【昭和歌謡名曲集33】炎 松山千春
松山千春の到達点。
旅立ち、時のいたずら、季節の中で、恋、人生の空から、長い夜、1970年代終わりから80年代初めにかけて、松山千春は無双だった。出す曲出す曲みなよかった。個人的には、銀河テレビ小説の主題歌であった「夜明け」が忘れがたい。
それが、80年代後期ともなると、流石に千春人気もひと息つくというか、まあ、新しい楽曲へと、流行歌はシフトしていく。有り体に言えば、小室哲哉の曲がやたら流行り始めたのだ。ちょっと前にあった、全部ジャニーズ、全部AKBみたいな流れは、実は80年代後期から始まっていて、あの頃、全部が小室哲哉になっていた。
個人的なことを言えば、その頃から、私はだんだん歌を聞かなくなっていった。多様性とか言うけれど、日本人は、実は、右へ倣えが大好きなんだと思う。
で、1988年、夜ヒットである。歌謡界全体が小室節に押され始めた時、番組内で、あるコーナーが創設された。歌える歌手に、何曲かまとめて歌ってもらう企画だ。夜ヒットは、ここで踏ん張ろうとしたのだ、多分。で、その歌手の一人として出演したのが、松山千春だった。
相変わらず、口は悪い。態度はでかい。傍若無人。礼儀知らず。みたいな感じで、それが若くてペーペーの時なら、大人へのアンチテーゼだったり、反権力みたいだったりしてカッコいいんだが・・・。
歳行くと、自分が権威になっちゃうんで、それやると、若くして単なる老害にしか見えなくなる。御多分に洩れず、千春選手も、単なるイタイ奴みたいに見えた。
千春の時代も終わったなあ。司会の、確か古舘一郎とのやり取りで、何となく、そう感じてました。古舘一郎が、これで歌が上手くなけりゃ、単なる馬鹿野郎だ的なことを言って、歌が始まった。
「恋」、知ってる。いい歌よね。若干「神田川」にかぶるけど。
「長い夜」、知ってる。いい歌よね。若干歌謡曲くさくあるけれど。
ここまで、流してる、と言うか、こんな歌、歌ってましたてな感じで、聞いてて、ああやっぱり終わってんな、と思った。
で、「炎」。聞いたことない。新曲のプロモーション? そういえば、最近ヒット曲、ないものね。
さっさとお歌い。歌ってお帰んなさい。
そんなふうに思って、聞いとりました。が。
鳥肌もんでした。
千春は、やっぱりウマイ!
千春の声は、天下一!
女の哀感が、痺れるほどに伝わってくる。
それは演歌のそれではなく、全く新しい、それでいて不変の、とにかくとにかく、とにかく、だ。
とにかく、理屈なしに、全く素晴らしい歌唱なのです。
この炎が千春の最高到達点であった、と私めは認識しております。それほど素晴らしい「炎」でした。
千春は死んでなかった。
今は知らんけど。