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「3回目」の起業体験プロジェクトの始まり|2024スプラウト壱岐商業高校①

今年度も旅が始まった。アントレプレナーシップ教育を媒介に各地を巡る旅が。

2024年度の活動は、現時点で福岡2、熊本2、長崎1、大分1(3都市合同プログラム)、鹿児島1の合計6プログラムが決まっていて、この他に1-2箇所追加される見込み。昨年度は宮崎,今年度は熊本が加わったことで,九州では残るところ佐賀のみ。目標にしていた九州全域制覇に近づきつつあります。

2022年度から九州・沖縄・山口の国公立大学と主要私立大学を中心に"PARKS"というアントレプレナーシップ教育のコンソーシアムが立ち上がり,2023年度からは高大連携教育の推進として文部科学省から支援が行われるようになりました。これが2024年度からは本予算となり,向こう3年間は資金的な裏付けを得ながら安定的な運営ができるようになりました。

だから,こんな動画も作りました。私の拙い文章では伝わらない,熱量や高校生と大学生の学びがどう創られているのか。ぜひ御覧ください。

こうして順調に見える一方で,運営面には相当な工夫が必要です。2019年にスタートした時は当然ながら1校だったものが,今や6プログラムに。これをゼミ中心期3年生だけで回すのは難しい。そこで,今年度からさらに各地に拡がるスプラウトの活動のために進め方を見直すことにしました。昨年まではプロジェクトとして、あるいは中心的に関わる意思のあるメンバーを中心にメンバーを組織していましたが、その後の学生の成長度合いを見るに、拡大基調であることと合わせてゼミ全体で取り組む活動に切り替えることに。

また「おおいた起業体験プログラム」で得た経験から、他地域の大学生と連携しながらプログラムを進めることで、さまざまなアイデア、視点が得られるし、何より学生同士のコミュニケーションの幅が拡がる。いかんせん「忙しい」が付きまとうこの活動だが、高校生、大学生ともに学ぶことで得る成長の凄まじさを考えれば、意味がある活動だと考えています。

今日はその第1弾として、壱岐商業高校での1回目授業の様子をお届けします。ぜひご一読ください。

なお,過去2年間の取り組み様子はこちらのマガジンをごらんください。

久しぶりの壱岐へ:新たな学生との旅立ち

壱岐へ向かうには,いつも博多港8:00に出発する高速船に乗る。そのため,自宅を7時過ぎに出発するが,今回同行する5人の大学生のうち,4人は大学近辺に在住していることもあり,私の自宅に集合した。これまではタクシーで現地に向かっていたが,改めて近隣駐車場を調べると,1日止めて800円とタクシーの片道の半額以下。ならば,私の車で行こうと6人で博多港に向かう。

ゼミの活動として行くにしても,壱岐で講義をするのだから仕事と言えば仕事。よくよく考えれば不思議な光景だが,誰もがしっかりと集合して集まるのが当ゼミの学生らしい。7:30頃博多港に到着。適宜チケットを確保して乗船。

毎度おなじみ。博多港停泊中のジェットフォイル。

今回はあいにくの曇り空だが,波はそれほど荒くもなく,順調に航行。70分で壱岐・郷ノ浦港に到着。すぐにレンタカーを手配し,近くのスーパーに行く。

スーパーでは学生に壱岐の人々の暮らしや食材,どのような産品があるのかを知ってもらうためにしばし見学。すると,男子学生3人が魚コーナーをずっと見ていた。どうやら朝釣り上げられた魚がそのまま置いてあるのを見ていたよう。ただ,私はその隣りにあった「ヨコワ」398円が気になってしまう。明らかに生の状態で捌かれたばかりの新鮮な魚。これに御飯と味噌汁を調達して食べたら,みんな美味いと言うのではないかと購入してみた。

打ち合わせ会場に到着後,6人で魚を頬張る。うまい。やばいの連呼。写真を取り忘れたのが残念だが。壱岐の海の幸を堪能。さすがに大分や宮崎出身の学生にはその味わいが普通,いや地元で食べる魚という感覚だったようだが,壱岐という場所が少しは身近に感じられたのであれば嬉しい。福岡という都市で暮らすことと,どこかで自分に刻まれている「自分たちの地元」という意識が交錯するのでもよい。

改めて地方都市でなぜアントレプレナーシップ教育なのかを考える機会になったのであれば良い。

ランチは定番ととろで。火曜日の壱岐は閉まっているレストランが多め。

打ち合わせの後,芦辺の「ととろ」で毎度おなじみのランチを頂く。私はハンバーグ一択なのだが,学生たちはそれぞれめいめいが食べたいものをチョイス。授業を担当する学生とこのプロジェクトリーダーは緊張していたが,その他の学生は他愛のない話をしながら,食事を頬張る。刻一刻と講義の時間が近づく。

