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3人3様の特徴を引き出すことで成果を実現できる?|2023にちなん起業体験プログラム③

9月23日は秋分の日。あっという間に9月も最終盤に差し掛かろうとしています。

この日は本務校の専門ゼミでは毎年実施している創業体験プログラムの事業計画発表会。これは,ゼミの学年ごとに設立した(疑似)株式会社の設立後,投資家に扮した社会人の皆さんに大学にお越し頂き,学生の事業計画を聞いた上で資金調達を行う場です。

事業計画発表会の様子

どこに投資しようかと考えている投資家役の社会人の皆さん。プレゼン後の質問タイムではそれぞれの立場からそれぞれの視点で多くの質問を頂きました。学生からすれば,日々実際に経営の現場におられる方々から質問されるのですから,戦々恐々だったに違いありません(中には上場企業の副社長もおられます)。

そんな中に今回は先般授業に伺った北九州市立高校の先生が見学にお越しになられました。北九州市立高校は,今年度から校長が民間,しかも経営者出身者となり,当該先生曰く「動きやすくなりました。私みたいに何かやりたい人には。」(意訳)ということで,このプログラムから何かを学び取りたいということでした。学生と投資家役の社会人とのやり取りが本気であること,自分たちでやるからジブンゴトになっていること,多様な視点があるでしょうが,探究学習のコンテンツをさらに磨いていくために高校でできることはにかを考える機会を提供することにはなったようです。

さて,実はこの前に学生たちは1つ大きな仕事をしていました。それは「にちなん起業体験プログラム」の第3回授業。

ここに関わってくれている学生は,当日誕生日なのにわざわざオンラインで参加してくれたり,それぞれ忙しい中時間を見出して授業に参加してくれるなど,頑張り屋の3年生ばかり。こうした学生に支えられていることに本当に感謝しています。今回はその第3回授業の様子をお届けします。

なお,ここまで2回の授業の様子はこちらのマガジンを参照ください。

前回からの進捗報告

にちなん起業体験プログラムの授業構成は,月1回の週末に集まり,午前中は福岡からのオンライン授業,午後は商品開発や現地視察を行うというスケジュール。中高生からすれば非常にハードなスケジュールと言えるかもしれない。

今回3回目の授業日を迎えるこのプログラム。初回の理念・ビジョンから戦略策定,前回の計画策定=収益費用に基づく予算の話として,今回は組織がテーマ。すでに各地で実施している内容とほとんど重なる。

しかし,本プログラムでは事務局との調整の上で授業の順番を置き換えていること,参加者が中1,高1,高3と人数が少なく,バラけていることを考慮した内容にしているため,同じ内容でもできるだけゆっくり,わかりやすく,腑に落としながら授業が進められることが特徴だ。これも,ゼミOBが日南側の実施部隊として携わってくれていることもあるからだが。

さて,そうした裏事情はさておき,今回の授業では,組織云々の前に大事なことがどこまで決まっているかという進捗報告から行ってもらった。事前に前回の議論の結果見えてきた「売りたい商品」,「ターゲット層」について報告してもらった。

これは大学生も欲しいと言っていた

例えば,アイデアがいくつか。日南を代表する観光地をあしらったトートバック。この画像はモアイ像をデザインしたものだが,全体的に力が入っているというよりも緩めなのが特徴。

あるいはこうしたトートバッグの中に,もう1店舗ご協力頂く焼き菓子屋さんの商品を入れてセットで販売するなど,(原価がそこそこ高くなってしまうから仕方がないが)(日南の中では)高価格帯を狙う感じだろうか。よくよく話を聞いていると,差別化をしたいのか,コストリーダーシップ戦略を取りたいのかが判然としない場合もあるが,参加している生徒それぞれが「こうしたい」という明確な意志があるのが良い。

今回は飫肥にある施設での授業。昭和っぽい雰囲気だが,オンラインです。

恐らく事務局が相当手厚くサポートしてくださっていることもあるが,回を追うごとに大学生と参加している生徒たちのコミュニケーションも円滑になってきて,マルシェに向けて「やるぞ!」という意欲が見えてきた。兎にも角にも,参加生徒側の意志の有無はとても大事。最初からやる気がなくても構わない。が,少しずつ火が点いて,気づいたら限界突破してたなんてことが起きるのが理想。徐々にその雰囲気が見えてきた。

今回の授業:組織,志向性,リーダーシップとフォロワーシップ

そうした中での今回の授業は,組織,志向性,リーダーシップとフォロワーシップといささか盛りだくさんの内容。それぞれを細かく喋りだすと切りがないのだが,このプログラムでは「組織」を意識しづらい高校生たちに,組織的に活動することの意義と,そこで自分の持つ志向性をどのように発揮できたら良いのかという話をしている。

