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萬御悩解決致〼 第一話⑦

「じゃ、反省会始めよう」
結果はわかってたんだみたいな顔をして圭介が言った。
ここは、放課後の図書室。野球部の練習が始まる4時まで、三人で今回の作戦の反省と次回の作戦の確認をする。時間はきっかり30分。
席位置は、こないだのマックと同じ。俺のとい面が圭介と奈央。何故二人が並ぶ!
「で、肝心の楓までたどり着いたの」と奈央。
「ああ、バッチリ。一人でいる時に訊くのは、ハードル高いかなって思って、高木……美代ちゃんだっけ、一緒にいるところで二人に声かけた」
席位置は気にしてないふうを装って俺は答える。
「気配り、ナイスじゃない」と奈央。
「大好きな二人が応援してくれるなら、ホームラン打っちゃうかも、とか言ってさ」
「で?」
「美代ちゃん、行く行くって。あたしも悠くん好きだから、とか言っちゃってさ」
「楓は?」
「ためらってた」
「うん」
「しばらく考えて……、行けたら行くって」
「やたぁ!」と喜ぶ奈央。
「いや、それ断ってんだよ」と圭介。「だいたい楓ちゃんが、ためらってたのは、どうしてか、おまえ分かってるの?」
俺に訊いてる? 
「そりゃ、自分の用事とか考えてたんだろ」
「お前の脳味噌は金魚ぐらいだな」
「なんだと!」
「えっ? どうして」
俺にお構いなしで、奈央が割り込む。奈央も金魚か。
「誘われて、"好き"と言われて断ったら、相良とおんなじになっちゃうからさ。かと言って、行く行くって言ったら、尻軽女みたいだろ。相良のことがあったのに」
「ああ、なるほどね。それで曖昧」尻軽女。初めて聞く。
「ほぼ断ってるんだけどな。でも、目的はある程度達成できた」
 圭介が奈央の方を向く。近いだろ! 二人の顔。
「楓ちゃんが悩んでたのは、特別な言葉である"好き"を相良なんかに言ってしまった自責の念。そして、それを皆んなに知られてしまう恐怖。この二つのことを解消するには、まず"好き"を特別な言葉でなくすこと。"好き"のインフレ化」
「なんだよ、インフレ化って」
 俺が口をはさんむ。
「インフレになると、お金の価値が下がるだろ」
「そうなの?」と奈央に訊く。
「そう」
 なんだよ。やっぱり金魚は俺だけ?
「だから、僕は"好き"の価値を下げたわけ。"好き"を誰にでも使う平凡な言葉にしてしまえば、言ってしまった罪悪感が薄れる。土曜、行けないって断った女子もいただろ」
「まぁ。そりゃ百発百中じゃなかったけどさ」
「でも、おまえはみんなの前で断られても平気だった」
「平気つうか、まぁ、平気か」
「好きって言って断られても平気な男だ。悠という男は」
「なんだよ。重ねるな。馬鹿みてぇじゃん」
「でも、楓は、悠見て、たぶん少し元気でたと思うよ」
    奈央が言う。そ、そうか。いいことしたか、俺。
「だが、現状では、好き好き安く言う変なやつが、クラスに一人現れたに過ぎない」
「おまえがやれっつったんだろ。なんだよ、その言い草は!」
「だから、変なやつの言動を一般化させなくてはいけない」
「一般化?」と奈央。また圭介が奈央を見る。
「それは、みんなが好き好き言い出すこと」
「そんなこと、起こる?」
「普通起こらない。でも、今は好きイコール野球の応援に誘うことだから、みんながそれをやりはじめれば、それは起こる」
「全員、野球部じゃないよ」
「そこは自分の部活でいい」
「なるほど」
 ああ、二人で納得してる。小太り! やったのは俺だ。俺に説明しろ! どっち向いてんだよ! 顔が近い!

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