛いか」
それを聞いて、檀は怒りもどこへやら、まぁ太宰らしい、と納得したと言う。
これが、走れメロスを書く動機だったと檀は言うわけです。
しかし、ひどい男ですね、太宰。納得しちゃう檀も檀ですが。たぶん井伏は事情を聞いて、お金をだしてあげたでしょう。不肖の弟子なんて持つと大変ですな。
井伏は太宰が薬中になった時、病院を世話したり、小康状態になった時、結婚の世話したりと、大変な恩があるはずです。ですが、太宰は、そんな井伏について、どんな言葉を残しているかというと。「井伏さん。あなたは悪人です」
全くひどい男ですね、太宰は。でも皆んな、太宰の才能を愛してたんですな。だから許しちまうんです。今だったら、確実に社会に抹殺されてます。
今、薬であげられた有名人、沢山いますな。飛鳥さんとか。槇原さんとか。清原さんとか。沢尻さんとか。ピエールさんとか。山ほどいますな。世間は叩きます。で、一番太宰に近いのは誰かと言うと、田代まさしだったりするんですな。周りが、いくら言っても、その時は、本気で止めるって、たぶん思っても、でもまたやっちゃうんですな。気持ちがメタクソ弱いんですな。で、今、太宰が生きてたら、どうでしょう。世間は、許しますかね。まぁ、無理か。
でも、それを含めて太宰文学なんですな。
ビートルズには、薬の匂いがします。折口信夫は、鼻からコカインやって、鼻血たらしながら、原稿書いてたんです。安吾とか織田作とか、無頼派はやってたふしがありますな。ヒロポンなんて、薬局で売ってた時代ですから。
はい、話がどんずれていく。太宰のエピソードを、さらっと流して、これが走れメロスを書くきっかけだったんだ、で終わるつもりが。
何を言いたいか、つうと、薬中の書いた小説は評価していいのか問題です。薬中の描いた絵は評価していいのか問題です。薬中の演技は評価していいのか問題です。薬の力を借りた、エキセントリックな音楽は音楽と認めていいのか問題です。
私見を述べれば、まぁいいんじゃないか、と。ルーシーが空飛ぶなんて歌詞は普通書けませんが、薬やってかけちゃったら、まぁ、かけちゃったんだから、それが素晴らしければ、わざわざ、敢えて無視しなくても、て私は思いますな。
だって、山下清のちぎり絵は、彼の知能的な問題が生んだ、かもしれないんですから。草間弥生の水玉は、精神的な病が生んだ、かもしれないんですから。
芸術は普通の精神から生まれたものしか認めないって、そんな狭くなくてもいいと思いますけど、私は。
なんか、どんどんズレてくな。
次回は戻します。灼熱の太陽vsメロス。こうご期待!
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