組織は目的思考的である。

ここまでの授業は「企業」という組織を相対的に捉えて,「企業がどのように活動をしているのか」を理解することに重点を置いておいたところから,今回はその組織と自分という個人がどう関わっているのかという観点を導入するというイメージ。

組織の3要素

なので,まずは基本的な内容として,バーナードが言う組織の3要素を説明する。組織には,共通目的=方向性,協働意欲=ともに働こうとする意志,コミュニケーション=情報共有する手段が必要だと。これを中高生に理解してもらう例として部活動の話をする。で,ここが授業を行っている上で感じることだが,部活動や生徒会で日頃から組織成員の動向を気にしながら,いかに成果を実現するかを考えている生徒と,そうではない生徒との間に明確な理解度の差があるように感じている(良い悪いという話ではなく)。

ただ,1人でできることと,周りの協力を得て初めてできることがあるということを知っておくことが重要だということを伝えたいに過ぎない。

その上で,今度は個人にフォーカスする意味でDISC分析を実施してもらった。で,毎回の授業がそうであるように,このDISC分析がだいたい盛り上がる。

DISC分析とは何か。

今回参加してくれている中高生は,中1がS,高1がI,高3がCとキレイに分かれた。普段の対話の様子から見ていて「これかなぁ」と思っていることが当たるのだから怖い(が,当たるからどうでもいい話でもある)。

そして,これをもとに強みや弱みを自分なりに分析し,組織(今回の場合はプログラムの販売機会)に対してどう貢献できるかを考えてみよう,ディスカッションしてみようというワークを行う。このプログラム全体を通して,高校生へのアントレプレナーシップ教育という観点から言えばこのグループワークが一番大事だと言えるかもしれない内容だ。

ちょっとしたワークなんだけれども,自分と他人は違う,自分の強みはここ,自分の弱みをカバーしてくれる人はこのタイプの人と気付ける機会になる。ここで自分なりの言葉で自己開示ができた人と,「めんどくせ」「なんだよ」と露骨に態度に出る受講生がいる。思春期の難しい時期だから仕方がない部分でもあるが,(この流れにうまく乗せられるかどうかは教える側の技量が大きいことは当然のことながら)ここをキッカケに大きく変化する生徒がいるというのも事実。

DISC分析は個人と組織を相対化するためのツールとして使っている

そうして自己開示をした上で,次に問いかけるのがリーダーシップだ。

概ねどこでもそうだろうが,リーダーシップは過大に評価されている。リーダーは役割に過ぎないのに,何でもかんでも万能であることを求めがちだ。いわゆる「責任」というやつだ。が,そういうことを期待しているのではない。リーダーをリーダー足らしめるのは,組織成員がいるからであり,そのフォロワーシップをいかに発揮しやすい状況を作るかが重要だと。組織はリーダーだけで成り立っているのではなく,フォロワーもいて初めて成り立つのだと。

ゼミにおけるリーダーシップとフォロワーシップという考え方を基礎に。

となれば,組織の中に役割分担,階層があるのだとすれば,それを前提にしつつも,機会に直面した誰かがリーダーシップを発揮し,周りを巻き込みながら局面を打開しようとし,一方で(意志の有無に関わらず,しかし自分の持つ能力を発揮しながら)リーダーをフォローしながら成果を実現しようと能力を発揮しようとする人間がいても良い。前者をリーダーシップ,後者をフォロワーシップと呼ぶのであれば,どのような立場でもそれぞれを発揮できるような状況を常に作り出しておくことが大事だろうというメッセージをここで伝える。

ここでアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスに戻るのだが…

そうして,ここで個人が持つべきアントレプレナーシップとの話をもう1つの軸として追加する。「一歩踏み出す勇気」,「限られた資源を活用して機会を追求する」と(当ゼミあるいは本プログラムで)定義づけているアントレプレナーシップは,個人が持つべき心がけという位置づけで説明をしている。要するに物事に対してジブンゴトとして向き合えるようにしようという投げかけだ。

ここに今までの話を織り込んでいこう。よくある組織のあり方として,意欲的なリーダーと消極的なフォロワーがいてとか,ワンマン経営者だとか,組織成員の意欲がないとか言われるが,そういうものがなぜあるのかという疑問に答えることにもなる。

そもそも企業というのは付加価値を創造し,価値を分配することを1つの目的としつつ,それによって創り上げたい世界のあり様を実現するための組織体でもある。そこで働くということは,その目的に同意していることと等しいとも言えるだろう(これの前提が正しいかどうかは要検討だが)。さらに言えば,そこで何かの目的実現のために働くという行為そのものがアントレプレナーシップを発揚する1つの方法だろうと考えている。