勝本浦のわたしたちの思い出の場所は小学生のペインティングで可愛らしく。

それでもまだ少し時間があったので,過去2年マルシェを開催してきた勝本浦を訪問。商店街を歩き,お土産物屋で地元物産を見つつ,歩いていると声をかけられる。以前,ここでマルシェを行う際にお願いに上がり,この3月まで壱岐商業高校に娘さんを通わせておられた漁師さんと再会。恐らくSNSでご覧になられていたのだろうが,まさかここで声をかけてくださるとはとても嬉しく。壱岐に通い始めて3年。ご縁を感じる。

そんな出会いもありつつ,大学生には街を歩きながらこのような場所で高校生と何をするのかについて想像力を働かせてもらう。昨年のマルシェですでに訪問経験のある学生もあるが,今年はまだここでマルシェができるかどうかも見通しが立ってはいない。

そうこうしているうちに13時に。いよいよ壱岐商業高校に到着。

21世紀枠県代表になった離島連合チーム

私も昨年夏以来の訪問だった気がする。久しぶりに高校へ来た。外観は変わらないが,飾られている賞状が新たに1枚加わっていた。

実は壱岐商業高校,昨年秋の県大会で快進撃。離島で連合チームであるにも関わらず,ベスト8まで県大会を勝ち上がり,見事春のセンバツ「21世紀枠」の長崎県代表に選出された。残念ながら九州では鹿児島の進学校,鶴丸高校が選ばれたが,それでも島のみなさんの希望になったに違いない。

そんな話題からスタートして今年の活動予定と今日の授業の流れを確認。3年目となり先生方との打ち合わせは確認程度で終わったが,学生たちは授業のことが頭にチラついてそれどころではない(笑)。果たしてどうなることやら…。

いよいよ2024年度スプラウト最初の講義がスタート

そして13:30。いよいよ壱岐商業高校での2024年度「スプラウト」第1回講義が始まった。今回授業を担当する女子学生は昨年度も福岡女子商業高校での講義に参加していて,どのような要領で講義が進むかは概ね理解していただろう。しかし,いざ自分でやるとなると違う。しかも,自分とはバックグラウンドの違う高校3年生7名(今年もこのプログラムには10名参加するが,資格取得のため1学期中はそちらに専念)を前にして話すのは緊張感がある。自分で話しながら緊張を解しつつ,講義がスタートした。

前半は学生パート

今日は50分授業が2コマ。前半は大学生から,後半は私が授業を行う。

学生と高校生の初めての出会い。

まずは自己紹介からスタート。大学生が誰なのか,どんなことに興味があるかを伝える。次に高校生…,と思いきや当初の予定ではグループ分けでアイスブレイクをしてみたいな展開だったが,あっさりグループ分けが決まってしまった。しばしゲームを楽しみながら,高校生と大学生の対話のキャッチボールが続く。

事前課題の確認と共有。

続いて,事前課題動画に基づく予習,そしてその確認へ。ここ数年定番になっている「桃太郎」を使ったアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスの話。そして,自分たちの日々の生活の中でこうした考え方が発揮される場面を想像しながら,アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスが身近にもあることを感じてもらう。

もう片方のグループ。

3年目を迎えた本プログラムだが,大学生と高校生は毎年入れ替わるので,それぞれが全く始めての体験をする。そして,大学生,高校生それぞれが持つパーソナリティと他者に対する興味関心が行き来していくなかで,次第に関係性が構築されていく。まるで「ナラティブ」ができあがっていくように。しかし,彼・彼女たちの間にある余白は大きくて,距離が遠いがためになかなか交わることがない。話はするし,コミュニケーションが取れてはいるけれども,まだまだ余所余所しさが残っている感じ。

それでも,進学希望,特に大学への進学希望が多い今年の高校生たち。気を使って自分たちが考えてきたことを話してくれたこともあって,授業はつつがなく終了。もちろん,大学生が初めてとは言え,安定感と彼女自身のキャラクターがにじみ出る授業を進めてくれたことで,高校生もじっくり理解できたのではないだろうか。

