オンライン授業の限界に挑戦?|2024スプラウト苓北中学校④
昨日は人吉でのフェス。
これを終え、片付け、ふりかえりをしての福岡への帰宅は22時頃になっていた。でも夕食を食べ、温泉に浸かり帰ってきたので良い機会ではあった。家族も同行したが、それなりにフェスを堪能してくれたようだ。
1日明けて、ゼミOBから地元紙に掲載された記事が送られてきた。
見事1面になってるではないか(笑)
こうしてコツコツと続けてきた取り組みが人の目に留まるのは嬉しいこと。高校生はこれをどう感じているのだろう。しっかりプログラムの主旨を書いてくださっている。
そんな余韻に浸る間もなく、今日からは再び通常運転。今日は熊本県天草郡苓北町の苓北中学校の授業日。
9月の頭に天草・苓北に行ってすでに2週間以上経過。苓北中学校の授業だ。中学校3年生約50人に向けてアントレプレナーシップを教えつつ、商売がいかに意義深いのか、「働く」を通じてどれほど個人と組織とマチが結びついてるかを学ぶ機会を提供していく。そして、今日から10月27日に開催される「富岡城お城まつり」に向けて準備を始めていく。
今日は2年生から4年生が集まって2コマの授業を実施した。これまで壱岐商業高校のように10人程度、あるいはおおいた・宮崎・鹿児島のように現地のサポートがついての遠隔グループワークは経験したが、今回は50人、6グループ、ブレイクアウトルームを活用しての初めての授業。果たして授業はどんな感じで進んでいったのでしょうか?
トラブルが起きようが何しようが対応力が上がってきたゼミ生の活躍をご笑覧ください。
なお、これまでの苓北での授業の記録はこちらから。
2クラス50人を6グループに分けてオンラインでグループワーク!
13:45に授業がスタート。今日はこれまで学生が各地で話をしてきた戦略がテーマで、内容もこなれてるだけにトラブルはないだろうとタカを括っていた。が、そんな時に限ってトラブルは起きる(笑)。
まずはアイスブレイク。ここでグループワークをしようと授業担当者が宣言するが,こちらはブレイクアウトルームの準備ができていない。準備をしようとしたら,中学生のアカウントのいくつかが「ブレイクアウトルームに入れません」の通知。これで焦る。再度入り直しをしてもらうが,同じような表示が出るものがある。これで10分のロス。
そうすると授業担当者も焦る。タイムテーブルを見ながら,どうにかして1時間目に喋る内容を終わらせようとする。授業は駆け足で進む。
今回の「戦略」は,マイケル・ポーターの差別化戦略とコストリーダーシップ戦略を中心に,企業にはそれぞれ意図があって同じものを売っていても,異なる売り方をすること(コンビニが好例),戦略の前に理念があり,戦略を遂行するためには計画を策定することが大事だという話をする。極めてオーソドックスだ。
ただ,この理念の話をする前に,この1年で変わったのは,単に「目的」を経営理念の達成だけに置くのではなく,付加価値の最大化も合わせて説明するようにしたこと。抽象的な話が続くが,中学生や高校生に対しては具体例を出しながら,その双方がなぜ重要なのかを説明していく。
そして,ここで経営理念をテーマにしたワークを行う。
優れた経営理念にはいくつかのパターンがある。それは,①自分たちは,②課題を解決することで,③ターゲットにどんな変化をもたらし,④その結果として起きることが記載されているという。
中学生にはこの例文をもとに経営理念を作ってもらう。ただし,ここでは突然作れと指示しても当然できないわけで,授業の進め方も一工夫がなされた。それは,戦略の授業でこれまで定番だった「お祭りワーク」を段階的に進めるというアイデア。
自分たちが模擬店を出すとしたら,どんな思いで出店しますか?
これを考えることで理念と戦略のつながりを意識させようとしている。これを考えたとしても中高生が考える内容には深みが出ない。しかも,今回時間が押しているのもあり,あまりじっくり考えることもできない。でも,苓北中学校の生徒たちはワイワイ,ガヤガヤと楽しそうに話をしている。とりあえず狙いは当たったようだ。
続いて,2つの目的。付加価値の概念を説明する。付加価値は学生が説明を苦手としている代表的な内容。
しかし,ここで大事なポイントは付加価値をいかに単純に教えるかであって,専門的な理解をすることではない。単純に売上高と材料費の差額と説明すれば良いものを,分配の話を細かくし出すと余計混乱するに違いない。この「付加価値」っていう概念は一般名詞としての説明もあれば,利益という指標に慣れている学生からすれば理解が混線しがちなものになるから,一筋縄ではいかない。
あとのふりかえりで本人が述べていたように,オンライン授業は一方的に喋ってれば良いようでそうではなく,中学生の反応が伺えないのが辛い。中学生側もオンライン授業に慣れていないから,どう反応して良いかもわからない。大学生と教室にいる周りの先生方に促されて初めて反応する。こうした小さなコミュニケーションの積み重ねが良い授業を作る。
それぞれの授業は1回きりしかないが,この『スプラウト』の授業は複数回から構成されるプログラム。だから,あとで取り返せば良いのだけれども,これはこれで本人の良い学びになっただろう。
そうして続いて定番「お祭りワーク」(改訂版)の登場。先日のおおいた・宮崎・鹿児島の授業では近隣の店舗と同じ商品とどう差をつけるかという主題であったが,今回は新たな商品を追加してのワーク。果たして中学生は差別化とコストリーダーシップの概念を使って自分たちの戦略を構築できるのだろうか。