アントレプレナーシップ=起業家精神=起業家が持つべき考え方とだけ短絡的に考えてしまうと,それはリーダーだけが持つもの,特別な人がだけが持つものとなってしまう。

が,わたしたちはそうは考えていない。立場に関わらず,誰もが兼ね備えるべき志向性の1つとして,アントレプレナーシップを捉えているからだ。

ここで改めてグループディスカッション。

と前段が長くなったが,高校生には協同でプロジェクトに関わることによって,自分がどう人と関わり,役割を果たし,組織的成果の実現に向けて自分にできることをしていくのかを考える機会にしてもらいたいということ。

大学生になるとできない理由に「意識が足りませんでした」という謎ワードが出てくることがあるが,できる,できないに「意識」は関係ない。コミットできないならできない理由があるし,コミットしててもできない理由が存在する。できるだけ前向きに自分の身の回りのことを考え,前向きな人と協力して活動を進める方が生産的に違いない。

そして,このプログラムに参加している3人について言えば,十分にそれを理解しているように感じられた。学校でやるプログラムと違って,この3人は自分の意志で休日を潰してまでも参加してくれている。その上で,少しずつプログラムの面白さに気づいていて,会うたびに互いの理解が深まっているように感じている。今回の授業もその一助になっていたのではないかとすら感じる(かなりのお手盛り解釈)。

授業後の日南では協力店舗さんとの交渉が

というポエムを書き散らかしておいて2時間の授業は終了。大学生は福岡で創業体験プログラムに参加し,日南の中高生たちは昼食後に協力店舗さんとの打ち合わせに向かっていきました。

トートバッグの仕様を決めている様子。

それがどのように決定したかはわかりませんが,(発言内容は思春期男子らしくネガティブに聞こえる)前向き・楽観的なIタイプ男子を,安定的なSタイプ女子,データに基づいて根拠を見出したいCタイプ女子がうまく宥めすかしながらマルシェでの販売機会が進むことを期待。

今回は3人なので役職云々とかではなくて,それぞれがそれぞれで果たすべき役割をキッチリ果たすことができれば,良いチームとして前進しそうに見えている。変な色気を出すわけでもなく,大きな博打を打つというわけでもなく,緻密にビジネスを積み上げて行けそうな印象もある。

個人的には11/11-12の油津キャナルマルシェにはぜひ行きたいのだけれども,見事に出張と被ってしまって行くことができない。10月のさらなる商品企画会議のあと,本番がどのように進むかを楽しみにしたい。

ふりかえり

個人的なことで恐縮だが,前回投稿(熊本県立菊池高校)のあと,3日間喉の腫れのために授業を行うことができず,この日もほとんど声が出ない状況であった。今日(この投稿を書いている9/24)になってようやく声が出るようになったが,体調は万全ではない。恐らく,関わってくれている学生にも相当無理をお願いしているし,そんな中でも前向きに取り組んでくれている人がいることに感謝している。いつものことながら。

一方で,自分にできる範囲で,自分のできることを,組織目的を果たすためにやる=成されるべきことを成せば良いとも話をしているのだが,ここに変な感情的な話が入ってくるからややこしくなる。いやむしろ,そうした感情抜きに話をするから,受け止める側にはしんどいのかもしれない。

3年生も後半に差し掛かって,それぞれの進路も気になるし,自分のことに時間を割きたいという気持ちは理解できる。が,果たしてそれが本当に身になることをしているのだろうか。

(これはかなり偏った見方であることは承知の上だが)よっぽど教壇に立って,(リスクと不確実性の塊である)教室にいる生徒に向かって授業をしていることの方が自分の力量を知ることになる(に違いない)。その機会で自分をどこまで高めて,ブレイクできるか。授業を依頼してくださる学校側は,完璧に授業してくれることを期待しているわけではない。大学生が持っている視点を高校生に伝えるという行為を通じて,高校生だけでなく,教員自身のモノの見方の歪みに気付けるよい機会になっているということを忘れてはいけない。

一方で,だんだん教壇に立つ怖さにも気づいてきただろう。どれだけ準備をしても,どんな手を打っても,満足できる授業は少しでもできそうにない。当たり前だ。顧客は自分の言うことなど,そんなに気にしない。価値があるかないかだけで考えている。いや,もしかしたらもっと低いところで比較されているかもしれない。「面白いか,面白くないか」「格好いいか,格好よくないか」「聞く意味があるか,ないか」とか。そういう厳しい評価に晒されるなかで,学生は彼・彼女たちに何を残せるかというチャレンジをしているとも言えるかもしれない。販売活動だったら買わないという意思表示で終わるが,授業をするという行為はそれだけで終わらない。それが「教育」という商材の持つ面白さであり,難しさだ。

2023年度に入り,さまざまな場所で授業をするようになって気づくことではありますが,「にちなん起業体験プログラム」に関わることで見えてくる世界はまた違うなということに気付かされた1日でした。

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