後半はこのプログラムの意義を改めて確認する授業に

後半は私からの講義。毎年,そして他の地域でも定番でお話をする「会社は『まち』を豊かにする道具」というテーマで50分の授業に臨んだ。

やはりデカい。私。

まず,ビジネスは私たちの生活に身近にあることを伝える。しかし,高校生はまだ自分たちが消費者的な目線で,安いことが良いことだと考えがち。そこで企業の目的は何か,利益を何故企業は必要とするのかを話していきながら,生み出した付加価値を分配する機能に着目をして話す。そして,企業は存続し,将来への投資を行うために利益を必要とすること,付加価値を最大化することでさまざまな利害関係者が豊かになる可能性があることを伝える。

拡大再生産をすることが企業の重要な機能だという話。

中には宮崎・日南でお世話になっている田鹿さんの記事を引き合いに出し,地元から生まれ出た商店・企業こそが地元に価値を分配しているんだという話をする。ぜひ下記記事をご一読いただきたい。

実は休み時間中に大学生は高校生と仲良くなるために立ち話をしていたのだが,そこで高校生が壱岐で欲しいものに「ラウンドワン」を挙げていた。確かにそうした遊ぶ場所が欲しいというのはわかる。しかし,そうしたサービス業が地方に展開することで,地方で生まれた価値が吸い上げられてしまうという問題点もある。そこで,「どこから収入(売上)を上げて,その生み出した価値をどう分配すれば,壱岐が豊かになるのか。これを考えることがこの授業の目的だよ」と伝えた。

後ろで授業を聞く大学生たち。

そして,それがどうやって起きているか,どうすれば自分たちで価値を生み出すことができるかを実践することがこの授業で大切にしていることだとも伝えた。そのために,事業機会の探索をし,あなただけが知っている真実にたどり着くことが必要であることも。

高校生たちの目は見開いてきたように感じた。最初は難しい話だなと思っただろうが,自分たちが生み出した価値が他の人を豊かにする可能性があることを知る。そうした1つ1つの経済活動が見ず知らずの他人と繋がっていることを知る。彼・彼女たちは簿記や商業系の授業を通じて多くを学んでいるに違いないが,そうした技術や知識を身に着けた先に何があるのかを考える機会にはなったのではないだろうか。

そして,これから半年間,大学生は講義を作る側で,高校生は講義を聞く側で,さらには双方が協力しあってマルシェという実践の場を創り出すことで多くを学ぶに違いない。

これまたいけない癖だが,今回も余談が過ぎて授業時間を3分超過してしまった。しかし,外で待機していた別の授業を受けていた高校生が「いいなぁ。面白そう。私もこっちに参加したい!」とポジティブなコメントをしてくれたのは正直うれしかった(笑)。また,帰る船に乗る直前に先生から「今日の授業,生徒たちも楽しいと言っていました」という嬉しいコメントを得て,こちらの意図が伝わっていたのかなという実感を得ることができた。

こうして第1回の授業は終了。帰りしなに玄関で校長先生にご挨拶をして,帰路につくことにした。

ふりかえり

授業後は乗船時間まで少しあったので,ふりかえりを行う場所として郷ノ浦の「睦モクヨンビル」1階にあるカフェへ向かう。向かいは温泉施設があって,私は気分転換も兼ねて短い時間だがお湯に浸からせてもらった。

その間,大学生は今日の授業のふりかえりを。どんな話をしていたのか,今後にどのように今日の経験を活かすかについてはまだ報告がないので不明だが,少なくとも毎年アテンドしてくださっているMさんには「今年の学生さんは雰囲気が明るいですね」(決して昨年度が悪いと言っているわけではなく)と言って頂いた。

細かいところを指摘すれば気になることは多々あるが,2024年度初回であること,学生が持っているキャラクターを活かして授業ができたことを評価しつつ,高校生にもだいぶ助けられたという話をした。

特に「学生の良さ」というのは評価が難しく,こちらはキャラクターをわかっているし,ある種の恥じらいが出てしまっているのだという理解も可能であるが,場を与えてくださっている学校側がどうそれを判断するかはわからない。決して適当にやっているわけではなくても,望ましさは顧客が決めるとすれば,学校や生徒がどう感じているかはとても大事で,そうした声を組み上げて授業に反映させることも忘れてはいけないかもしれない。

こうして今年も「スプラウト」がスタート。そして,大型連休明けは今年度初めて「スプラウト」を導入する街に向かう。

そのキッカケはゼミOBからの声かけ。そして,その地域にある4つの高校に営業活動を行い,10人の高校生が集まることになった。

2020年7月。大きな水害に不運にも向き合うことになった熊本県人吉市。ここで新たに「スプラウト」が導入されることになる。ここにはまた異なるメンバーで向かう。10人の高校生と5人の大学生がどんな学びの場を創ることになるのだろうか。今から楽しみで仕方がない。

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