結論から言えば,十分立派に議論をしていたと言えよう。ただ,私が見ていた2つのグループは(本当か,それともネタなのかはわからないが)ともにベビーカステラを選び,片方は10個500円にし,チョコレートでコーティングするとういアイデア。それを聞いたもう一方は13個500円(だったかな)として「差別化だ」と言うので理解度ちょっと不安。別のグループもまたベビーカステラを選択し,6個300円,すなわち1つ50円で「コストリーダーシップ戦略」だと言っていた。概念はある程度わかっていたとしても,周辺の店舗や自分の持っている値頃感で判断をしてしまうのだとすれば,この点もう少し改善の余地がある。
これまたふりかえりで議論した内容だが,今回の差別化とコストリーダーシップの比較例が3色ボールペンだった。前者はJET STREAM(800円前後),後者が無印良品(390円)を提示していたので合点がいった。そう,学生も単に価格の比較で提示していたということなのかもしれない。コンビニが「コストリーダーシップ戦略」だと思っているのかもしれない。
実際にふりかえりの際に「単純に100円ショップの方が良かったのではないの?3本100円で売ってるってよ」と指摘した。
こうした例示に理解の深さが出るし,まだまだ学生に対してアドバイスする余地がある。一緒に勉強していかねばね。
そして最後に経営計画の話で今日の授業は終了。理念→戦略→計画は一連のプロセスになっており,思いを実現するには具体的な実行計画の遂行の積み重ねであることを教えていく。単に思いつきでお店を出すのではない。仕掛けをしっかり作ってお店を出す。これを大学生には創業体験プログラムで求めるのは当然のこと,中学生にも求めていく。
というのも,スケジュールを改めて確認すると,10月27日の出店までにできる授業の回数が限られている。しかも,中学生が計画を作り,それを具体的な実行に落とし込んでいくまでに精緻化するには,次回授業で予算の話をしておかなければならない。なぜなら,中学生たちは日頃消費者としてモノ・サービスを買う経験はしているが,自分たちで価格をつけてモノやサービスを売ったことはない。いつもここで述べているように,日頃の消費行動が売り手になって顔を出すし,価格を下げるようにばかり考えてしまう。
これを防ぐための付加価値の最大化であり,価値の分配であり,差別化戦略であり,お祭りワークなのである。
結局,焦りに焦った大学生。授業は予定時刻の15分前に終わってしまった。ただこれが幸運で,中学生に現在こちらで考えているアイテムを説明し,どれを売りたいかの第1希望を取ることができた。6品目のうち4品目に手が上がり,2品目に2班ずつが希望を出した。その調整は先生方にお任せするとして,これで直近の懸念事項が解消した。
こうして苓北中学校でのオンライン授業は終了。課題もたくさん出たし,システムトラブルもありはしたものの,活発でいくらでも喋る中学生に助けられた。こちらの宿題として,中学生が価格設定,販売戦略について議論できるワークシートを作らねばならない。
とにかく疲れているところ,本当にみんなありがとうです。
ふりかえり
今回の記事は全体がふりかえりのようになっている感じだろうか。授業担当者自身はタイムマネジメントがとか,付加価値の内容がとか,グループワークがとか,いろいろと考えることはあるだろうが,授業そのものの説明は非常に筋があるし,あとはオンライン上でのファシリテーションを行うためにどこまで想像力が働くかということだろうか。十分な質を担保しているし,これからの各地での授業に大きな期待をしている。
ところで,学生による昨日の人吉まで向かったレンタカーの返却もあり,今朝は行きつけの喫茶店でプロジェクトリーダーとじっくり話すことができた。これまでも話す機会は設けてきたつもりだが,どうしても一方的に私から話をしてしまうことになり,彼女自身の考えをあまり聞く機会もなかった。いや,8月の人吉での「事件」以後,各地での活動が始まり,限られたリソースでプロジェクトを進め,所定の成果を得ることの意味が理解できてきたのだろう。ここに来てようやくチームとしての一体感が醸成され,要求するべきところは要求し,任せるべきことは任せられるようになってきた。
これは昨年の壱岐でも,そして今年も同様に感じたことだが,プログラムを1つやり終えないとわからない感覚みたいなものが身についた証拠なのかもしれない。プロジェクトのゴールをどう迎えることになるのかを見ない限りは,暗中模索の状況が続く。比較もできない。何がどうなるかがわからない状況で不安が募る。
しかし,ここに来て複数のプロジェクトが進んでいても安定感が出てきたし,自分がこのタイミングで何をなすべきかがわかってきたように感じている。もう1人の男性リーダーも当初は頼りなかったが,高校生との対話を重ねていく中で次第に自分に何ができるか,どういう役回りであれば自分が活きるかがわかってきたのではないかと感じる。勘ぐり過ぎているかもしれないが,こうしてようやく今年も良い形で進み始めている。
それも先輩のおかげだよね。彼・彼女らの積み重ねてきたものがあるからだよね。だからこそ,次を見据えた準備が必要だよね。
今日,学生とそんな話ができた。
そしてもう1つ。このプロジェクトを当ゼミ生だけでなく,信頼できるパートナーであったりするにはもう少し仕掛けが必要だ。学生がアントレプレナーシップ教育というコンテンツを使って学生が自分自身を磨き,中高生がそうした彼らをロールモデルにできる場所を作っていくこと。それが地域を支えるインフラにすること。そのためには先立つものが必要。では,それをどう作っていくか。価値を生み出していくか。
目指す場所はどこだろうか。これまでずっと考えてきたことをもっと自由に言ってみたら良いのだろうか。言霊ってあるだろうから。
これまでプログラムそのものの運営ばかり考えてきたけど,九州全県への拡大がほぼ確定した今,ちゃんとした経営計画と基盤を作ることを考えていかねば(えっ)。
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